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124 ワンホールショット
しおりを挟むサクタにより切り倒されたゾウタケの柵。
巻き込まれ、墜落したマダラオオスラッグが立ち上がるのと、私が接敵するのはほぼ同時であった。
私は駆け寄りながら、素早く腰のポーチより取り出した二本の竹筒を順番に投げつける。
ピンを抜き一本目は頭部目がけて、二本目は足下へと。
クルクルと回りながら飛んで行った一本目は竹閃光弾だ。ボンッと大音声を響かせては、ピカッと光る非致死性兵器。
ここは地底の大空洞にて、光る苔などのおかげでそこそこ明るいけれども、地上に比べたらぜんぜん薄暗い。
そんな場所でずっと生活してきたヤツのことだ。きっと強い光に弱いはずとにらんでの初手であったが、その通りにて。
いきなり顔の近くで生じた閃光にびっくり、マダラオオスラッグは「イヤァアァァオ!」と叫んではかま首をそらす。
そのタイミングで足下に転がる二本目がドカンと盛大に爆ぜた。竹手榴弾にて、こちらはばっちり致死性兵器である。
が、この程度の火力ではマダラオオスラッグには通用しないし、もとよりそのつもりもない。私の狙いは……
「ウマォーオ!」
突如として足下で起こった火柱にマダラオオスラッグが寄声を発する、驚きと苦痛と怒りにてジタバタしては上体をあげた。
伏せていたのが立ち上がったかのような態勢となる。
これによりあらわとなったのが、胸元から腹へとかけての部位。
ヤツの体内にある三つの禍石が丸見えとなったところで――
「いまよっ!」
私が合図するなり、ダーンという銃声と、ヒュンという風鳴りがした。
イスケの竹ライフルが火を噴き、サクタの強弓が射られたのだ。
どちらも狙いあやまたず、禍石に命中し、見事に対象を破壊する。
それに遅れること、ほんのわずか。
私が残りの禍石へと目がけて竹鉄砲をぶっ放つ。サクタたちの攻撃の威力にはずっと劣るけど、至近距離だからどうにかいけるか?
と、おもわれたのだけれども。
残念ながら弾丸は禍石のすぐ手前で止まった。ヌメヌメした軟体に阻まれてしまったのだ。
だが、諦めるのはまだ早い。
「だったら、これならどう?」
片手で握っていた竹鉄砲を両手持ちにし、銃口をしっかり定め次弾を発射する。
火力が足りないのを嘆いたところでせんもなし。そこで私は先に開けた穴へと向けて撃つ。ワンホールショットだ。
ワンホールショットとは、一度銃を撃ってつけた穴にもう一度命中させること。 二回連続で同じところに当てる射撃の高等テクニック。針の穴を通すような命中精度が求められる。
フフン、私とて伊達に何度もリブートしてはいないのだよ。体の成長にあわせて、心技もばっちり育っているのだ。
私の放った二発目の銃弾は、はや閉じかけていた穴へと吸い込まれていく。
そして奥で立ち往生していた一発目の尻をおもいきり「えいや」と蹴飛ばしたところで――
パキャン!
最後の禍石を砕くことに成功した。
だがしかし……
どうやらほんの少しばかり遅かったらしい。
「そんな! いくらなんでも再生スピードが速すぎる!」
サクタとイスケが砕いた分が、すでに元の姿に戻りつつあった。
よくよく見てみれば、新しいのが作られているのではなくて、破片同士がくっついてはひとつとなり、それがまた他の欠片と結びつくことで、急速に禍石を再構築しているようだ。たしかにこの方法ならば一から作り直すよりも、ずっともっと速い。
そしてとっても残念なお報せだが、これにより三つの禍石を同時に壊しても、マダラオオスラッグは一時的に苦しみこそすれ、死ぬことはないということが、ほぼ確定してしまった。
「なんてこったい! ただ壊すだけじゃダメだ。体の外に取り出して壊さないと、すぐに再生してしまう」
もちろん、私たちとてヤツが復活するのを、ぼんやりと眺めていたわけじゃない。
異変を察知して、させじとサクタとイスケが独断で追撃を放ち、どうにかして再生を阻止しようとするも、今度はおもうように攻撃が通らない!?
私の弾丸にいたっては、体表すぐのところで止められてしまった。
軟体を貫けない。
ヌメヌメした分泌物が増えたことと、禍石の周辺部分の密度に変化が生じた模様。
そのせいで竹ライフルの弾や強弓の矢の力が十全に発揮できずに、不発に終わっているっぽい。
うぅ、討伐の難易度がどんどん上がっていく……
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