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145 トワイライトゾーン
しおりを挟む湖の岸辺から、ゆっくりと入水……
手前の方は浅瀬になっており、なだらかな斜面が続いている。
進むほどにじょじょに水深が増していく。
それが50メートルほど先にて、突如として湖底の地形が激変した。
まるでそこから奥を、ストンと抉りとったかのようにして絶壁となっており、急激に深くなっていた。
「ふ~ん、琵琶湖の底っぽいねえ」
ご存知、日ノ本一の大きさを誇る湖。
淡海とも呼ばれており、畿内の水瓶にてとにかくデカい。
そしてここには竹生島がある。
竹を愛してやまない者ならば、その名前だけで手を合わせて拝む価値があるだろう。
古事記によると、伊吹山の男神と浅井岳の姫神とが高さ比べをして、負けた方が腹いせに勝った方の首を刎ねたのが琵琶湖に落ちてデキたのが、この島なんだとか。
なかなかに理不尽かつ酷い話ではあるが、まぁ、神話なんてこんなもの。
でもって、それがどうして竹生島と呼ばれるようになったのかとえば、最初に生えたのが竹だったから。
しかし幾星霜の刻を経て、私がフィールドワークがてら現地を訪ねたら、残念ながら生えているのは微々たるものであった。
あとアオサギやウなどの鳥のフン害により、樹木たちが枯死しまくりで被害甚大、なかなかに荒れ果てていたものである。
これにはさすがに役所も重い腰をあげて、せっせと駆除したり営巣妨害などをしたおかげで数も減って、いまではかなり環境が改善されたそうだけど……
おっと、ついついいらぬウンチクを並べてしまった。
これから未知の場所へと足を踏み入れるというのに、もっと集中しないと。
もっともこの有人潜水調査艇はツチノコ型だから足はないけれどね、プークスクス。
〇
コーン、コーン……
キツネの鳴き声みたいなのはソナー音である。
周囲に超音波を飛ばしては、返ってくる反射波を捉え、地形や何か危険な存在が蠢いていないかを調べつつ、ゆるゆる潜水中。
潜るほどにじょじょにガラス越しに見える景色が暗くなっていく。
水深200メートルを越えたあたりから、変化が顕著に。
太陽光が届く限界は、せいぜい水深1000メートルぐらいまでだ。
その光が届く範囲をトライワイトゾーン――薄明りという。
ぶっちゃけ景色は単調にてすぐに飽きてしまった。
なにせ海の中のように生態系が豊かじゃないから。色味にも乏しい。
というか、生き物らしいものは、せいぜい小魚の群れぐらいにて、いまのところコレといって見るべきものがない。
が、操縦桿を握る私はわりとたいへんだったりする。
原因は水流だ。
岸近くはおとなしいもので、水面もさざ波程度しかない。
なのに湖の内部へと潜ったとたんに、巨大な竜巻のごとき渦が轟々と巻いているではないか!?
もしも潜水服スタイルでチャレンジしていたら、たちまち湖の藻屑と化していたであろう。
コーン、コーン……
しかしこの潜水艇は頑丈かつ推進力もパワフル、それに蛇体ゆえに流れの合間をうまいことニョロニョロ動けるから、いまのところは問題はない。
けれどもメカニック担当の竹工作兵から、あまり流れに逆らうような動きはバッテリーを消耗すると言われて、私は流れに沿って潜水艇を動かすことにした。
これで燃料をかなり節約できるはずだ。
とはいえ、これだとグールグルと周遊しながら沈降することになるので、その分だけ時間がかかるから、悩ましいところだ。
本艇の連続稼働時間は24時間。
これは予備バッテリー込みの時間である。
いちおう、より安全安心に運行するために、不測の事態に備えてべつに緊急用の分も搭載されてあるが、あくまで『もしもの時』のための補助なので、プラス15分ほど延長するだけだ。
帰りのことも計算にいれたら、実際に調査に使える時間は、せいぜい18時間ぐらいだろうか。
「まぁ、一回ですべてを見て回るのはさすがに無理だろうから、とりあえず最初は湖底の城の外観やら、入り口に経路なんかを調べる程度で、中まではとても手が回らないだろうねえ」
コーン、コーン、コーン……ん?
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