竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

文字の大きさ
上 下
142 / 190

142 五大湖

しおりを挟む
 
 川の上流域には大小、五つもの湖があった。
 水量は豊富にて水質もよく、窒素、リン酸、カリウムなどが豊富に含まれている。
 植物の成長に必要な栄養がたっぷり。これはありがたい。
 いかにリブートが可能な身とはいえ、ベースは竹である我らカイザラーン。
 土と水の確保は必須にて、この発見は竹生命体としては素直にうれしい。

 えっ、燦々お陽さまはいらないのか、ですって?

 あ~、もちろんあるにこしたことはない。ぼんやり縁側で日向ぼっこをするのとか、気持ちいいもの。
 だがしかし、キノコの国に生えている光る苔で代用が利くので、必ずしもというわけではなくなった。
 シャンピニオン・ロードとの交流により、カイザラーンはさらりと弱点のひとつを克服したのである。
 もっともそれがなくとも、じきにウンサイさんが率いる黒鍬衆の研究部門が、光合成に使える人工ならぬ竹工光の開発に成功していたとはおもうけどね。

 閑話休題。

 ゾワゾワゾワ……

 五つの湖だから、今後はゴダイゴと呼ぼう。モンキーマジッ〇♪ ガン〇~ラ♪ ラララ、ギャラクシーエクスプレス・スリーナ〇ン♪
 などという冗談はさておいて。

 フルフラールから連絡を受けて現地へと急行したところ、たしかに肌が粟立つような、体の内側がまさぐられるような、なんともいえない不快感が一帯に漂っている。
 不自然な点は他にもあった。

「……良質な水場なのにもかかわらず、獣や禍々の姿がちっともいない」

 弱肉強食、つねに激しい生存競争が繰り広げられている野生の王国、樹海でもかなり奥まったところ。
 そしてたいていのケダモノは、生きるのに水を必要としている。
 だから水辺には生き物が自然と集まってくるもの。
 なのにここにはいない。ざっと見て回ったが痕跡すら見つけられなかった。
 それすなわち、樹海の住人たちがここを忌避し、敬遠しているということ。

「もしかして水の中にヤバい生き物でもいるのかしらん」

 凶悪かつ凶暴な水棲生物がいて、獲物がふらふらと水辺に近寄ったところを、いきなりバクリ! とか。
 うーん、いかにもありえそう。
 だから私たちは用心しつつ、そろりそろり、岸へと近づいてみたのだけれども、特に何もあらわれず。
 風によるさざ波、湖面が陽光を受けてキラキラとしているばかりであった。
 とんだ肩透かしである。

 ゾワゾワゾワ……

 にしても本当に気持ち悪い。
 そんなゾワゾワなのだが、ゴダイゴのうちのひとつ、北東にある一番大きな湖のところへと近づくほどに、より強く感じられるようだ。
 湖中央へと突き出ている岸辺に立てば、かつてないほどに鮮明かつビンビンに伝わってくる。
 でもって、その段階になって私はようやく、これと似たような感覚を以前にも感じたことを思い出した。

「まさか、これってアレと同じなんじゃあ……」

 それはシロクロコムことパンダクマの三兄弟との最終決戦のおり。
 次男坊のカンスケが持っていた杭のような遺物がまとっていた、妖しげな気配に極めて酷似している。長さは三メートルほど。見た目は大きなサビたクギのような形をしていた。

 カンスケと戦っていた竹忍者軍団。
 圧殺の陣を敷き、仕留めにかかったところで、突如として切断されたのがリグニンコード。
 リグニンコードは目には見えないモノで、竹生命体である私たち以外には触れることも、感じることもできないシロモノ。地下茎からのびたコードは竹人形たちに接続し、つねにリグニンパワーを供給し続けている。
 その接続が突如としてプツプツ途切れがちとなった。
 さながら通信状況の悪いWiFiのようにて安定しない。
 かといってコードが完全に断裂したわけではなくて、システムそのものには異常は見られず。
 あくまでリグニンパワーの流れを一時的に阻害しているだけのようだが、そのせいで竹忍者たちがおかしくなってしまったのである。
 これにより包囲網は破られてしまい、危うく竹忍者軍団は壊滅寸前にまで追い込まれた。

