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月芝

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第十一の怪 かごめかごめ その三

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 第二編集部の企画会議にて――
 明智麟と松永美空の四年生コンビは、たったいま武田麗華から聞いた話に自分の体験談などを交えつつ、うしろの花子さんについて言及した。
 そうしたら「「あっ」」と同時に小さな驚きの声をあげたのは、上杉愛理と村上義明のふたりである。

「ひょっとして、アレって……」
「もしや、この前のがそうだったのか」

 愛理は部室でひとりいるときに、義明は体育館で不思議なことに出くわしていたという。
 五人しかいない第二編集部の部員のうち、三人までもがそれらしい現象に遭遇している。
 なによりあの武田麗華までもが、だ。
 たまさかや、気のせいとはとても考えられない。
 これはいかにも地元の都市伝説的なものを検証する企画にピッタリのネタであろう。
 だがしかし――

「集団ヒステリー・パニックの線も捨てきれないし、この件はまだしばらく様子見だな」

 愛理はいつものように即断することなく、今回は慎重さを示した。
 理由は、遭遇したかもしれないという証言があまりにも多すぎるからだ。
 第二編集部内だけで、六割に達する勢い。
 それすなわち外部――校内ではもっと多く、情報が伝播し浸透しているということ。
 証言の多さは必ずしも信憑性には直結しない。悪気がなくとも人はウソをつく。ときには思い込みにて自分自身をもダマす。
 こうなると神経質になるあまり過剰に反応したり、なんでもかんでもうしろの花子さんに結びつける者もきっとあらわれる。その者が興奮しては喧伝することで、さらにウワサがひとり歩きする。
 そこから先は悪循環にて、やがて群集心理に火がつき手がつけられなくなる。

 これを愛理は危惧した。
 ゆえに、うしろの花子さん関連の記事については、いったん保留とし、継続して情報を集めつつ様子を見ることが早々に決定する。
 でもそうなると次の企画をどうするのか、という問題が残るのだけれども。

「あー、それならば心配いらない。じつは赤松先生から……というか、これは学校側からの正式な依頼だな。次の号で取り上げて欲しいと頼まれた件があるんだ」

 赤松先生は第二編集部の顧問である。「まぁ、いいんじゃねえの」が口癖にて、生徒の自主性を重んじる放任主義、無精ひげがちょっとだらしない三十半ばの独身男性教師だ。
 そんな顧問の先生を通じて頼まれたのは、不審者情報と注意喚起であった。

 近頃学区内にて、下校中の女児に声をかけてくるサングラス姿の不審者がいるという。
 いきなり背後からドンとランドセルを押されて転んだ男児もいる。さいわい怪我はしなかったものの、なにげに怖い話だ。一瞬の出来事にて、驚きのあまり自分が何者かに突き飛ばされたと気づいた時には、すでに相手は失せていたという。
 同一人物の犯行かどうかはわからない。
 しかし同じ学区内にて同時期に発生していることからして、可能性は極めて高い。
 もしちがっていたとしても、それならそれで迷惑の種がふたつに増えるから悩ましい。

 学校側としては、警察にパトロールの強化を頼む一方で、あらゆるチャンネルを通じて保護者や生徒たちに注意を促すつもりでいる。
 その一翼を我ら第二編集部も担うのだ。
 もともと学級だより『エリマキトカゲ通信』はバリカタな紙面にこそ定評があるので、この手の記事はお手の物である。
 だから協力するのはやぶさかではない。

  ◇

 というわけで、さっそく詳しい話を聞こうと赤松先生のところへ繰り出した五人であったのだけれども、職員室内の空気がおもいのほかにピリついていた。
 先生方の表情やまとう空気が、教室でみせるそれとは明らかにちがっている。
 子どもにとって職員室はただでさえ緊張する場所なのに……五人は尻込みする。

 いったい何事?

 物怖じする部員たちを横目に、愛理が代表して理由を訊ねたら、赤松先生は頭をぼりぼりかきながら「これはオフレコにしてくれよ。じつは……」

 今朝方のことである。
 早番で登校した教師のひとりが、校内を点検していたときのことだ。
 校庭の隅にある飼育小屋の方へと足を運んだところで、違和感を覚えた。
 ヤギのパッソがいつになく興奮しており、猛っているではないか。
 それを「どうどう」と宥めつつ、ウサギたちがいる小屋の扉に目やったところで「おや?」と首を傾げる。
 鍵が壊されていたからである。
 不吉な想像をして教師は慌ててウサギ小屋の中をのぞくも、すぐに安堵した。
 ウサギたちはみな無事であったからだ。
 でも、現状からして何者かが強引に鍵をこじ開けて侵入を試みたのはたしかである。
 なのに断念した。
 その理由について本当のところはわからないけれども、教師にはなんとなく思い当たる節がある。
 パッソだ、おそらくはパッソが撃退したのだ。
 どうやら飼育小屋の暴君は、夜更けの侵入してきた不埒者に対して、ズドンと怒りの鉄槌を下し追い払ったとおもわれる。
 雄ヤギのいきり立ち具合からしても、教師にはそのようにおもわれた。

 未遂に終わったとはいえ、夜の学校に忍び込んではウサギ小屋にちょっかいを出そうとした者がいる。不審者の目撃情報もある。
 教師は「えらいこっちゃ!」と、報告すべく校舎へときびすを返した。


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