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第九の怪 貝吹き坊 その三
しおりを挟む音はすれども、姿は見えず。
豆腐売りの姿を追って、放課後に町中を彷徨うこと二日目。
ピィ~~~~♪
プゥ~~~~~~♪
「あっ、いたっ!」
「向こうから聞こえた!」
音がする方へと駆け出したのは、麟と美空の四年生コンビである。
麟が先をいく。少し美空が遅れているのは、駆けながらスマートフォン片手に仲間へと電話をしていたからだ。
『上杉先輩、いました。ただいま土手沿いを四丁目方面に追跡中です』
『対象の姿は撮影できたか?』
『いえ、あくまで音が聞こえただけで、姿はまだ確認できていません』
『そうか、わかった。こっちはいま赤大路の交差点付近にいる。すぐにそちらに合流する。義明と翔の班には私から連絡を入れておくから、おまえたちは追跡に集中しろ』
『了解しました』
第二編集部の五人は、四年生コンビ、上杉愛理、村上義明と里見翔という三班に分かれて捜索中である。
なお、どうしてこの班分けになったのかというと、それはスマートフォンの所持の有無であった。
美空と愛理と翔は持っているが、麟と義明は持っていない。
いざというときに連絡を取れるように、この組み合わせにした。
にしても、捜索二日目にして発見されたのは幸先がいい。
これは楽勝かとおもわれたのだけれども、そう甘くはなかった。
――追跡は失敗した。
懸命に走っているのにもかかわらず、豆腐売りのラッパの音はじょじょに遠ざかるばかり。
おもいのほか移動速度が速い? 途中で止まった形跡もなし。本当に商売をやる気があるのか、はなはだ疑問である。
残念ながら、仲間たちと合流した頃にはすでに見失っていた。
◇
捜索三日目。
前回の失敗を教訓として、今日は各自自転車を用意して、追跡に臨む。
ただしヘルメット着用と交通ルールの遵守、安全運転をしっかり心掛けて。
追っかけるのに夢中になるあまり交通事故などを起こすのは、ダメ絶対!
が――意気込みも虚しく、この日は豆腐売りのラッパの音が聞こえず。
待ちぼうけとなり、じきに日が暮れてきたものでタイムアップ。
第二編集部の面々はすごすごと引き下がることとなった。
そして、この頃になるとみんなはなんとな~く気がついてしまった。
今回の取材、楽勝どころかたぶんひと筋縄にはいかないということを……
捜索四日目。
驚愕の情報を持ち込んだのは編集長の愛理であった。
昼休みに急遽部室に集められた一同の前で、愛理は言った。
「気になってちょっと調べてみたんだが、やっぱり変だぞあの豆腐売り」
何が変なのか?
そもそもの話として玉川小学校のある界隈には、豆腐屋さんがない。
十五年ほど前までは駅前の商店街にあったらしいのだけれども、原材料の高騰、売上の低迷と店主の高齢化にともない店を畳んでしまったという。
では町の外からやってきているのかといえば、それにも疑問譜がつく。
というのも、周辺の市町村にも豆腐屋さんが存在しないのだ。
四つほど駅をまたいだ先に一軒あるが、確認してみるとそこは移動販売はしていないとのこと。
自転車にてリヤカーを引いての移動、それも扱う商品が豆腐ならば、これをためておく水も必要だから、総重量はかなりのモノとなる。
商品もデリケートにて、優しく扱わないといけない。
とどのつまり、愛理が何を言いたいのかといえば……
「あの豆腐売りは、いったいどこからやって来ているのか?」
ということである。
そこで放課後までの間に、愛理が部員たちに命じたのは各自クラスや学年で豆腐売りについての情報を集めること。
見かけたことがある者、実際に豆腐を買ったことがある者など。
さいわいなことに、部員たちは上は六年生から下は四年生までいる。
手分けして当たれば、なんらかの情報がきっと得られるだろうとの目論みであった。
だがしかし――
これまた空振りに終わった。
ただのひとりも証言する者がいなかったのである。
いかに全校生徒数が全盛期の三分の一にまで減ったとはいえ、これはちょっとありえないだろう。やはりおかしい。
郷愁を誘う豆腐売りのラッパの音。
都市伝説の類から離れて、ひさしぶりに真面目な企画をと考えていた第二編集部であったが、なにやら雲行きが怪しくなってきた。部員たちも困惑を隠せない。
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