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第九の怪 貝吹き坊 その六
しおりを挟む連絡を受けて麟と美空は現場へと急行する。
編集部員らのなかでは自分たちが一番近いところにいる。
ほどなくして麟たちの耳にも豆腐屋さんのラッパの音が聞こえてきた。
ピィ~~~~♪
プゥ~~~~~~♪
ラッパの音がどんどん大きくなっていく。
対象に近づいているのだ。
いよいよご対面か?
そう期待したのだけれども――
音の聞こえる方へと向かっていたふたりが、十字路のところへと差しかかったところで、肝心の音がふつりと聞こえなくなってしまった。
とおもったら、ばったり行き合ったのは別方面から駆けつけたイベント参加者たち。
自分たちと同じくラッパの音を追いかけてきたのだという。
鉢合わせした人たちは十字路の北の方からやってきた。麟と美空は東からだ。
だとすれば、豆腐売りは西か南方面を移動中ということになるはずなのだが……
「えっ!」
「そんな……、どうして?」
西と南の方からも別班が息せききっては、こちらへと走ってくるではないか。
つまり豆腐売りはそちらにも向かってはいないということである。
十字路の真ん中で、四つの班は顔を見合わせることとなり、居合わせた全員がきょとんとなった。
「たしかにこっちの方からラッパの音がしていた……よな?」
「うん、そのはずなんだけど……」
「え~と、気づかないうちに途中ですれちがったとか」
「いや、リヤカーを引いた自転車なんて見ていないぞ」
「ママチャリのおばちゃんなら見かけたけど」
「どこか脇道あったっけかなぁ」
イベント参加者らが戸惑っているのを横目に、麟と美空はひそひそ。
「ねえ、ソラちゃん。何かそれっぽいの見た?」
「ううん、リンちゃんはどう? わたしは念のためクルマとかバイクにも注意していたんだけど、移動販売らしいのはいなかった」
ラッパの音が聞こえた場所へと急行するも、十字路へと追い詰めたとおもったら、いなくなってしまった。
不可解な現象に、みんなは一様に首を傾げている。
そんなみんなをさらに困惑させたのが、直後に入った連絡であった。
『豆腐屋があらわれた。現在、富田町二丁目を東方面へと追跡中』
この新情報に麟と美空はおもわず顔を見合わせる。
なぜなら現在位置とは、玉川小学校を挟んで真逆の場所であったから。
たったいままで、すぐそばに居たとおもっていたのに、いつの間にやら遠くにいる。
普通に考えればこの状況、豆腐売りが単独ではなくて複数いて、こちらはたまたま見失ったということになるのだろうけど……
包囲網を狭めるべく、十字路に居合わせたイベント参加者らは新たな出現ポイントへと向かう。
麟もいっしょになって向かおうとしたのだけれども、その袖を掴んで「ちょっと待って」と止めたのは美空であった。
「いままでのパターンからして、たぶん無駄足になる。ここは少し様子を見ましょう」
音はすれども姿は見せず。
そんな不思議な相手を追って、姿を確実に捉えるには冷静になる必要がある。
美空の意見に、麟ももっともだとこれに従った。
◇
四年生コンビはあえて包囲網に参加せず。
大捜索から距離を置き、ふたりきりにて最寄りの公園のベンチに陣取り、地図を相手ににらめっこしている。
そうしている間にも、美空のスマートフォン経由にて次々と続報が届く。
すると案の定であった。
ピィ~~~~♪
プゥ~~~~~~♪
ラッパの音が聞こえるたびに、「それっ!」と殺到するのは近くに配置されていた班員の子どもたち。
けれども、いざ駆けつけてみたらそれらしい姿はどこにもなし。
「なんで?」「どうして?」
キョロキョロしていたら、今度はぜんぜんちがう場所にあらわれたとの一報が入る。
同じようなことがあちらこちらで起こったもので、現場は混乱に陥っていた。
明らかに翻弄されている。
いや、もしかして遊ばれているのか?
この事態をどうにかしようと、愛理や義明、翔らは「いったん落ちつけ」と指示を出しみんなをなだめようとするも、動揺し興奮している参加者らの耳にはいまひとつ届かない。
ここにきて寄せ集めの即席集団のもろさが出た。
その騒ぎに巻き込まれていなかったのは、麟と美空の四年生コンビのみ。
出現したという連絡が来るたびに、ふたりは手にした地図に赤いペケ印をつけていく。
すると見えてきたのは、ある法則であった。
どうやら例のラッパの音は、北にあらわれたとおもったら次は南に、東にあらわれたとおもったら、次は西にといった具合に、囲まれるとするりといなくなっては反対側にあらわれているらしい。
そうとわかれば、次に出現するであろうポイントを予測するのは簡単だ。
麟と美空はコクンとうなづき合うなり、向かったのは芥川沿いの土手であった。
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