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126 ジャイアント竹姫

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 ガブっとかじりついては、モグモグ……ごっくん。

「う~ん、微妙」

 超貴重なキノコ・マーグヌム。
 毒々しい見た目に反して、歯ごたえはシャキっとリンゴっぽい。けど味はイチゴのシロップを薄めたような感じにて、薫りは温めたキュウリのよう。呑み込んだあとには、ほのかに苦味が残るのはピーマンっぽくもあるか。
 なんていうか……頭が混乱する味だ。
 マズイと吐き出すほどではなく、さりとてウマいとはけっしていえない。

 釣鐘型の赤い傘の部分からバクバク、ついには柄の端まで食べ尽くしたところで、私は「けふっ」
 すると、あら不思議!
 みんながみるみる小さくなっていくではないか?
 いいや、ちがう。そうではない。私の体がムクムク大きくなっているのだ。
 あっという間に大柄なサクタの脳天を見下ろすほどになり、ほっそりしていた手足も丸太のように太くなっていく。
 ついにはなめくじドラゴンことマダラオオスラッグと同じほどの背丈にまで大きくなっちゃった。

 これにより某特撮番組のごとく、怪獣VS巨大変身ヒーローという構図が出来上がった。

「ジョワッ! これならイケるかも」

 ジャイアント竹姫、降臨す。
 体が大きくなった私は気もデカくなった。
 そこで足下に転がっているゾウタケの一本を拾うなり、これでマダラオオスラッグを殴打する。

 カッコォ――――ン!

 それはそれは小気味よい音がした。
 横っ面を張られたマダラオオスラッグは「キャオン」と悲鳴をあげる。
 けれども怯んでいたのは、ほんの一瞬のこと。
 すぐに轟々と炎を吐いては反撃してきたもので、私は「うひゃあ」とあわてて横へ転がり回避する。
 大きくなったということは、それだけ的がデカくなったということ。互いの攻撃が当たりやすくなっている。用心しないと、たちまち火ダルマにされかねない。
 そして避けるにしても、周囲の仲間たちを踏み潰さないように気をつけないと……

 などと気を引き締めていたら、あれれ?
 視点が何やら変である。
 さっきまではマダラオオスラッグと同じぐらいで、真正面から見据えるように対峙していたというのに、ぐりんぐりんと転がってから立ち上がったら、ヤツよりも頭ひとつ分ぐらいこっちが大きくなっているではないか。

「え、ちょ、ちょっと待ってよ。もしかして、まだ大きくなるの?」

 どうやら動いたことで体内でマーグヌムの成分がシェイクされて、全身に行き渡ったらしい。
 とどのつまり、さっきまでのは第一次成長期に過ぎなかったということだ。
 続けて第二次成長期が始まっているっぽい。

「って、えぇー! どこまで大きくなるのよ、コレ?」

 いつしか相手を完全に見下ろす格好になっており、これにはマダラオオスラッグもあんぐりにて、私もぽかんだ。
 怪現象に理解が追いつかない。
 互いにぼんやり見つめ合ううちにも、まだまだ私の巨大化は止まらない。

 ……
 …………
 ………………え~と。

 第二次どころか、第三、第四、第五と成長期は続く。
 そうしてついにはキノコの国のシンボルっぽい特大キノコと同程度のサイズになったところで、ようやく止まった。
 ちなみに特大キノコは、渋谷109ほどもあったりする。あのスクランブル交差点に面した丸いビルね。

 ハハハ、足下にいるみんながまるでアリンコのようだ。
 でもってマダラオオスラッグですらもが、脱ぎ捨てたサンダルの片方ぐらいしかない。
 それだけ私が大きくなったということ。
 大空洞の天井が近い。ちょいとジャンプしたら手がつきそう。まぁ、やらないけどね。こんな巨体で飛んだり跳ねたりしたら、局地災害になってしまうから。

「にしても食べたら巨大化するキノコ……か、とんでもない隠し玉があったもんだよ」

 おそるべし、キノコの国。
 おそるべし、シャンピニオン・ロード。
 おそるべし、菌類の万能性。

「あっ、そういえば巨大化するキノコだけじゃなくて、パワーアップするキノコもあるってフルフラールが前に言ってたっけか。マジでヤベーなキノコの国」

 もしかしたらバナナスラッグなんぞよりも、よっぽどおっかない存在なのかも。
 いやはや、早々に友好的互恵関係を築けたのは幸運であった
 今後とも仲良くしていこう。
 私がウンウン独りごちていると、耳元でブブブと翅音がした。
 竹蜻蛉が顔の近くを飛んでいる。足には竹電話を持っており、聞こえてきたのが「いつまでもぼんやりしていないで、さっさと片付けてくださいな」というフルフラールの声。

 女王さまから叱責を受けて、私は「ヘイヘイ」
 返事をするなり前屈みにて一歩踏み出しては、右腕にて抉り込むようにして放ったのはボディブローである。
 逃げようとしていたマダラオオスラッグの腹部へと拳が深々と突き刺さった。
 圧倒的質量の暴力を前にしては、ヤツの再生能力も形無しだ。
 拳が貫き、体内にあった三つの禍石を外へとはじき飛ばしては、大きな風穴を開けた。
 これにより異能が発動できなくなったマダラオオスラッグ。
 ドラゴンの姿も維持できなくなり、ただの巨大なめくじへと戻ったところを、みんなから寄ってたかってタコ殴りにされてゲームオーバー。

 かくして、スラッグパニックは収束したのだけれども。

「えっ、体が元に戻るのに七日もかかるの! 聞いてないよぉ~」

 巨体ゆえに下手に動くと被害甚大。
 だから、邪魔にならないように隅っこでじっとしていなければならない。
 まさかラストにこのようなオチが待っていようとは……
 特大キノコの隣で三角座りをしいられ、私はトホホ。


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