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月芝

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第七の怪 雛形パークの幽霊屋敷 その三

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 お昼まで自由行動となった。
 義明と千夏ら村上兄妹と、明智蓮の三人はイベント会場にて魔女っ娘戦隊ヒーロー展を見てまわり、特設ステージでのヒーローショーを堪能する。はじめのうちはちょっとギクシャクしていた蓮もじきに馴染んで、いっしょになって楽しんでいた。

 ひとりで園内の絶叫系のアトラクションを巡るのは里見翔だ。
 ジェットコースターを筆頭に、五十メートルもの高所からガクンと急降下しては落差を楽しむフリーフォール、ひたすら急カーブと激しいアップダウンを繰り返す四人乗りのミニジェットコースーターのようなクレイジーマウス、滝下りにてざぶんと水に飛び込んでは濡れるのを楽しむアトラクション、二十ほどの座席が設置された大きなお盆がダイナミックにグルグルしながらスイングまでしちゃうアトラクション、チェーンに吊り下げられた椅子に腰かけぐりんぐりん回される空中ブランコのようなアトラクション、大きな船が豪快にスイングするバイキング、大きなカーペットが豪快にスイングする空飛ぶカーペット……などなど。
 ちなみに、ゾクゾクわくわく、スリルを求める人の心理は、精神の安定とストレスの解消なんだとか。
 ――翔もアレでいろいろとため込んでいるのかもしれない。

 園内でも奥まった静かな区間にて展示されている、菊人形展を見てまわっているのは上杉愛理である。
 ひとり静かに、ゆっくり歩いては、一体一体をじっくり鑑賞する。
 菊人形のことを何も知らぬ者ならば、花衣を着たマネキンのように映るかもしれないが、制作の内訳を知っている愛理は、いちいち感心しては、さりげなく施されている熟練の技の数々に目を見張りつつ、ちょうど盛りを迎えている菊の花の香りに癒されていた。

 一方で美空と麟は目当ての蝋人形の館へと到着し、さっそく中へと入った。
 平日の午前中という時刻と、渋い見世物ということもあって、来館者は彼女たちのみ。
 貸し切り状態にて、静かな館内にふたりの少女の足音がよく響く。
 蝋人形を飾っているので、館内はしっかり空調管理がされており、ほどよく涼しくて快適。

 じつは蝋は温度に対して、意外と耐性がある。溶けはじめるのは六十度から。
 人形に用いられる蝋は特製のものにて、オイルや脂肪などの成分を混ぜ込んであるから、より硬くて頑丈だったりする。 
 だから、ここまで管理に気を配る必要はないのだけれども、一体の制作費用を知れば、粗末に扱えないことにも納得するだろう。
 モデルや制作者にもよるのだけれども、某大人気スパイ映画シリーズの最新作公開タイアップ企画として制作された蝋人形は、一体なんと! 5万ポンド(約二千七百万円)だったそうな。
 もちろん雛形パークの蝋人形の館では、それほど高額な品は扱っていない。
 とはいえ、けっして安くはない。
 でもって館内には歴史的偉人や映画スター、動物などを模した人形が、百体以上も展示されている。

 ほら、そう考えるとゲンキンなもので、しなびて埃をかぶった館が、とたんに札束がうなっている金庫のように見えてくるから、とってもふ・し・ぎ。

「っていっても、ほとんどの人形はタダ同然で譲ってもらったって話だけど」

 順路に沿って歩きながら、美空は肩をすくめる。

 かつては日本各地にあった蝋人形の館であったが、時代の変遷とともに人々が興味を失い、次第に姿を消していった。
 だが閉館するとなると、困るのが人形たちの始末だ。
 たしかに価値はある。作るのに手間もお金もかかっている。
 でも需要がない。一体二体ぐらいならば好事家が気まぐれで引き取ってくれることもあるが、まとめてだとなかなか引き取り手がない。
 かといって迂闊に捨てたりしたら、「ぎゃー! 死体が捨てられているーっ」との騒ぎになって新聞紙面を賑わすことになりかねない。
 興行主が処分に困って頭を抱えていると、そこにスススと近寄り「だったらうちが引き取りましょうか?」と持ちかけたのが、雛形パークの関係者であった。
 とどのつまりは、各地で相次ぐ閉館のどさくさにまぎれて、相手の弱味につけ込み安く買い叩く――こほん、もとい救いの手を差し伸べたという次第。
 そんなことを繰り返したがゆえの、この充実のラインナップであった。

「へぇ、そうだったんだぁ」

 美空の話に麟は「なるほどねえ」とうなづく。「だからか……なんていうか、全体としてまとまりを欠いているというか、人形ごとに微妙に雰囲気がちがうっていうか」

 作られた時期や国、制作者の個性や腕の差が、こうして蝋人形をずらりと列挙することで素人目にも、なんとな~くわかるのだ。
 そんな人形たちを横目に進むことしばし、ようやくお目当ての生き人形が展示されている区画へと到着した。

 とたんに周囲の空気がピンと張り詰めたような気がして、ふたりはハッと息を呑む。

 驚嘆、仰天、震撼、戦慄、瞠目……そして恐怖。

 想像を遥かに越えた出来の生き人形たち。
 不気味の谷を越えたリアリティに、美空と麟は圧倒され立ち尽くす。


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