竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

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 第一回仮面コンペ。
 主催者側から参加者らには事前に課題を与えてある。
 それは「男」「女」「自由」の三つ。
 男と女については、そのままだ。
 自由はフリースタイル、デザインやテーマなど好きにしてかまわない。
 提出された三種類のお面、その総合得点により評価する。
 なお審査は十点満点中いくつかで査定し、合計得点を集計し競う。

 エントリーナンバー1番、キリア工房のお面。
 男性型は、黄金の地に銀で模様が描かれたモノ。
 女性型は、白銀の地に金で模様が描かれてある。
 自由型は、カラフルな蝶々を模したモノで、目元だけを隠すマスクタイプだ。
 三つともに頭巾や羽飾りなどの装飾品と組み合わせることで絢爛となる仕様で、ヴェネチアのカーニバルの仮面っぽい。仮面舞踏会とかが似合いそう。
 かといって派手なだけじゃない。鼻筋や顎のラインなどを微妙に調整することで、男女の見分けをつけており、繊細な匠の技が光る。

 このキリア工房、じつはイーカリオスで王家御用達の看板を掲げていただけあって、腕はたしか。
 けれども順風満帆だった経営が、今回の内戦により窮地に陥ってしまった。
 工房のある地域の領主が反王家派にくみしたことで、とたんに肩身が狭くなってしまったのだ。
 ただでさえ売上がガタ落ちなのに、周囲からも白い目で見られて、すっかり針のむしろなんだとか。
 しかし今回のコンペに勝ったら、高額報酬かつ数千単位の受注を得られる。
 傾いている経営を持ち直せるとあってか、工房側もかなり気合いを入れてきた模様。
 それがヒシヒシと伝わってくる力作であった。
 審査員らからもおおむね好評で、かなりの高得点が期待できるだろう。

 ではここいらで、少しこちらの世界での芸術界隈の事情について触れておこうか。
 あいにくと能面師のように仮面を専門に扱う者はいなかったけど、この世界にも芸術家はいる。
 たいていが工房に所属している。
 なぜなら創作に必要な道具や素材を揃えるのに便利だからだ。
 展覧会の実施、顧客からの依頼、作品の売買、その他もろもろ。
 余計な雑事を工房側が一手に引き受けてくれるおかげで、所属している芸術家たちは自分の創作活動に専念できる。
 まぁ、野球でいうところの球団と選手の関係みたいなものだ。

 当然ながら工房とて、誰でも彼でも面倒をみるわけじゃない。
 商売である以上は稼がねばならぬ。だから売れっ子は優遇されるし、あまり人気のない者の扱いはそれなりに。
 だが、これはまだいい方である。いちおうはちゃんと面倒をみてくれているのだから。
 やっかいなのが工房側とモメた時だ。
 最悪、干される。
 たちまち困窮し、絵具ひとつを手に入れるのも、ままならぬように……
 両者のパワーバランスがやや歪にて、現状を不満に感じている芸術家も多いんだとか。

 あとは金持ちのパトロンがつき、個人で活動しているケースもあるが、これはかなりの少数派。
 お抱えになれるほどの才能ともなれば、そもそも周囲が放っておかない。
 各工房が好条件にてスカウトしては、そうそうにガッチリ囲い込んで離さない。
 なのにフラフラしているということは、人格か経歴に重篤な瑕疵かしがあるということ。
 いかに優れていようとも、いつ暴発するかわからない爆弾のような者を迎え入れるには、かなりのリスクをともなう。よって敬遠されがち。

 ……といった感じで、こちらの芸術界隈は少々窮屈で息苦しいのが実情だ。

  〇

 続いて舞台袖より竹女官のヒコノが、台座付のカートを押して舞台中央へと。
 台座にかけてあった紫の布をひらり、雅な仕草にて取り払う。
 お披露目されたのはエントリーナンバー2番、タッフル工房のお面だ。
 男性型は、なんとフルフェイス!
 でもってデザインは特撮の変身ヒーローっぽい。あの虫でライダーでキックなアレである。
 女性型は、フィメールタイプのマスク。シリコンのような伸縮性のある柔らかな素材で仕上げられており、肌の質感が本物っぽい涼やかな目元の艶っぽい美人さん。
 自由型は、まさかまさかの犬神家のスケキヨマスク!

 これに私は「ガハハ」と腹を抱えて大爆笑するも、横溝正史先生を知らないフルフラールたちはきょとん。
 どれもインパクト抜群にて奇抜なデザインである。
 が、たんに受け狙いというわけでもないらしい。
 タッフル工房から仮面といっしょに送られてき仕様書によれば「化粧をしたり、かつらをかぶせたり、お好みのままに」とある。
 どうやらスケキヨマスクをベースとして、細かなカスタマイズに対応してくれるようだ。
 もちろん自分でメイクをやってもいい。
 なにげに応用が効き、ユーモアもある。
 じつに個性的な仮面ばかりだが、それもまた自分たちの技術力の高さをアピールするためのチョイスのようだ。
 だとすれば、その目論みは成功したと言っていいだろう。
 どうやらタッフル工房は、町工場の技術者集団っぽいらしい。

 でもそんな工房もやはり戦火の影響を受けて、経営状態はあまりかんばしくないそうな。
 戦時下でしょうがないとはいえ、う~ん世知辛い。

 コンペは続く。


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