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第五の怪 玉川小学校の七不思議 その三
しおりを挟む玉川小学校の七不思議、その一「消えた大鏡の怪」とは――
当校はかつては近県でも有数の生徒数を誇るマンモス校であった。
各学年、十クラス以上なんて当たり前。朝夕の登下校時ともなれば、学校の周囲の通りがランドセルを背負った子どもたちで埋め尽くされたほど。
そのため校舎もとても大きい。
というか、横長であった。
鉄筋コンクリートの建屋は六階建てにて、各階に学年を割り振っており、上から順に六年生、五年生、四年生……といった具合になっている。
おかげで廊下も長くて、端から端まで歩けば汗をかくほど。
そんな長~い廊下には、両端と真ん中に三つの階段が通っており、各階段の踊り場には一枚の大鏡が設置されている。
鏡を設置している理由は、安全のためなんだとか。
曲がり角や見通しが悪いところ、段差がある場所では事故が起こりやすいから。
それを防止する一助になっているらしい。
閑話休題。
ある日のことだ。
体育の授業を終えた六年生の男子生徒が、最上階にある自分のクラスまで戻るべく、おっちらおっちら階段を登っていたのだけれども、いざ六階手前まできたところで、乱れた前髪を直そうとするも、あることに気がつく。
「あれ? 鏡がない。どこにいったんだ」
鏡は体育の授業の前までは、たしかにあったはず。
それが消えている。
男子生徒は首を傾げるも、その時はさして深くは考えなかった。
だがしかし、次の日のことであった。
鏡が失せた階段の踊り場にて、生徒たちの黒山の人だかり。
何事かとおもえば、鏡のあった壁に奇妙な染みが浮かんでいるではないか。
それがまるで恨みの念にとり憑かれた女の幽霊のような……
七不思議の最初の舞台は、校舎の六階の隅っこであった。
六年生の上杉愛理はともかく、まだまだ小柄な四年生である明智麟と松永美空の足では、訪れるのもひと苦労する場所である。
で、いざ足を運んでみると、たしかにそれっぽい染みがある。
窓から差し込む橙色の陽射しと建屋内の陰影が相まって、なにやらおどろおどろしい。
「うわ、なんか気味悪いねえ」
「あら、そう? わたしにはただの黒カビに見えるんだけど」
麟は少しビクついているが、美空は「ふ~ん」といった感じ。
そして愛理はというと、まったく物怖じすることもなく、しげしげと染みを眺めては、やおらポケットから取り出したボールペンの尻の硬い部分で、ガリガリと削った。
「……ただのカビだな。おおかたどこぞにヒビでもあって、雨漏りしているんだろう。それにほら、ふたりともここを見てみな」
愛理が示したのは、壁のとある箇所。
黒く広がった染みのせいでわかりずらくなっているけれども、抉れて穴が開いている。
「たぶん壁の中で腐蝕が進んでいたんだろうね。それで設置されていた鏡は勝手にはずれて壊れたんだろう。このぐらいの大きさともなれば、ちょっとズレ落ちただけでも自分の重さで割れちまうだろう」
との愛理に見解。
つまり「消えた大鏡の怪」は不思議でもなんでもないということ。
でもって女の幽霊にように見える染みの正体は、パレイドリア効果みたいなものであろう。
ちなみにパレイドリア効果とは、意味のない対象に知っている意味を当てはめてしまう錯覚のことだ。
雲の形が動物や人の形に見える、壁の染みが動物の形に見える、「キャーッ、写真の中に不気味は亡者の顔が」なんていう心霊写真も大半がこれに相当するんだとか。
というわけで「消えた大鏡の怪」の検証はあっさり終了した。
幽霊の正体見たり枯れ尾花、ちゃんちゃん。
女子チームはいちおう写真を何枚か撮って、次なる七不思議の現場へと向かった。
次に調べるのは第二の不思議である「開かずの教室」
……はとばして、第三の「追いかけてくる足音」である。
どうして第二をとばすのか?
理由はズバリ、現在使用されていない教室が多すぎて、どれが該当する教室なのか特定できないから。
いや、ほら、昔はマンモス校だったけど、いまや生徒の数が全盛期の三分の一にまで減少しているもので。教室の半分以上が使われておらず、そのほとんどに鍵がかけられて勝手に入り込めないようにされているから。
現在の玉川小学校は「開かずの教室」だらけなのである。
というわけで女子チームが次の場所へと向かっている一方で、男子チームはというと――
「ちっとも出てきませんねえ、白いタヌキ。っていうか、本当に白いタヌキなんているんですかぁ?」
少し離れたところから校庭奥の裏山に面したフェンスの穴に、スマートフォンのカメラを向けしつつ、ぼやいたのは五年生の里見翔だ。
「エサをけちったのがまずかったのかもしれん。やはり給食の残りのカチカチのコッペパンじゃダメだったか。
こんなことなら奮発して、給食についていたベビーチーズでも持ってくるんだったな。
あと白いタヌキだが、いても不思議じゃない。なにせ昔から白いカラスやヘビは縁起がいいって、いわれているぐらいだからな」
腕組みにてフェンスの穴をじっとにらんでいるのは、六年生の村上義明である。
穴のところには獣の毛とおぼしきものがついていたのは確認済み。でも、それがお目当てのタヌキの毛なのかどうかは、ちょっとわからない。
しかし何がしかの動物が、あの穴を出入りしていることは確かだ。
「長くなりそうだな」
義明のつぶやき、翔は「そんなぁ」
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