竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

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154 橋頭保と報告書

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 竹隧道のケーブルカーにて、私こと竹姫はふたたび泡沫都市へと舞い戻ってきた。
 とはいっても、事前の準備は麾下に丸投げ、上げ膳据え膳だけどね。
 これから本格的な遺跡探索を行うにあたって、最重要拠点となるのが竹隧道の終点だ。
 地上との玄関口。ここがどうにかなってしまうと、物資の搬入も止まり、人員の往来も潜水調査艇タケノツチノコ頼りになってしまう。
 というか、湖底に囚われちゃう!
 そうなったら袋のネズミだ。
 さすがにこれはマズイ。

 というわけで、この地点をなんとしても死守すべく守りを固めた。
 ぐるりと頑強な竹壁で囲み、砦を建造した。
 探索をより円滑かつ効率的に前進するための拠点である。
 いわゆる橋頭保というやつだ。
 今後は地上側の陣地とこまめに連絡を取りつつ、並行運用していく。

 湖底に到着した私を出迎えたのは、竹忍者組を率いる頭領のコウリンと、今回の探索に参加する者たち。
 選別された五十体からなる調査隊。
 竹武者、竹忍者、竹工作兵、竹僧兵、竹砲兵らの混合チーム。
 そしてこれとは別に砦には百体の竹人形たちが常駐し、警護にあたることになっている。
 また何かあれば、すぐに地上へと連絡が行き、応援が駆けつける手筈になっている。湖中を周遊しているタケノツチノコもまたしかり。

 準備万端、抜かりなく。
 いつでも行けるとコウリンから聞き、私は満足そうにうなづく。
 だがしかし……

「あいかわらず、ここは居心地が悪い」

 そうなのだ。
 例のゾワゾワが、ここにきてより顕著に、つねに感じられるものだから、ついしかめっ面になりがち。
 未知の場所、湖底の古代都市の遺跡など、ワクワクドキドキアドベンチャー要素がいっぱい詰まった泡沫内ゆえに、とても楽しみな反面、このゾワゾワがどうにも邪魔でしょうがない。
 そのゾワゾワの最たるものが、古代都市の中央にそびえる城にある大門のところ。
 ビシバシと厭な気配が漂ってきており、扉の奥にはいったい何があるのやら?

 あー、もちろんいきなりパッカーンと開けたりしないよ。
 いかに私とて、さすがにそこまで無謀じゃない。
 まずは周辺の都市部を徹底的に漁る。
 次に城だ。
 で、門については、いまのところは保留で。
 おそらくだけど、周辺を探索していくうちに、箱の中身のヒントが掴めるのではないかと私はにらんでいる。
 なにせこの泡沫都市、あくまでざっと見の概算だけど、6~7万平方メートルぐらいもの広さがあるんだもの。
 これって東京ドームよりもふた回り以上も大きいことになる。
 そこに石造りの建屋跡がわりとびっしり。内部は迷路のように入り組んでいる。
 もしもここに地下部分もあったら、さらに倍!
 なので、調査隊の人員は随時補充して、進捗に合わせてどんどん増やしてくつもり。

「……とはいえ、不安要素もあるんだよねえ」

 それは古代の遺物によるリグニンコードへの干渉だ。
 かつてパンダクマ三兄弟の次兄カンスケと戦った際には、遺物を持ち出されたことにより、あやうく対峙していた竹忍者軍団が壊滅しかけたほど。
 どうにも遺物とハイボ・ロード種は相性が悪いらしく、うかつに接触するのは危険だ。
 が、同じ轍を踏むような我らカイザラーンではない。
 不意の断線に備えて、みな竹電池を内蔵しており、かつ予備バッテリーも携帯する。さらには拠点から地下茎を泡沫都市内に張り巡らせつつ、随所に充電スポットを設ける予定。
 コードの直継ぎも考えたが、これは動くのに邪魔になりそうなので止めた。

 他にもちょっと気になることが……というか、報告が地上にいるウンサイさんからもたらされている。
 それは回収したダイオウイカもどきの骸についての分析結果をまとめた、報告書に記載されてあった。

『通常の生物とは似て非なる者。また禍々とも異なっている。そのため体内より緋色の禍石は回収できなかった。なお人為的に作られた可能性は否定できない。あとやはり食べるのは控えるべし。これを喰うぐらいならば、そのへんの石でもかじっていたほうがマシ』

 じつは「どうして淡水湖にイカがいるの?」とずっと引っかかっていた。
 淡水カレイ、淡水フグ、淡水クラゲなどはいるけれど、淡水タコやイカはいない。
 どうも浸透圧の調整のからみで、エラがないと塩分をうまく吐き出せないがゆえに、存在しないらしいけど。
 まったく別種の生き物であるのならば、さもありなん。
 エサも満足に取れなさそうな湖で、あの巨体を維持していたこと自体が異常にして異様。
 そして遭遇時のヤツの行動からして、たんに自分の縄張りを守ろうとしていたというよりかは、侵入者を排除――泡沫都市へと行かせまいしていたようにおもえる。
 つまりヤツは守護者ガーディアン

「となれば、あのダイオウイカもどきを作ったのは、この都市の住人たちである古代人ということになるわけで」

 これだけのモノを作った連中だ。
 それがどうして忽然と消えて、滅んでしまったのか。
 もしかしたら『空白の千年』に繋がる手がかりが得られるかも。
 ドキドキ。


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