こちら第二編集部!

月芝

文字の大きさ
上 下
5 / 59

第四の怪 裏掲示板の予言者X 前編

しおりを挟む
 
 本日は晴天なり。
 週末の玉川小学校のグラウンドにて、ユニフォーム姿の球児たちが元気よく白球を追いかけている。
 少年野球の試合だ。
 地元チームの玉川セコンズジュニアと隣の市のチームである寿永タイガースとが対戦している。ただいま七回表、二対三にて、玉川セコンズジュニアの攻撃である。
 なお少年野球の試合は規定にて七回までとなっているので、これが最後の攻撃となる。
 ツーアウト満塁という一打逆転の場面で打席がまわってきたのは、六年生の村上義明であった。
 俄然、期待が高まり、観客たちの声援にも熱が入る。
 これに混じって応援兼取材をしていたは、第二編集部の部員たちだ。
 本日は総出で駆けつけている。

「おぉ、いい感じで盛り上がってきたじゃん」
「ちょっと里見先輩、試合に夢中になるのもいいけど、シャッターチャンスを逃がさないでくださいよ」
「わかってるって、森永。そういえば、聞いたか? 村上先輩、またスカウトを断わったんだってさ」

 四年生部員の森永美空がたしなめると、五年生の里見翔がそんなことを言い出した。
 これに「えっ、そうなの。もったいない」とくいついたのは、四年生の明智麟である。
 すると部員らを率いていた六年生の上杉愛理が首を横に小さく振る。

「まぁ、あいつがスカウトに応じることはないだろうさ」
「どうしてですか、上杉先輩?」

 麟が訊ねると愛理が肩を震わせ教えてくれた。

「ぷぷぷ、だってあいつ、根っからのシスコンだもの」

 村上義明には幼稚園に通う妹がいる。
 両親が共働きということもあって、必然的に兄が妹の面倒をみる機会が多い。
 これが世間一般の兄妹ならば、ちょっと妹を邪険に扱ったり、お手伝いを嫌がったりすることもあるのだが、義明にそれはない。
 むしろ過保護なぐらいである。
 とどのつまり、兄は妹を溺愛している。
 ふだんの仏頂面からは想像もつかないことながら、これは事実である。
 ゆえに兄が妹を残して、遠くの学校の寮に入ったりなんぞはしない。

「あー、千夏ちゃんかぁ。たしかにかわいいですもんねえ。うちの生意気な弟とはえらいちがいだもん」
「あらそう? 蓮くんだってかわいいじゃないか」

 愛理がそう言うと、麟は唇を尖らせる。

「それ、だまされてますからね。あの子、人前だとめちゃくちゃネコをかぶるんだから」

 実の姉には言いたい放題だけれども、それが他所のお姉さんを前にすると、とたんに借りてきたネコになる。
 まぁ、どこの兄弟姉妹でもあることにて、麟がぶつくさ文句を言うのを、愛理は苦笑いで聞き流していた。
 だが、その時のことであった。
 どこからともなく、こんな会話が聞こえてきた。

『ねえねえ、あの人、本当にホームラン、打つのかな』
『わかんない。でも、これまでの予言はどれも当たっているから、今回もきっと……』

 ――予言っ!

 奇妙な単語に、はっとして愛理は振り返った。
 どうにも気になったもので、声の主から詳しい話をもっと聞きたいと思ったのだ。けれどちょうどそこで、歓声が起こった。
 義明がレフト線を切り裂く長打を放つ。
 玉川小学校のグラウンドは奥にだだっ広い。ゆえにいったん外野のうしろにボールが抜けると、どこまでも転がっていく。
 走者一掃のランニングホームランに、観衆たちは沸き立った。
 その賑わいは愛理の周辺でも起こって、結局、誰がさっきのナゾの発言をしたのかが、わからなくなってしまい、この場はそれきりとなってしまった。

  ◇

 応援と取材を終えた第二編集部員たちが、帰る道すがら。

「惜しかったねえ」

 麟がつぶやき、美空も「うん」とうなづく。
 義明の一打にて決したかと思われた試合であったが、最後にどんでん返しがあって逆転を許し、玉川セコンズジュニアが負けてしまったのだ。
 まぁ、それはさておき――
 愛理が口を開く。