 そんな危機的状況を招いた遺物は戦闘終結後に回収され、第二拠点の研究班により分析されているが、いまもって詳細は不明なまま。
 わかっていることといえば『空白の千年』時代に作られた物であることと、私たちハイボ・ロード種にとって相性最悪にて、油断のならない存在だということぐらいだ。

「ここにいったい何が……」

 腕組みにて私がくだんの湖をにらんでいた時のことである。
 一陣の風が吹き、水面を大きく揺れて波打つ。
 刹那、光の反射の加減で、ほんの一瞬だけど湖の透明度があがって、かなり深いところまでが見通せたのだけれども。

「へっ!? あれ、いまの影って、もしかしてお城じゃない!」

 どうやらここには、どえらいシロモノが沈んでいるらしい。


しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

御者のお仕事。

月芝
ファンタジー
大陸中を巻き込んだ戦争がようやく終わった。 十三あった国のうち四つが地図より消えた。 大地のいたるところに戦争の傷跡が深く刻まれ、人心は荒廃し、文明もずいぶんと退化する。 狂った環境に乱れた生態系。戦時中にバラ撒かれた生体兵器「慮骸」の脅威がそこいらに充ち、 問題山積につき夢にまでみた平和とはほど遠いのが実情。 それでも人々はたくましく、復興へと向けて歩き出す。 これはそんな歪んだ世界で人流と物流の担い手として奮闘する御者の男の物語である。

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝
ファンタジー
来たる災厄に対抗すべく異世界に召喚された勇者たち。 その数、三十九人。 そこは剣と魔法とスチームパンクの世界にて、 ファンタジー、きたーっ! と喜んだのも束の間、なんと勇者なのに魔法が使えないだと? でも安心して下さい。 代わりといってはなんですが、転移特典にて星のチカラが宿ってる。 他にも恩恵で言語能力やら、身体強化などもついている。 そのチカラで魔法みたいなことが可能にて、チートで俺ツエーも夢じゃない。 はずなのだが、三十九番目の主人公だけ、とんだポンコツだった。 授かったのは「なんじゃコレ?」という、がっかりスキル。 試しに使ってみれば、手の中にあらわれたのはカリカリ梅にて、えぇーっ! 本来であれば強化されているはずの体力面では、現地の子どもにも劣る虚弱体質。 ただの高校生の男子にて、学校での成績は中の下ぐらい。 特別な知識も技能もありゃしない。 おまけに言語翻訳機能もバグっているから、会話はこなせるけれども、 文字の読み書きがまるでダメときたもんだ。 そのせいで星クズ判定にて即戦力外通告をされ、島流しの憂き目に……。 異世界Q&A えっ、魔法の無詠唱? そんなの当たり前じゃん。 っていうか、そもそも星の勇者たちはスキル以外は使えないし、残念! えっ、唐揚げにポテトチップスにラーメンやカレーで食革命? いやいや、ふつうに揚げ物類は昔からあるから。スイーツ類も充実している。 異世界の食文化を舐めんなよ。あと米もあるから心配するな。 えっ、アイデアグッズで一攫千金? 知識チート? あー、それもちょっと厳しいかな。たいていの品は便利な魔道具があるから。 なにせギガラニカってば魔法とスチームパンクが融合した超高度文明だし。 えっ、ならばチートスキルで無双する? それは……出来なくはない。けど、いきなりはちょっと無理かなぁ。 神さまからもらったチカラも鍛えないと育たないし、実践ではまるで役に立たないもの。 ゲームやアニメとは違うから。 というか、ぶっちゃけ浮かれて調子に乗っていたら、わりとすぐに死ぬよ。マジで。 それから死に戻りとか、復活の呪文なんてないから。 一発退場なので、そこんところよろしく。 「異世界の片隅で引き篭りたい少女。」の正統系譜。 こんなスキルで異世界転移はイヤだ!シリーズの第二弾。 ないない尽くしの異世界転移。 環境問題にも一石を投じる……かもしれない、笑撃の問題作。 星クズの勇者の明日はどっちだ。

処理中です...