竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

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151 竹隧道プロジェクト

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 杞憂であった。
 おそるおそるマシンアームで触れてみたら、ぷにゅん、ずぶり。
 あっさりめり込み貫通するも、泡が割れる様子はない。
 マシンアームを差し込んだところ、周囲がたちまち泡でむにゅっと埋まってみっちり、わずかな隙間も生じない。
 おかげでなんら支障なく泡の壁を通り抜けられる。

 で、それだけでも驚きなのに泡の中には空気が満ちていた。
 いっさい浸水がないものだから、地上と同じように動けるもので、さらにビックラポンや!
 泡から出るときも同様にて。
 どうやら普通に出入りする分には問題ないらしい。
 とはいえ泡から外へ出たとたんに、深度800メートル級の水圧の洗礼を受けることになるけれど……ぐえっ。
 などということを確認したところで、はやる気持ちを抑えつつ、有人潜水調査艇タケノツチノコはいったん帰投することにした。

 私たちが第二拠点として使っている地中の逆さピラミッド。
 フルフラールたちが住んでいる地下の大空洞および地下迷宮。
 それらに続く第三の古代遺跡が発見された!
 水底に沈んでいたのは城だけではなかった。
 以降、ここを泡沫都市と呼称する。
 かなりの規模にて、大掛かりな調査になりそう。
 なので、体制を整えてから出直すことにする。

  〇

 泡沫都市の発見に沸き立つカイザラーン陣営。
 しかし場所がネックとなる。
 タケノツチノコの一艇だけでは、とても手が足りない。
 かといって何往復もしていられない。
 それなりの人員と物資を搬入する必要がある。

 ならば、どうするべきか?

 議論百出ぎろんひゃくしゅつ喧々諤々けんけんがくがく甲論乙駁こうろんおつばく
 対策会議は紛糾する。

 同型艇を複数建造するという案もあったが、手間や製造コストを考えると、う~ん。
 そうしたら黒鍬衆から、とあるアイデアが提案された。
 提出された企画書には『初心に帰ろう。竹隧道たけすいどうプロジェクト』とのタイトルが……
 なんのこっちゃい、とペラペラ目を通した私は「フムフム、なるほど、そういうことか」と独りごちる。

「えーと、計算上は問題ないんだよね? よし! それじゃあいっちょう、挑戦してみようじゃないか」

 私の鶴の一声にて採用が決定し、プロジェクト始動!

  〇

 隧道とはトンネルのことである。
 でもって本プロジェクトは、その名のまんま。
 湖の上から下まで、ドドンと竹の通路を繋げてしまおうというもの。
 そこで成否のカギを握るのが、私の力だ。

 竹を支配し、竹を自在に操るばかりか、おもいのままに生やし、さらには竹そのものに改良を加える能力。

 これまであれこれとやらかしてきた自覚はある。
 けれども私はまだ自分の限界を知らない。
 本プロジェクトは、それを試すいい機会である。
 というわけで、再びやってきました湖の畔。

 地面に片手をついてムムムと念じれば、ぞろりと地中から顔を出したのは太い根っこである。
 地下茎だ。
 方々に張り巡らせたうちでも、とくに太いヤツを選んで召喚した。
 それをサクタに命じて、ズブっと私の背中に差し込ませる。
 通常のリグニンコードとはちがい、直繋ぎすることでより強大なエネルギーを集約するつもり。
 これにて準備完了。

「では始めます。ハァアァァアァァァァーッ。集えリグニンパワー」

 命じるなりドクンドクンと地下茎が脈打ち、ドバドバと流れ込んでくるリグニンパワー。
 かつてない量のエネルギーが私の中に集まっては、どんどんと膨れ上がっていく。
 それが暴発しないように、コネコネ、コネコネ。
 丸めて団子みたいなイメージで、一心不乱にねるねるねるね。

(うぅ、すごい。何これ? ちょっとでも気を緩めたら、とたんにはじけちゃいそう)

 氾濫した濁流のごときリグニンパワーを抑え込むのに、私は冷や汗だらだら。

(でもまだだ。まだ足りない。こんなのじゃ届かない。だから、もっと! もっと! もっと!)

 五分、十分、十五分……とひたすらリグニンパワーを集めては、密度を練り、より高純度へと昇華する。
 そうしてついに三十分を経過したところで――

「いっけぇえぇぇぇぇーっ!」

 私は一本の竹を出現させた。
 ただし、それは過去一で巨大かつ頑強なシロモノであった。
 直径15メートル、厚さ1メートル、長さ800メートル強、なお総重量は不明。
 超々級特大青竹が湖底の泡沫都市へと向けてズンズンのびていく。


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