「さっき、ちょいと気になることを小耳に挟んだんだが」

 かくかくしかじか、『予言』の話を愛理が説明すると、翔がポンと手を打ち独りごちた。

「あぁ、だからか……。今日に限って、観客に生徒の姿がやたらまじっていると思ったら、目当てはソレだったのか」
「目当て?」

 愛理が片眉を上げ、翔に目で話の続きを促す。

「その予言って……、たぶん、近頃、五年生の間で話題になってる掲示板のことですよ」

 学校の裏サイトというものがある。
 ある特定の学校の話題を扱う非公式のコミュニティサイトことだ。
 ふつうに検索しても出てこないように工夫がされており、世間の目を盗んでは、かなり過激な投稿が連なっていることが多い。
 イジメや騒動の温床になることもしばしば。
 だから保護者や学校側も、目を光らせているのだけれども、巧妙化する相手にイタチごっこが続いているのが現状である。

 玉川小学校にもご多聞に漏れず、裏サイトが存在している。
 そのサイトの掲示板に、近頃、奇妙なスレッドが立っている。
 五年生が集うスレッドなのだが、そこに予言者Xを名乗る何者かがあらわれては、次々と学校にまつわる未来を予測して、これが的中しているというのだ。
 初めのうちこそは「くだらない」「たまたまだ」と、ろくに相手にされていなかったのだけれども、ぽつぽつと「当たった!」「本当に起きた!」などという報告がされるようになって、俄然注目を集めるようになったという。

「ほう、裏掲示板の予言者X、ねえ」

 話を聞き終えた愛理は、胡乱げな表情を浮かべる。
 でも、しばらく腕組みに考え込んでいたのが急に顔をあげるなり、四年生コンビに言った。

「次の企画、それでいってみようか」

 かくして編集長である愛理の決定により、麟と美空はさっそく明日から取材にとりかかることになった。


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 辺境の隅っこ暮らしが一転して、えらいこっちゃの毎日を送るハメに。 第三の天剣を手に北の地より帰還したチヨコ。 のんびりする暇もなく、今度は西へと向かうことになる。 新たな登場人物たちが絡んできて、チヨコの周囲はてんやわんや。 迷走するチヨコの明日はどっちだ! 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第三部、ここに開幕! お次の舞台は、西の隣国。 平原と戦士の集う地にてチヨコを待つ、ひとつの出会い。 それはとても小さい波紋。 けれどもこの出会いが、後に世界をおおきく揺るがすことになる。 人の業が産み出した古代の遺物、蘇る災厄、燃える都……。 天剣という強大なチカラを預かる自身のあり方に悩みながらも、少しずつ前へと進むチヨコ。 旅路の果てに彼女は何を得るのか。 ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部と第二部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」 からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

にゃんとワンダフルDAYS

月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。 小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。 頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって…… ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。 で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた! 「にゃんにゃこれーっ!」 パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」 この異常事態を平然と受け入れていた。 ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。 明かさられる一族の秘密。 御所さまなる存在。 猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。 ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も! でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。 白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。 ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。 和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。 メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!? 少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。 いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑! 誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、 ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。 で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。 愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。 騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。 辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、 ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第二部、ここに開幕! 故国を飛び出し、舞台は北の国へと。 新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。 国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。 ますます広がりをみせる世界。 その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか? 迷走するチヨコの明日はどっちだ! ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。 不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。 いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、 実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。 父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。 ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。 森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!! って、剣の母って何? 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。 役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。 うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、 孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。 なんてこったい! チヨコの明日はどっちだ!

【完結済み】破滅のハッピーエンドの王子妃

BBやっこ
児童書・童話
ある国は、攻め込まれ城の中まで敵国の騎士が入り込みました。その時王子妃様は? 1話目は、王家の終わり 2話めに舞台裏、魔国の騎士目線の話 さっくり読める童話風なお話を書いてみました。

処理中です...