竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

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155 ペンローズの階段

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 いざ、泡沫都市の探検へGO!

 というわけで、拠点を出発した調査隊一行。
 だが近隣は事前に斥候部隊により捜索済みにて、とくに何も発見されていないそうなので、スルーしてサクサク先へと進む。
 いちおう安全マージン確保のため、竹蜻蛉も飛ばしており、上空からの警戒と観察も並行して実施している。

 どこもかしこもセピア色。
 けど、それは着色したというよりかは、脱色してこうなった風である。カラー写真が歳月を経て変色したかのように。

「あー、そういえばセピア色調の茶褐色の顔料って、イカの墨汁から作られたって話をどこかで聞いたような……」

 まさかのイカ繋がり?
 いや、さすがにそれはいくらなんでもこじつけが過ぎる。穿った物の見方にもほどがある。
 私はクスリと自嘲しつつ、隊のみなといっしょに歩く。
 竹姫さまのために輿こしを用意するというコウリンの申し出は断った。
 偏見かもしれないけれど、なんていうか個人的に輿に乗った大将って、あんまりいいイメージがないんだよねえ。

 桶狭間で討たれた今川義元しかり、沖田畷おきたなわての戦いで散った龍造寺隆信も。あとは立花道雪とか大谷吉継も乗ってたっけか。
 お神輿というぐらいだから、輿は高貴なる身分の者にのみ許された乗り物。
 とはいえ、ワッショイワッショイ担がれて、浮かれておっ死ぬのは、さすがにちょっとダサすぎ……げふんげふん。
 というわけで、私はズンズン歩くのだ。
 自分の足で歩いてこその冒険野郎だもの。

 しっかりした足下は石畳だけど、おそらくただの石ではないだろう。
 周囲の壁にしてもそうだ。
 これらはフルフラールらが住んでいる大空洞へと通じている地下迷宮に似た造りだけど、微妙に材質がちがうような気もする。
 まぁ、詳細については黒鍬衆の研究ラボの解析結果待ちかな。

 都市の内部はのっぺりしたコンクリートのような建物ばかり。
 どれも箱型にて同じような外観、装飾の類は皆無、背は高くても五階建てぐらいまで。切りそろえたかのよう。都市の景観を守るためか、他に理由があるのかは不明だが、建造時に高さ制限が設けられていたのだろうとおもわれる。

(……それでいて、どこかノスタルジーを誘うんだよねえ。ビルやマンションというよりかは、昭和の団地っぽいせいかも)

 空き地の類はいまのところ発見されていない。建物と建物と道路がぴっちり、密接に繋がっている。隙間を通り抜けられるのはノラネコぐらいだろう。

(あー、そういえばこっちの世界ってネコ、いるのかしらん? トラっぽいのがいたから、いてもおかしくはない。もっともいたとて、どうせ見た目詐欺の禍々だろうけど)

 ちと窮屈な街並み、空間に遊びがないのは、おそらく湖底の大あぶくの中という特殊な環境と限られた土地のせいだろう。

 街はどこもかしこも角ばっており、丸みはない。カクカクしている。
 極端に長い直進もなく、少し進んだら右へ左へとカクンと折れては、また続くの繰り返し。竹蜻蛉からの映像をチェックしたら、整然としているのにどこか歪で。迷路というよりも、アミダクジみたいであった。
 階段もあるけれども段差数は少ない。
 おそらくここはあまり起伏がないなだらかな土地なのだろうけど、似たような景色が延々と続くせいか、ぼんやり歩いていると二度とここから抜け出せなくなるような錯覚に襲われる。
 現実なのに、どこか虚構のようで……

「う~ん、まるでペンローズの階段の絵のようだね」

 ペンローズの階段は、ライオネル・ペンローズと息子のロジャー・ペンローズが考案した不可能図形である。
 どれだけ上り続けても高いところに辿り行けない、いつのまにやら下ってる。永遠に堂々巡りする無限階段を二次元で描いたもの。
 三次元で実現するのは不可能であり、歪みのパラドックスを利用した二次元でのみ表現できる奇妙奇天烈な図。

「にしたって、ペンペン草どころかキノコの一本も生えてないのは異常だね」

 どこにでも顔を出すあいつらがいない。圧倒的占有率を誇る竹林を相手にしても、しぶとく食らいついてくるタフなヤツらなのに。
 それすなわち生き物の姿がまったくないということ。
 いくら外界と隔絶された水底とはいえ、徹底している。
 ならば、ここは完全に死の都なのかといえば、私は首をかしげて「う~ん」

 泡沫都市に漂う不快なゾワゾワはあいかわらず続いている。
 けれども死と無だけが満ちている場所なのかといえば、ちがう気がしてしょうがない。

 気配? 予感? 危機感? 第六感を越えたセブンセンシズ?

 何かは自分でもよくわからない。
 けれども、たぶん何かいる。もしくは何かがある。
 私はそう感じてしょうがない。
 本能が告げているのだ。決して油断していい場所ではないと。
 だから、それを肝に銘じて私は探索に臨んでいる。

  〇

 一時間ほど迷路を彷徨ったところで、私は「そこの五階建ての建物を調べてみよう」と提案した。
 さすがに通り沿いの軒並みすべてを、しらみつぶしにするには手が足りない。
 だから道中、ランダムで調査対象をみつくろっては踏み込み家探しをしてみたのだけれども、いまのところ成果はまったくなし。

 第二拠点にしている逆さピラミッドでは、いろいろと収穫があったのに、ここには本当に何もない。
 あるのは塵と埃だけだ。
 屋内からは割れた食器の欠片ひとつも見つからず。
 住人たちが暮らしていた痕跡がない。
 どこもかしこも、ガランとしている。
 それがかえって不自然にて。
 まるで消しゴムでごしごし擦って消してしまったかのよう。
 長い年月で風化したとて、ここまでキレイさっぱり無くなりはしないだろう。
 いったい泡沫都市に何が起きたのだろうか。

 私たちの探検はまだまだ続く。


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