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129 バムブック商会
しおりを挟む「そろそろモブ顔を卒業しよう、そうしよう」
とおもいたち、唐突に始まった仮面プロジェクト。
フルフラールたちと親しく接するようになって、私はつくづく考えさせられた。
「あー、やっぱり見た目って大事だわ」と。
いやほら、シャンピニオン・ロードたちってば、みんな美形揃いじゃん。
どこの歌劇団だよ! ってぐらいスラリとして、優雅で、ひらひら華麗で。空からフワフワ舞い降りる姿なんて天女のよう。
まぁ、実態はキノコに手足が生えて美擬人化したものなんだけどね。
とんだ見た目詐欺、カムフラージュ、擬態である。
が、それはともかくとして容姿に優れている利点は多い。
遭遇時、知性ある他種族の大半が鼻の下をのばして、デレっとすること間違いなしであろう。
油断する。警戒されない。
それはもう立派な武器だ。
では、私たちカイザラーンはどうであろうか?
全員、同じモブ顔の竹人形である。
深い竹林の奥でこんな集団と遭遇したら、十中八九、相手は気絶するか、悲鳴をあげて逃げ出すだろう。もしくはバケモノ呼ばわりされて攻撃をされるか。
ファーストコンタクトをミスると、のちのちまで尾を引くからあなどれない。
え~と、たしか初頭効果だったっけか。
第一印象は出会ってからわずか数秒で形成され、相手は無意識のうちに外見、表情、態度、話し方などを総合的に評価し、印象を決定する。
この最初の情報がその後の評価に強く影響を与えるとか、うんぬんかんぬん。
ようは嫌われたくなかったら、身だしなみには気をつけましょう。
なんだかんだで美人は得だ。
という身もフタもないお話。
うん。私たちの場合は嫌われる以前の問題だな。
むしろ好かれる要素がない。
動く竹人形たちを見て「おっ、カッケー」とテンションがあがるのは、私のような無類の竹好きぐらいだろう。
戦略的互恵関係を持ちかけてきたフルフラールたちは例外だと考えた方がいい。
なんだかんだで、シャンピニオン・ロードたちはハイボ・ロード種なのだ。
自分たちに自信があるからこそ、他者の外見に惑わされることがない。冷静かつ理性的に相手の本質を見極める目を持っている。
他種族にそれを求めるのは、いささか酷な話にて。
ゆえにここは私たちの方から、ちょびっと歩み寄ってやろうではないか。
そのためのお面プロジェクトなのだ。
プロジェクトの肝となるのは、お面造りに欠かせない人材の確保である。
そこでまずは元凄腕の探索者であるジュドーくんに「イーカリオスから流出した人材のなかで、コレは! という人材がいないか捜して」と依頼した。
ちなみにどうして『元』なのかというと、彼は現在、うちの縄張りから一番近い辺境の町に妹さんともども移住しており、探索者稼業からは足を洗っているから。
現在の彼の肩書は、表向きの顔はバムブック商会の会長にて、裏の顔はうちの外部協力員&家庭教師である。
もともとジュドーくんは難病に苦しむ妹さんを救うために探索者をやっていた。
けれどもその問題は、私が提供したエリクサーもとい竹瀝によって解決する。
もちろんタダじゃない。その際の契約によって彼は唯一の外部協力員となった。
でもってバムブック商会は、新たに立ち上げたうちのフロント企業である。
バムブック商会で扱っている商材はおもに、私たちが樹海で採取した薬草やら禍々や獣から得た素材だ。
樹海内は野生の王国。
生態系が狂いまくっており、イカれた危険生物たちがうじゃうじゃしている。
おかげで狩り放題! 肉と禍石にはこと欠かないものの、それ以外は基本的に不要にて。
解体するたびに毛皮やら骨とか鱗とか、その他もろもろが、どっちゃり余る。
何かに使えそうなモノや、キレイなモノとかは取って置き、それ以外は穴を掘って捨てていたのだけれども、その光景をたまたま目にしたジュドーくんが「ぎゃーっ、もったいない!」と悲鳴を上げた。
なんでも出すところに出せば、けっこうな高値で売れるそうな。
とはいえ、あいにくとうちにはその伝手がない。
ジュドーくんならば探索者協会の支部を通じて売りさばけるけど、個人で持ち込むにしては量が多すぎるし、どうしたって悪目立ちする。いらぬ詮索をされることになるだろう。そうなれば背後にいる私たちの存在にも気づかれる恐れがある。
こちとら、べつにやましいことなんて何もないけれど。
痛くない腹を探られるのは、ちょっと……
あと欲にかられた連中が大挙して、うちに押しかけてきたら……残らず返り討ちにし、竹林の養分にするとして。
矛先がジュドーくんや妹ちゃんに向かう可能性もある。
ジュドーくんは戦えるけど、妹ちゃんはまだ幼い。せっかく治してあげた幼子が犠牲になるのは、さすがに看過できない。
そこで隠れ蓑として商会を立ち上げることにした次第。
商売そのものの経験はなかったジュドーくんだが、彼にはこれまでの探索者活動で培った知識と広い人脈がある。探索者協会にも顔が利く。市場の相場などにも精通しており、マジメな仕事ぶりからご贔屓筋も多い。信用のおける取引先にはこと欠かない。ある程度の自衛もできるし、商会をまかせるのにはうってつけであった。
〇
私が庭で竹イヌのヘミとたわむれていると、竹女官のタマキがあらわれた。手には竹電話を持っている。
受け取った私は「もしもし」
「ジュドーです。竹姫さまのお眼鏡にかないそうな人材の候補が、何人か見つかりました」
朗報である。
本来ならば、すぐにでも会いに行きたいところだが、あいにくと私たちの行動範囲は限られている。
そこでコンペを開催することにした。
候補者たちにお面造りを依頼して、出来上がった品を審査し、最終候補を選定することにするのだ。
「はてさて、気に入るのがあればいいんだけど」
必要な手配はすべてジュドーくんに丸投げ。
果報は寝て待て。
あとはのんびり待てばいい。
「散歩に行こっか、ヘミ」
私が声をかけたら、竹イヌはうれしそうに尻尾を振りながら駆け寄ってきた。
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