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164 牢獄
しおりを挟むデカピタたちを引きつけつつ、適度の距離を保ちつつ、目指すは中央の城だ。
都市の外縁部から左回りに、渦を描くようにして移動を続けている。
ぶっちゃけ厳しい展開だ。
戦局はゆっくりとだが、私たちにとって不利に傾きつつある。
囲まれないように細心の注意を払いつつの撤退戦。
一にして全、全にして一である竹生命体ならではの連携のとれた行軍は、他の追随を許さない統率と規律を誇っている。
まるで一匹の巨大な大蛇のごとく、集団が動く様は雄々しくもあり、美しくもあり。
だが、それをもってしてもデカピタらの猛攻を前に、被害を完全に抑えることは不可能であった。
薄皮をむくようにして、陣営が削られていく。
一体、また一体と竹人形たちが倒れ、脱落し、破壊されていく。
(ごめんね、あとでかならず復活させるから)
私は心の中で手を合わせては、仲間たちの屍を越えて先へと進む。
その一方でこちらも応戦しては、着実にデカピタを倒しているものの、一定数が減ったとおもったら貯水槽へと戻り、再生を始めてしまう。
させじと追撃をかけようとすれば、すかさず他の群れが邪魔をする。
三つの群れが互いをカバーしては、つねに一定数を保持するデカピタたち。
シレっと再生スピードまで上がっており、戦線離脱から復帰までの時間が短くなっている。
単発だった火縄銃が、早合にて、次弾までの時間が格段に速くなったみたいに、どんどんと要領がよくなって、よりシステマチックになりつつある。
まるで自動で増える兵器だ。
自分たちのことを棚に上げておいてなんだけど、あれはもはや命じゃない。
あんなものが命であるわけがないし、あっていいわけがない。
〇
一進一退の攻防を繰り広げつつ、私たちはついに泡沫都市の中央域へとやってきた。
入り組んだ古代都市内において、ここだけは開けており、そのど真ん中にズドンとそびえ立つのは、14もの尖塔を持つこの地で一番巨大な建造物なのだけれども……
「これは……本当に城なの?」
間近に接し、私は強い疑念を抱く。
サグラダ・ファミリアからあらゆる装飾を排除したかのような外観。
荘厳だけどのっぺりした印象の建物にて、ひと際目を引くのは大きな門だ。
しかし遠目には気づかなかった異様な点が他にもあった。
なんだこれは? 窓という窓、そのすべてに厳重な封印が施されているではないか。
これだけの規模の建物だ。ひとつやふたつぐらい中をのぞける穴や隙間があるだろうとおもったんだけど、見当たらない。
どこもかしこもばっちり入念に目隠しが施されている。
それらの封もまたゴツイ門扉と同じブロンズのような素材にて。
――牢獄。
ふと、そんな言葉が浮かんだ。
湖底の城なんかじゃない。これは深い水底の牢獄。
そのほうがしっくりくる。
もしこの予想が当たっていたら、下手に門を開けるのは危険かもしれない。
とはいえ、他に何ら有効な打開策を思いつけない。
こうしている間にも迫るカエルども。
包囲網はじりじり狭まっている。
「開けるべきか、開けざるべきか、それが問題だ」
うーん、これは進退が極まったかもしれない。
最悪、全滅したところで私たち竹生命体はリブートできる……はず、たぶん。
能力や経験値を引き継ぎ、さらなるパワーアップにて再スタート。
いわゆる強くてニューゲームというやつだ。
チートである。
とはいえ、あれはあれでけっこうめんどうくさいし、タケノコからやり直すのは本当にたいへんなのだ。
何度も死を体験するのもキツイ。
体はへっちゃらでも心が軋み悲鳴をあげる。実際、悪夢にうなされることもある。
たぶんだけど、めったやたらとくり返したら、おそらく精神に異常をきたす。
そんな気がする。
もっともそれらを抜きにしても、私は復活できるからとて、安易に生きるのを諦めたくはない。
足掻いて、抗って、戦って戦い抜いた末に、前のめりに倒れるのならば本望。
その生きざまは益荒男のごとく熱烈峻厳にて駆け抜けて候。
でもだからこそ、たんに楽になりたいだけの逃げの死は論外にて。
「そんなのはこれまで戦ってきた強敵たちに失礼だもの」
というわけで、いったん大門の扉については棚上げし、私たちはここを決戦の地と定め、城を背に反転攻勢へと打って出ることにしたんだけど、まるでこちらの動きに呼応するかのようにして、デカピタ陣営にも変化が起きた。
三つの群れが合流しては、バクバク共食いを始め、あっという間に減っていき、その代わりに突出した成長をみせる個体があらわれ、ついには最後の一体となったとき――
立っていたのは三階建ての家ほどもある、巨大デカピタであった。
そして放たれしは破滅の光。
ゴン太の怪光線にて、閃光が泡沫都市を斬り裂く。
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