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第六の怪 女王からの挑戦状 その五
しおりを挟む市内に図書館は四つある。
ひとつは市役所に併設するビルの中に、ひとつは駅近くに、ひとつは北部の山側に、そしてひとつは南部にある市営の複合運動施設の一画にある。
第二編集部員たちが向かったのは、最後のだ。
プールやフィットネスジムに、バレーやバスケットのコートなどが集まった施設は、連日盛況である。そしてそんな場所にある図書館は、一面がガラス張りにて、とっても明るい空間なのが特徴だ。
薄暗く静謐に充ちた古き良き図書館の概念を覆している。
絵本や児童書コーナーが充実しており、幼児用のスペースも完備、ちょっとぐらい騒いでも誰も目くじらなんて立てない。
映画のDVDや音楽CDだけでなく、落語全集なんかも置いており、借りることができる。電子化された文献や資料なども専用の端末から閲覧できる充実っぷり。
図書館員たちもみな愛想がいい。
老若男女の分け隔てなく、ウェルカムな図書館である。
ちなみにガラスは特殊な遮光ガラスが用いられており、見た目こそはクリアだが、陽の光をしっかり遮断するので、本焼け対策もばっちり。
そんな図書館の入り口を前にして――
「さてと、みんなで固まって動くのもいささか効率が悪い。そこでここからはしばらく資料を漁る組と、中央公園に行く組とに分かれようか」
上杉愛理がそう言い出した。
そこで第二編集部は二手に分かれることにしたのだけれども。
図書館にて過去の新聞記事や古地図、資料などを当たるのを上杉愛理と松永美空が担当し、外回りの方を村上義明、里見翔、明智麟が引き受けることにする。
この前、学校の七不思議を調べた時のように、男女のチームに分かれても良かったのだけれども、誰しも向き不向きがある。
恵まれた体躯にて運動が得意な義明は、細かい文字を追うのは苦手だ。妹のために絵本を読み聞かせるのは苦にならないが、それ以外の読書はさっぱり。
翔は飽きっぽい性格にて、自分が好きなことには集中するが、それ以外だととたんにダレる。
麟はお話しを文章にまとめたりするのは得意だが、反面アンテナの感度が悪いらしくて、情報を集めたりするのは苦手だ。
その点、麟とコンビを組んでいる美空は情報収集が得意である。膨大な情報の海の中から、目当ての獲物をザクザク釣り上げる。
これらの面々を率いる愛理は、困難なほど燃えるタイプだ。
若くしてすでに頭角をあらわしつつある彼女は、大人でも目をそむけたくなるような大量の文字列を前にしても、なんら臆することなく挑む不屈の闘志の持ち主。
ゆえに、このチーム分けはある意味無難といえよう。
一時間半後にここで合流することにして、二組は別行動を開始した。
◇
図書館組――
「さてと、それじゃあ私は端末から当たるとするかな。松永はどうする?」
「わたしは市の歴史を探ってみます。たしかここには地元の研究家たちが書いた、郷土史の専用の棚があったはずなんで」
郷土史とは地方の歴史を調査研究したものをまとめた刊行物である。
全国各地に研究会があって、地元愛溢れる方々がせっせと活動している。なかには自費出版にてがんばっているところも多いが、熱心になるあまり個人の感情や思い込みが入っては、恣意的な拡大解釈をしたり、見解として成立しないこともある。
それゆえに研究成果を疑問視されるケースもまま。
だがしかし、人や町に歴史アリ。
いまを生きる自分たちの足下には、たくさんの過去という名の謎が埋もれている。
郷土史研究のロマンに魅せられる者は、いまもあとを絶たない。
たしかに玉石混合なのは否めないが、けっこう凄い発見なんかも含まれているから、これでなかなか侮れない。
うまくすれば、いまも活動している郷土史家から直接話を聞けるかもしれない。
という期待も美空にはあった。
「わかった。じゃあ私はむこうの端末のところに居るから、またあとでな」
「はい、またあとで」
愛理と美空は各々調べものを始めた。
一方、外回り組はというと、はやくも中央公園入り口へと到着していた。
なにせ施設と公園は五分ほどの距離しか離れていないもので――
「さてと、いざここまでやってきたはいいものの、どこから手をつけたらいいのやら」
「けっこう広いですからねえ、ここ」
眉をひそめる義明と翔に、麟が提案する。
「ほら、神社とかに行ったら、由来とか書かれた掲示板みたいなのがありますよね? ひょっとしたら、ここにも似たようなのがあるかも」
なにせお化け楠は、市の写真集に姿が残っていたぐらいだ。
園内に名残りを記すモノがあっても不思議ではない。
もしかしたら、わたしたちが気づいていなかっただけで、石碑とかもあるかも。
これは観光地あるあるなのだが、地元の人間ほど自分の住んでいる地域について興味がなかったりする。あまりにも身近で当たり前だからだ。ゆえにさして気にも留めやしない。
「ふむ、なるほど。言われてみればたしかにその通りだな。よし、まずはみんなで園内をぐるりと回ってみるか」
義明がうなづくと、「ついでに散歩中のお年寄りがいたら、話を聞いてみるのもいいかもしれませんね」と翔が珍しく建設的な意見を言った。
「おぉー! 先輩、それグッドアイデアです」
麟に褒められて、翔も満更ではない表情となったところで、三人は園内の散策を始めた。
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