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158 シュルレアリスムのトノサマガエル
しおりを挟むごりごり、むしゃ、むしゃ、もぐもぐ、ごっくん……げふぅ。
足の生えたオタマジャクシども、食事のマナーはお世辞にもいいとはいえない。
まぁ、手が使えないから飢えた獣のごとく、ガツガツ貪るのだからしょうがないのだろうけど、たぶん腹をすかせたノライヌの方がまだ上品だとおもう。
食べ方が汚いこともさることながら、なんだろう、これは?
見ているだけで無性にイラつく。
ムカムカしてくる。なんて胸クソが悪いんだろう。
カチンとくる。癇に障る。
あー、厭だ。嫌だ。否だ。不愉快だ。
不快極まりない。
憎悪、嫌悪などのドス黒い負の感情が湧いてくる。
ドクドクと、ドクドクと、ドクドクと……
その果てに燦然と輝く太陽のように出現したのは――
殺!
一点の曇りもない、純然なる害意。
理屈ではないのだ。
竹生命体としての本能が、魂が叫んでいる。
いや……ちがう。そうじゃない。
これは単純な殺意なんかではない。
奥底にまだ何かが潜んでいる。これは………………厭悪?
地下の逆さピラミッド、その最深部に封じられていた半不死生物・キマイラなミイラ。
あれと対峙した時の感覚にとてもよく似ている。
気づいたとたんに、私は「ハッ!」
冷静さを取り戻した。
あやうく激情に呑まれるところであった。
ギリギリのところで踏み留まれたけど、もしもふたたび暴走状態に陥っていたら、どれだけの被害が出ていたことか。
想像し私はゾゾゾ。
その頃になると、共食いの方もひと段落ついていた。
あれほどいた異形どもはめっきり減って、わずか七体になっている。
たらふく食べたおかげでみなスクスク育ち、軽自動車サイズにまで大きくなっていた。
いくらなんでも急速に育ち過ぎじゃない!?
かとおもえば、むにむに体に異変が生じ、手が生え、しっぽがみるみる縮んでいき、全体のフォルムが変わっていく。
そしてオタマジャクシはカエルになった。
見た目はトノサマガエル。
ただし色がどきつい。
タールのような黒い地に、黄色いストライプが頭の先からお尻へとむけて入っている。
スズメバチの模様を想像するとわかりやすいだろう。
ペンローズの階段のような古代都市にたたずむ、でっかいトノサマガエル。
かなりシュールな構図である。
まるで、シュルレアリスムの絵みたい。
ちなみにシュルレアリスムとは、目で見て捉えることができる意識的な世界観ではなくて、ヒトが無意識の中に抱えている世界観のことを表現した作品のこと。
えっ、よくわからない?
あー、でも、それが正解かも。
見たヒトの大半が「なんじゃこりゃ?」と首をひねるような絵が多いので。
けれども、目の前の光景は絵なんかじゃない。
悪夢のようだけど、まごうことない現実にて。
七体の生き残りたちは、メタモルフォーゼを完了したのちに、バトルロイヤルを再開すべく、のそりと動き出したのだけれども、これまでとは戦い方が異なっていた。
これまでは咬みつき、肉を喰い千切り、命を貪り喰らうばかりだったのに、今度はぴょんぴょん跳ねては互いに距離をとったかとおもえば、あーんと大口を開けて……
ピカッ!
ノドの奥より発したのは、まばゆい光線。
近接攻撃が一転して遠距離攻撃の応酬となる。
ビビビと飛び交う怪光線。
まるでオモチャの光線銃で遊んでいるようなシーンだけど――
呆気にとられて眺めていたら、突如して私の身が押し倒された。
やったのをコウリンだ。横から抱きついてきたらしい。
「ちょっと、いきなり何なのよ!」
と文句を言いかけた私であったが、コウリンの右肩を見て、ギョッ!
肩パーツの一部がごっそり抉れていた。
それもたんに削れたのではない。ほんのまばたきにも満たない、あの一瞬で、まるでクッキーの型か何かでキレイにくり抜いたかのように消失している。
やったのはトノサマガエルの光線。
流れ玉ならぬ、流れ光線が飛んできたのだ。
もしもコウリンに助けられずに、あのままぼんやり立っていたら、いま頃、私は胸部から上をごっそり失っていたことであろう。
あの光線……かなりヤバい。
だから私はすぐさま総員に身を伏せるように指示したのだけれども。
しゃがんで射線から回避したとおもったら、怪光線がすぐそばを通過していった。
強化されているコウリンを傷つけるぐらいだから、かなりの破壊力を持っているはず。ならば建物の壁や床をぶち抜いてもおかしくはない。
でもちがった。
そうじゃない。
なぜなら、壁も床も傷ひとつついておらず、光線だけが通り抜けていたから。
どうやらトノサマガエルの放つ怪光線は、障害物を透過して、その向こうにいる対象だけを殲滅できるっぽい。
それすなわち事実上、防御不可ということ!
「はぁ!? そんなのアリなのーっ!」
えらいこっちゃ、またぞろトンデモナイのがあらわられた!
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