竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

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163 リアル逃走中・デスゲーム版

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 ペカー、シュビビビビビ~!
  ペカー、シュビビビビビ~!
   ペカー、シュビビビビビ~!

 四方八方から飛び交う幾筋もの光線たち。
 壁や建物などの障害物を無視して、いきなり飛んでくる。
 舞台上のスターを照らすスポットライトのごとき華やかさ。
 だけど、うっかり照射されたが最期、たちまち跡形もなく消失してしまう破滅の光。
 いまのところこれを防ぐ手立てはない。
 こちらとしては、円陣を組んでは全方位に目を光らせつつ、上空から竹蜻蛉による監視も並用することで、迫る危険を察知しては跳んだり、転んたり、伏せたりして、どうにかこうにか。

 えっ、いったい何がどうして、そんな状況に陥っているのかですって?

 ……じつは、ただいま撤退戦の真っ最中につき。
 いろいろあって、私たちは拠点を一時的に放棄せざるをえなくなったのである。
 詳細について語るには、少し時間を遡る必要がある。
 あれが起きたのは、ちょうど一時間ほど前のことであった。

  〇

 はぐれカエルにより、竹隧道が破壊されちゃった!
 いきなり拠点の近くにあらわれたとおもったら、怪光線でズバズバっとね。
 よもや! デカピタがこれほど隠密能力に長けているとはおもわなかった。単独行動なのと、入り組んだ迷路のような地形に助けられたとしても、こちらの警戒網を抜けられるとは……

 ちくしょう、まんまとしてやられた。

 けっこう派手にやられてしまい、復旧するのにはしばらくかかるとの報告を竹工作兵らから受けたところで、ふたたびサイレン音が鳴り響く。

「ちょっとまたなの? 今度はいったい何……っ!?」

 竹蜻蛉から送られてくる中継映像に、私はあんぐり。一同も騒然となる。
 カエルたちだ。
 北、東、西の三方向より、こちらの拠点を目指し、ぴょこんぺたん、ぴょこんぺたん。
 ゾロゾロと向かってくるではないか!
 これまでは自分の巣がある貯水槽を中心に活動していたというのに、ここへきて一斉に進軍を開始するだなんて。

「でも、どうして急に……あっ! まさかあのハグレを私たちが殺したからなの?」

 仲間内で散々殺し合いをしては、貪り喰らうのはぜんぜんかまわない。
 けれども他者に殺らせるのは、どうにもガマンならないということか。
 あくまで思いつきだ。真実かどうかはわからないし、のんびり検証している余裕もない。
 ただし、これだけは断言できる。
 それはデカピタたちに、私たちがバッチリ敵認定されたということ。

「このままではカエルどもに包囲される。怪光線は透過能力を持つから、籠城は無意味。退路もすぐには修復できない。
 ……しょうがない。現時点で本拠点をいったん放棄する。総員、すみやかに準備を整えて、ここから出るよ」

 幸いなことに地上からの応援が来る手筈になっている。竹隧道の復旧作業はそちらに任せようとおもう。
 だからその間、私たちは泡沫都市内を動き回っては囮となり、デカピタたちを引きつけ連中の注意を拠点からそらすのだ。
 というわけで、すたこら逃げろ~。

  〇

 かくして始まったリアル逃走中・デスゲーム版は、難易度MAX!
 どこから敵が襲ってくるのかハラハラドキドキ、一発アウトのスリル、ギリギリの攻防が息つく間もなく続く。
 つねに地形に気を配りつつ、囲まれないように移動しては、突出しているカエルを発見し次第、各個撃破していく。

 一対多数に持ち込めば、倒すこと自体はさほど難しくない。
 竹人形の数体が正面で注意を引きつけているうちに、左右と後方からいっきに接敵しては、まず最初に頭の上からか、顎の下から刃を突き入れて口を塞ぐ。
 で、カエルがモゴモゴしているうちに、ハチの巣にする。もしくはメッタ刺しにする。
 どうしてそこまでするのかといえば、そこまでしないと完全に活動を停止しないからだ。
 デカピタのカエルフォームは、数多くの同胞を喰らって成っているだけあって、かなりしぶとい。

 ところがこれが複数との対戦になると、とたんに難易度が爆上がりする。
 怪光線が乱舞するせいだ。イケイケゴーゴーなディスコのミラーボールなみに乱反射!
 こうなるとちょと手がつけられない。
 さらには攻撃のバリエーションもなにげに増えている。
 最初の頃はペカーと怪光線で照らすだけだったのに、途中から灯台のライトみたいに旋回させたり、こまめに点けたり消したりなどのフェイントをかましてくるようになった。
 加えて本体の動きも良くなっている。
 こちらの戦法が通じにくくなっている。
 まさかとはおもうが、デカピタ同士で情報を共有しているのか?
 だとしたら、それは一にして全、全にして一である竹生命体と同じということになるんだけれども……

「ん? ちょっと待てよ。だとしたら、デカピタどもにも私みたいなのがいるのでは?」

 カイザラーンにとっての竹姫さまみたいに、カエルたちにも全体を統括している特殊な個体がいるのか。
 可能性は高い。
 でも、どこにいるんだろう。
 このことを思いついた時、たまたま私の視界の片隅に映ったのは、中央にそびえる巨大な城の姿であった。

 う~ん、やっぱりあそこなのかしらん。


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