138 / 190
138 ひなかざり
しおりを挟む痴れ者どものせいで、危うく鬼才がダメにされてしまうところであった。
もしもそうなっていたら世界的損失にして、仮面プロジェクトにも大ダメージを受けていたことであろう。
だが結果オーライだ。バカどもが暴走してくれたおかげで、こちらは堂々と有望な人材を僻地に招くことができたのだから。
無事にオーイ女史と家族を保護できて、やれやれである。
彼女たちの身柄は合流した飛空艇ヤダケにてすみやかに輸送された。
一家は窓の外に広がる空の景色に終始ポカンとしていたけれども、それはさておいて。
とりあえず辺境の町へと連れ帰り、バムブック商会預かりとする。
オーイ女史は私の専属能面師となることをすでに了承しており、近いうちに彼女の工房も立ち上げる予定だ。
とはいえ、べつに創作活動に制限を設けるつもりはない。
私の仮面作りを優先してもらうけれども、それ以外は好きにしてもらってかまわない。
一家ともども工房に隣接する宅にて暮らし、今後は何の気兼ねもなく辺境の町で存分に腕を振るってもらうつもり……であったのだけれども。
「是非、一度、御方さまに会ってお礼を述べたい。それにより良い仮面を作るには、やはりつける当人に会う必要がある」
とオーイ女史が言い出した。
たしかにジャストフィットし、かつ似合うお面を創作するには、つける本人に会うのが一番だろう。いかに詳細な採寸データを渡したところで、イメージだけではどうしても齟齬が生じる。創作のインスピレーションも湧きづらいだろう。
じかに感謝を伝えたいという想いだけでなく、創作に携わる一芸術家として、そこはどうしても妥協できない。
「より優れた面を作るためには、どうしても必要なのです。どうか、どうか」
土下座でもしかねない勢いにて懇願されて、後見人となっているジュドーくんもたじたじだ。
困ったジュドーくんが竹通信で相談してきたのだけれども、私は「ムムム」と考え込む。
オーイ女史の言ってることはもっともだ。
が、問題はこちら側にある。
私たちはハイボ・ロード種にて、アンスロポス族の彼女からした次元のちがう高位種族に属する。
腕利きの探索者であったジュドーくんですらもが、初見時にはすっかり萎縮していた。
いまでこそ慣れたけれども、数多の冒険をし幾多の死線を潜ってきた彼ですらもが、気を抜けば卒倒しかねないほどの衝撃だったというのは、当人談。
一般人にしては肝が座っている方とはいえ、はたして彼女の精神が耐えられるであろうか?
会うのは別にかまわない。
直接、こちらの要望を伝えられるメリットは大きい。
しかし、私の隠し切れないカリスマ性とオーラに当てられて、彼女が心身に異常をきたしてしまっては、せっかく助けた意味がない。
「う~ん……どうしたものやら」
〇
某日、竹林の邸宅にて。
あれこれ悩んだ末に、私はオーイ女史との面会に応じることにした。
いや、いちおう事前に「会うのはいいけど、腰を抜かしたり、トラウマになっても知らないよ?」と警告した。
だが「それでもかまわない」と彼女の意思は固かった。
面会時、私は唐衣裳装束――いわゆる十二単のこと――に身を包み、頭は大垂髪に結いあげ、平額と釵子と櫛からなる冠をつけている。
いわゆる雛人形のお雛さまスタイルだ。
三人竹官女たち、渾身の装いにて。日頃、私が邪魔くさがってあまり装いをいじらせない反動からか、ここぞとばかりによってたかって世話を焼かれた。
その甲斐もあって、どこからどうみてもやんごとなき姫君に仕上がった。
でもって顔には、モブ顔の面ではなくて、オーイ女史がコンペに出展した作品のうちの女面をかぶっている。
そればかりじゃない。
面会の場の演出にも三人竹官女らはこだわった。
邸内にある大広間に、わざわざ五段からなる雛壇を設けては、朱色の大布を敷き、最上段には金屏風や雪洞まで飾る。
最上段に座すのは、もちろん私こと竹姫だ。
で次段から三人竹官女、竹武者らが扮装した五人囃子、随身役は竹侍大将サクタと竹女武将マサゴ、三人の仕丁役は竹忍者コウリンと竹僧兵ベンケイと竹砲兵イスケらを配置するという徹底ぶり。
うちの主力メンバーであるネームドが揃い踏み。
なお必要な舞台や小物類はウンサイさんら竹工作兵たちががんばってくれた。あいかわらずいい仕事をする。
かくしてお内裏さまのいない、五段飾りの等身大雛飾り(竹人形バージョン)が出来たんだけど。
ちょとやり過ぎたかもしれない。
過剰演出に驚いて、オーイ女史が卒倒しなければいいんだけど……
準備万端、整ったところで、いよいよお客人を迎えることとなった。
24
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
ハズレ召喚として追放されたボクは、拡大縮小カメラアプリで異世界無双
さこゼロ
ファンタジー
突然、異世界に転生召喚された4人の少年少女たち。儀式を行った者たちに言われるがまま、手に持っていたスマホのアプリを起動させる。
ある者は聖騎士の剣と盾、
ある者は聖女のローブ、
それぞれのスマホからアイテムが出現する。
そんな中、ひとりの少年のスマホには、画面にカメラアプリが起動しただけ。
ハズレ者として追放されたこの少年は、これからどうなるのでしょうか…
if分岐の続編として、
「帰還した勇者を護るため、今度は私が転移します!」を公開しています(^^)

御者のお仕事。
月芝
ファンタジー
大陸中を巻き込んだ戦争がようやく終わった。
十三あった国のうち四つが地図より消えた。
大地のいたるところに戦争の傷跡が深く刻まれ、人心は荒廃し、文明もずいぶんと退化する。
狂った環境に乱れた生態系。戦時中にバラ撒かれた生体兵器「慮骸」の脅威がそこいらに充ち、
問題山積につき夢にまでみた平和とはほど遠いのが実情。
それでも人々はたくましく、復興へと向けて歩き出す。
これはそんな歪んだ世界で人流と物流の担い手として奮闘する御者の男の物語である。
柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治
月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。
なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。
そんな長屋の差配の孫娘お七。
なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。
徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、
「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。
ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。
ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

原産地が同じでも結果が違ったお話
よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。
視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

冤罪で追放した男の末路
菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる