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125 マーグヌム
しおりを挟むゴォオォォォォォォーッ。
なめくじドラゴンが炎を噴く。
翼をはためかせては風を起こし、その火を煽っては一帯を焼き払う。
うにょーんとのびるのは軟体が変じた触手にて、これをブンブン振り回し、ムチのように操っては、打! 打! 打!
合間にペペペと吐き出される大量のバナナスラッグたちは……気持ち悪いけど「だからどうした?」
だが、それといっしょにまき散らされる粘液は、ねちょねちょしており噛み捨てられたガムみたいにくっつく。うっかりグニャリと踏んだら、なかなかとれない。そしてなぜだか無性に腹が立つ。
他にもピューッと放水される茶色い液体もあり。
これがまたやっかいにて、触れたらドロリと溶けてしまう。酸性はさほど強くなくて、せいぜい指紋が消える程度だろうけど、すぐに処置しないとジワジワ内部に浸蝕してくるから困り物。
復活したマダラオオスラッグ、怒涛の反撃を開始!
それを前にして私たちはキャアキャア逃げ惑うばかり。
だってしょうがないじゃない! 下手に切り込んだら得物がヤツの体液で使い物にならなくなるんだもの。かといって遠距離攻撃は、ほぼほぼ封じられているようなものだし。
私の竹鉄砲はもはや通用せず。イスケの竹ライフルとサクタの弓はまだ効くけれども、せっかくダメージを与えても、すぐに再生しちゃうからほとんど意味がない。矢玉の浪費にて、せいぜい牽制どまりである。
さりとてやられてばかりなのも業腹にて。
私は隙をみて「むむむむむ、滾れリグニンパワー! くたばれ! ちくちく地獄!」
ちくちく地獄とは、地面から竹槍で獲物をブスリとする技の上位版にて。
通常は一本、ないし二本ぐらいのところを、一挙に数十もの竹槍を繰り出しては相手をちくちくする鬼畜技である。なおネーミングは竹々をもじって命名した。
地中より飛び出した大量の竹槍により、串刺しとなったマダラオオスラッグ。
が、三つの禍石はスルリと体内を移動して、かすりもせず。いくら再生してへっちゃらとはいえ、痛みをまったく感じないわけではないようで、禍石を攻撃されるのはイヤなようだ。
などと考察しているうちにも、はや竹槍林からぬるりと抜け出したマダラオオスラッグが攻撃を再開したのだけれども……
「げっ、何よこれ!? ばっちい!」
カーッ、ペッ。
いきなり痰みたいなのを吐いてきたもので、私は跳び退って回避する。
しかし地面にべちゃりとくっついたひょうしに、跳ねた飛沫のひとつが手についてしまった。
とたんにその箇所が熱くなり、ボウ!
自然発火したもので「うわっ、あちち」
その痰は可燃性にて、見れば地面についた方も燃えている。
慌てて腕の火を消そうとするも「なにこれ? 消えなんですけど!」
手で叩いても、土に擦りつけても消えることなく、執拗にブスブス燻り続けている。
まるで火炎放射器に使われるゲル状の燃料のようだ。
見かねたサクタが腕の表面のみを刀でスパッとこそぎ削ってくれたおかげで、大事には至らなかったけど、処置が遅れていたら腕一本を持っていかれるところであった。
「ウソでしょう、ここにきてまだ攻撃パターンが増えるだなんて……」
ダメだ。パワーバランスの崩壊が止まらない。
このままでは押し切られる。
「どうする? どうしたら……」
打開策がおもいつかないもので、私は大いに焦る。
でも、そのタイミングでフルフラールとベンケイが率いる後続部隊が駆けつけてくれた。
これでずっと押され気味だったのが、いくぶん盛り返すことに成功する。
しかし、それだけだ。
攻め切れない。決定打に欠けたまま。戦闘を継続すればするほどに、マダラオオスラッグが強力になるばかり。
苦戦のさなかのことであった。
「こうなったら仕方がありません。こちらをお使いください」
と、フルフラールが差し出してきたのは一本のキノコ。
傘は赤色で柄が白い。傘のところに付着した白いイボイボがなんとも特徴的。
まるで童話やマンガなどに登場する毒キノコっぽい見た目にて、ずんぐりむっくりとしたフォルムが、なんとも愛らしい。
「えーと……これは?」
私が訊ねたらフルフラールは「秘蔵のマーグヌムです」と答えた。
マーグヌム。
いろんな種類のキノコが生えている地底の大空洞でも、いっとう珍しい貴重なキノコ。300年に一度しか生えない。食べれば一時的に体が大きくなる。
テレッテ♪ テテレ♪ テ♪ ピョン、ムクムクムク~っといった具合に。
巨大スラッグに対抗するには、こちらも大きくなればいい。
火力が足りない分を根性と質量で補うのだ。
「……というわけで、さぁ、どうぞ召し上がれ。生でガブっといっちゃってください」
ずずい、と。
マーグヌムを突きつけてくるフルフラール。
「なんで私が!? だったらフルフラールが食べればいいじゃないの」
「そうしたいのは山々ですが、あいにくとわたくしどもはホラ、とっても軽い身ですから。元が胞子なもので、大きくなってもしれたもの。
接近戦でとても頼りになるサクタ殿が食べられたらよかったのですが、あの方は基本、水かお酒ぐらいしか召し上がりませんよね?
となれば、残るは……」
なんてこったい!
よもや、異世界くんだりにまできて、スーパーキノコでシュワッチするハメになろうとはおもわなかったよ、とほほ。
「ちくしょう、あとで覚えてなさいよ」
私はひったくるようにして受け取ったキノコを、ガブリ。
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