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146 ダイオウイカもどき
しおりを挟む水深600メートルを少し超えたあたりで、ソナーに反応あり!
何かがいる。
――っ、けっこう大きい!
流れを無視して動いていることからして、漂流物の類ではない。
「警戒態勢へ移行!」
チームリーダーである私の指示で、すみやかに動くクルーたち。
ライトを消し、いらぬ物音を立てぬように注意しながら、各々が役割りを果たす。
コーン、コーン、コーン、コーン……
緊迫する艇内にて。
みな息を殺しては、水中にいる何者かへ想いを馳せる。
一分が過ぎ、二分経ち、ついに三分を越えた。
そのタイミングで、不意に船艇がぐらり。
揺れたのは横波を受けたからだ。
すぐ近くを何者が、かなりの速度で通り過ぎていく。
このタケノツチノコが煽られふらつくとか、相手も相当大きいらしい。
だけれども……
(この湖にはエサとなりそうな生物がいない。大きな体を持っているのならば、それだけたくさん食べるはずなのに)
いや、そもそもの話として……まともな生物なのか?
おかしな場所にいる時点で普通じゃないと考えるべきだろう。
いきなりこちらに向かってきたことからして、すでに敵認定されている可能性が高いし。
「どのみち何度も潜ることになるんだから、邪魔者は先に排除しておくべきか」
意を決した私は、消したライトを再点灯する。
向こうから丸見えになるけれども、戦うにしろやり過ごすにしろ、正体は拝んでおきたい。
ソーナーの反応を確認しつつ、私は操縦桿を引きタケノツチノコの頭を相手の方へと向ける。
すると薄暗い水中の彼方にあらわれたのは……
「えっ! ダイオウイカ」
ダイオウイカとは、まんまデカいイカである。
地球上では最大級の無脊椎動物にして、最大級の頭足類でもある。
全長は十メートルを越え、大きな個体になると18メートルにも達するとか。
ちなみに味はめちゃくちゃマズイ。
私は大学生時代に、海洋学をやっている知り合いから、冷凍した身を分けてもらったことがあったのだけれども、煮ても焼いてもスルメに加工しても喰えやしない。刺身なんて論外!
激烈なアンモニア臭にて、思い出しただけで、うえっぷ。
どうも深海を行ったり来たりするせいで、体内に塩化アンモニウムという物質を蓄えているのが原因らしい。
そういえば、その友人とはマッコウクジラVSダイオウイカでは、どっちが強いのか?
というお題でビール片手によく議論をしたものである。
実際に戦うことがたまにあるそうなんだけど、なにせ場所が深い海中でのことなので詳細は不明なんだとか。
友人によれば「あれは、もう怪獣レベルだから」とのこと。
マッコウクジラは巨体とパワーが売りの、深海の王者。
ダイオウイカはスピードと狡猾さに秀でており、深海の暗殺者。
海という広大なバトルフィールドで行われる、喰うか喰われるかのデスマッチ。
うーん、想像するだけでゾクゾクしちゃう!
ということはさておき。
「でっかっ、タケノツチノコといい勝負じゃないの!」
それすなわち30メートル級だということ。
しかもよくよく数えてみたら、足の数が多い。
通常のイカは足が八本に触腕が二本の十本構成なのに対して、こいつはプラス二本、触腕が多い。あと後頭部にも目玉がぎょろり。
三つ目だ。
つまりあれは普通のイカじゃないということ!
よって以降、ヤツを『ダイオウイカもどき』と呼称する。
絶妙な目の配置具合にておそらく視野はかなり広い。死角はほぼないと判断すべき。
みたところ機動性も、こっちとどっこいどっこいだ。
「チィイィィィ、ここはヤツのテリトリーだ。長引かせたら不利になる。先手必勝! イスケ、竹魚雷をぶちかまして――って、なっ、しまった!?」
先制攻撃をしようとした矢先のこと。
ダイオウイカもどきが、ブーっと吐いたのは大量の墨。
一瞬にして視界が塞がれた!
深海の暗殺者との異名が私の脳裏をよぎる。
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