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150 大あぶく
しおりを挟む戦いは終わっても油断せず。
残心である。
うかつに近づくことなく、経過観察を続けることしばし……
対象はピクリともせず。
念には念を入れて、もう二三発ほど水中銃で小突いてみたが、やはり反応はない。
ダイオウイカもどきは完全に沈黙した模様。
イカには心臓が三つある。
だから、なかなか死ななさそうだけれども、それはちがう。
「ひとつ潰されたとて、まだふたつあるぜ! ぐはははは」
という仕様ではなく、三位一体にて機能している。ゆえにあれほどの運動量を誇っていたのだ。
だからひとつでもやられたら、ふつうに致命傷になる。
体内からぐちゃぐちゃにされては、さしもの巨大イカも為す術がなかったようだ。
波間を漂うダイオウイカもどきの骸。
それに予備のバラストをワイヤーで括りつけては、プシュウゥゥゥ。
重しとて貯蔵していた水を抜けば、即席の浮き袋の出来上がり。
あとは勝手に湖の上まで運んでくれるという寸法だ。
回収作業は上で待機している別班にまかせるとして。
「潜水艇の状態はどう? バッテリー残量は?」
私が訊ねれば、メカニック担当の竹工作兵からは――
艇本体はあちこちガタがきており、水漏れも。ただ水漏れに関しては隔壁を閉じた上で、応急処置を施し、被害は最小限に抑えられている。
マシンアームも四本のうち二本が壊れてしまっており、残りも稼働率は70パーセントといったところ。
特殊竹魚雷および追尾型竹魚雷は打ち止め。通常型が二発残っているものの、うち一発は先の戦闘中にスクリュウ部分が破損して使用不可。
武装の方は、水中銃は無事で玉もまだ残っているが、銛の方は柄が曲がってくの字になっている。シールドは争っているうちに、どこぞに失せた。クローは爪を失いただの手甲となっており、攻撃力は皆無。
さすがにこれ以上の戦闘行為の継続は厳しいが、通常運行ならばどうにかといったところだ。
けっこうボロボロにて、帰ったらウンサイさんから大目玉を喰らうことになるだろう。トホホ。
なおバッテリーについては激しく動き回ったこともあってか、残量が50パーセントを切っている。
予備の分と合わせれば、まだ稼働できるけど……
私はクルーたちのみならず、地上斑とも通信し、相談の上で、調査続行を決定する。
ただし、戦闘行為はナシの方向で。
とりあえず湖底の城まで行くだけ行ってみようということになった。
〇
幸いなるかな。
ダイオウイカもどきはあれ一体? 一杯? だけだったようで助かった。
もしもあんなのがウジャウジャいたら、たまったものじゃない。
水深700メートルを越えたあたりで、急に水流が穏やかになった。
というか、ほとんど動きがない。
おかげで楽に進めるけれども、この沈黙が逆にちょっと怖い。
「まるで嵐の前の静けさのような……」
おもわず私がつぶやいたら、通信担当兼タイムキーパーである竹女官ヒコノから、いらぬフラグを立てるなとばかりに肘で横腹を小突かれた。ぐふっ。
けれども、そんな風に主従でじゃれていられたのも、水深800メートル地点に到達するまでのこと。
いよいよ湖底が近づいてきたところで……
「―っ!」
私を含め、クルーのみんなは眼下の光景に言葉を失った。
水底が明るい。一ヶ所が淡く輝いている。
そここそが目指す城がある場所にて、ゆらりゆらりとしているのは超大な泡であった。
空前絶後の大あぶく。
その中に都市があり、中央に城が建っているたのだけれども、それがまたデカかった。
水中では光の反射や屈折などの影響のために、空気中で物を見る時に比べて、三割増しで大きく見えるというけれど。
それを差し引いてもでっかい!
「なんて大きな泡なの……東京ドームの比じゃない。それにあの建造物も」
城というか、神殿というか、教会というか。
ひの、ふの、みの、よう、いつ、むぅ……全部で14基もの尖塔がある。
柱や壁はすべて石造りながらも、表面にはとくに何も彫刻やら彫像などの飾りはない。
そののっぺりした姿がかえって不気味だが、それよりもいっそう存在感を放っているのが入り口とおぼしき場所にある大きな門だ。
巨人サイズ。ブロンズっぽい。見るからに建物と材質が異なっている。
そして門扉もまたつるんとのっぺらぼうにて。
その形容はまるでサグラダ・ファミリアから、あらゆる飾りを排除したかのようで……
コーン、コーン、コーン、コーン……
いまのところソナーに怪しい反応はなし。
さてと、どうしよう。
せっかくだから、ちょっと覗いていく?
というか、その前にこの泡だ。
まさか、ちょんと触れたらパンッって割れたりしないよね?
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