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166 鬼でもなく蛇でもなく
しおりを挟むグズグズしている時間はない。
私は「えーい、ままよ!」
打打打打と四連打。
コンソールに入力する番号は、ずばり『1111』だ。
えっ、いくらなんでもソレはない。安直すぎるだろうですって?
フフン。たしかにそうかもしれない。
なにせデフォルト――初期設定のパスワードだから。
でもね。
意外とそのまま使っているヒトって多いんだよねえ。
再設定するのをめんどくさがったり、凝ったパスワードをつけても忘れちゃうからって。
かくいう私もそうであった。
スマートフォンのロック機能とか何ソレ? である。
というか毎度毎度、PINだのパターンやパスワードによるデバイスロックの解除なんてやってらんない。
だったら顔認証とか指紋認証は?
あー、あれも地味にイラっとするんだよねえ。
顔認証の時に自分の顔がいちいち画面に映るでしょう? 三徹後の明け方の自分の顔とか見るとマジでげんなりする。それこそ死にたくなるほどに。
それから画面にベタベタ指紋のあとがつくのもイヤだし。あれってば、拭いても拭いてもなかなか落ちないんだもの。
たったひと手間、されどひと手間。
塵も積もれば不満も山となりドカンと大噴火して、ムッガー!
安全のことを考えたら、ちゃんとやった方がいいのはわかっている。
だが、断る!
そういうへそ曲がりは、案外多いのだ。
前世で私がお世話になっていた大学院の研究室の連中も、半分ぐらいが似たり寄ったりだった。
こと研究に関しては、なみなみならぬ情熱を注ぎ、いかなる労も厭わず、真摯にデータに向き合い、機械の調整などにおいても、それはもう病的なまでにキチンとしているくせに、それ以外だとからっきし。
学者や研究者としては一流だけど、一般人としての日常生活能力が著しく欠如している。その証拠に、大学教授の部屋ってゴミ屋敷一歩手前で、やたらと散らかっているところが多いでしょう?
大学の研究室なんてのは、だいたいがそんな変態どもの巣窟である。(※あくまでヒロインの偏見にて。なおこの物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありませんので、あしからず)
入力を終わって、エンターキーっぽいのを押したところ、とくにブーとか鳴らず。
「ん? はじかれない……ということは、イケたのかしらん」
ドキドキしながら待っていたら、コンソールの文字盤全体が明滅を始める。
まるでバックライト付きのゲーミングキーボードみたいで、ちょっとカッコいい。
とか考えていたら――
ゴゴゴゴ……
足下からかすかな地響きがしたとおもったら、それがドンドン大きくなっていく。
ちがう、揺れているのは下じゃない。前だ。城そのものが震えているのだ。
ビンゴ! どうやらこの門を管理していたヤツは横着者にて、私たちと同じ穴のムジナであったらしい。
薄氷が割れるような音がして、ついには大門の合わせ目から、白煙がしゅうぅぅぅぅぅぅ……
建物の内部からガタンゴトンと重たい音が続いている。
停止していたからくりが再起動を始めた。
じきに門扉が開く。
いったい何が出てくるのやら。
「とりあえず邪魔にならないように、ちょっと脇へ避けておこうか」
真ん前にぼんやり立って居たら、さすがに不用心すぎる。
そんなわけで私たちは、その場を離れようとしたんだけど――
ハッ!
直感が働き、慌ててふり返った私はピキリと固まった。
カエルが空を飛んでいた。
いや、より正しくは跳んでいた、だ。
そりゃあカエルだもの。ぴょこんとジャンプするのは当たり前。
ただし、それが特大サイズとなればいろいろと話が変わってくる。
大きいということは、それだけ重たいということだ。
そんなシロモノがこっちへと目がけて降ってきたものだから、私は「ぎゃあー! ウソでしょーっ!?」
どうやら特大デカピタは門の異変に気がついて、矢も楯もたまらず駆けつけようとしたらしい。
この慌てっぷりからして、ここに閉じ込められている何かは、ヤツにとっても都合が悪い存在だということであろう。
ゆえに門扉の封印を解いた私の選択は正しかったといえる。
けれども、その何かの正体を見届ける前に、ペチャンコにされてはたまらない。
急いでその場を離れようとするも、オーノー! 流砂に足をとられてうまく走れず。よもや土遁の術にこんな落とし穴があろうとは!
私たちはあたふた。
ズゥウゥゥゥゥゥーン!
そこへデカピタが盛大に着地した。
激震が走る!
地面が上下し、大量の砂塵が跳ね上がり、流砂が波打つ。
暴風が席捲し、渦を巻き、砂嵐となった。
私を含めた竹人形たちは、成す術もなく舞い上げられてしまい「あ~れ~」
さなかのことである。
私は見た。
城の奥から出てこようとしているモノを。
させじとデカピタが懸命に扉を押さえつけようとしている。
だが、開くチカラのほうが強い。
じりじりと開いていく大門。
隙間からにょきっとのびてきた、青白いあれは………………巨人の腕!?
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