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147 イカVSツチノコ 前編
しおりを挟む水深600メートルを越えた場所ゆえに、陽の光はほとんど届かない。
ただでさえ暗い水の中、それがバラ撒かれた墨によっていっきに闇色に染まった。
煙幕だ。ダイオウイカもどきの仕業である。
にしても闇が異様に濃い。水でいくらか薄まっているはずなのに。
照らしているはずのライトの明かりが、圧倒的闇に呑み込まれる。まるで役に立っていない。
竹魚雷をぶち込んで先手を取るつもりが、逆にやられた。
あのデカイカは、思ったよりも知恵が回るようだ。
「だがこっちにはソナーがある――って、なっ!? 画面が乱れて、表示がおかしくなっちゃってんじゃない!」
ソナーが妨害されている。
おそらく原因はこの墨だ。こちらの機能を邪魔する特殊な成分が含まれている模様。
どうやら単なる目隠しではなかったらしい。
なおイカが墨を吐く理由はいくつかある。
その一。
敵から自分の身を守るため。
いまのように周囲に巻いて煙幕にしたり、直接相手の顔面に吹きかけて、視界を奪ったりもする。東洋系ギミックプロレスラーがよく使う反則技である、毒霧攻撃みたいな感じ。もっともプロレスの場合は色だけで、実際にはちょっと臭くてばっちいだけだけど。
その二。
影武者もしくは分身として。
自分と同じぐらいの墨の塊を、プッ。
それで外敵の注意をそらし、もしくは囮として、その隙にトンズラする。
いやいや、そんなのでダマされるわけないでしょう。
とおもわれるかもしれないが、これが水中だとけっこう効果的だったりするからあなどれない。
今回の場合は、もちろん逃げるためなんかじゃない。
だから……
「メカニック担当の竹工作兵は、どうにかしてソナーの復旧を。
イスケは対接近戦用の武装にて襲撃に備えて!
残りのクルーは最寄りの窓に張り付いて監視をお願い。もしヤツがあらわれたらすぐに報せて!
しばらくしのげば、じきに視界は戻るはずだから、それまでがんばって!」
初手にてソナーは封じられたけれども、こちらには竹人形六体分の目がある。いや、一体は復旧作業にとられるから五体分か。
そして竹生命体は一にして全、全にして一。
私の成長にともなって、同族間での情報伝達能力も飛躍的にのび、いまでは光ファイバーにも勝るほど。
よって実質、私が十……タケノツチノコの分も合わせれば、十二の目を持つのにも等しい。
ダイオウイカもどきも三つの目を持ち視野はかなり広いようだが、これならば負けることはないだろう。
もっとも、その分だけ頭に流れ込んでくる情報が膨大になるから、処理がたいへんなんだけどね。
だからあまり長時間はキツイ。体力はともかく私の集中力がもたない。
一方でこの状況だが、先にも述べたようにそう長くは続かないとみた。
なぜなら湖底にはつねに水流が発生しているからだ。じきに霧散する。
よってこの闇を利用しての襲撃は、一度ないし二度が限界だろう。
すみやかに対策を講じ身構えていたら、斜め後方を見張っていた竹女官ヒコノからさっそく反応があった。
かすかだが不自然な揺らぎを検知。
つくろいものなど、細かい針仕事などを得意とするヒコノならではの視点にて、わずかな違和感も見逃さず。
それを信じ、私は操縦桿をグイッとおもいきり押し倒す。
タケノツチノコの船艇を急速潜航させた。
直後――
ゴォオォォオォォォオォォォォーッ。
すぐ頭上を猛然と通り過ぎて行ったのはダイオウイカもどきである。
ギリギリセーフ、危ないところであった。
どうやら煙幕で行方をくらませたあと、ぐるりとこちらの背後へと回っての不意打ちを狙ったようだ。周遊する際にグングン加速もしており、もしも直撃を喰らっていたら、さしものタケノツチノコもただではすまなかっただろう。
すれ違いざま、イスケがマシンアームにて銛を突き出すも、それは避けられた。
でもアレはしょうがない。たぶん60ノット以上は速度が出ていただろう。暴風のような水流もまとっており、アレに突きを当てるのは至難にて。
だがこの攻防により、私たちに福音が舞い込む。
ヤツ自身が起こした水流により闇が幾分薄まったのだ。
まだまだ視界不良だが、それでもずいぶんとマシに。おかげでソナーが多少持ち直す。
ポツンポツンと飛び飛びだが、どうにかダイオウイカもどきの動きを追うことが可能となった。
「よし、これならヤツの動きをある程度予測して、こっちからも仕掛けられる」
攻守交替。
今度は私たちが攻める番だ!
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