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120 マダラオオスラッグ討伐戦

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 マダラオオスラッグの体内にある三つの禍石。
 どれだけ体をうねらせようとも、互いの石がつねに一定の距離を保ち、トライアングルを形成している。さりとて内蔵のように位置が固定されているわけではなくて、体の中をゆらゆら流動している。
 そのフォーメーションを崩すのが、ヤツを攻略するカギだとにらんだ私は、みんなと協議して作戦を立てた。
 その作戦の要となる存在がついさっき到着した。
 うちの拠点から呼び寄せたのはイスケだ。

「わざわざごめんねえ」

 出迎えた私が労いの言葉をかければ、ビシっと敬礼にて応じる軍服姿の竹人形。
 イスケは我が陣営の砲兵部門を統括する竹砲兵である。明治時代の軍人さんのようないでたちにて、全体的にしゅっとしている凛々しい竹人形だ。
 他のネームド仲間に比べたら見た目は地味だけど、銃火器類の扱いに秀でており、射撃のエキスパートである。百発百中の凄腕スナイパー。竹ライフルを扱わせたらカイザラーンでイスケの右に出る者はいない。

 が、イスケの凄いのはそれだけではない。
 弾道の計算、風の流れ、天候、地形などなど。
 それらを瞬時に見極め、最適解を導き出す。空間および状況を把握する能力にとても優れており、数学的思考力が非常に高いのだ。
 それゆえに遠くの対象に弾丸をバンバン当てられる。
 効率的に銃火器類を運用できるのだ。
 つねに冷静沈着に状況を判断するクレバーさこそが、彼の最大の強みにて。

 マダラオオスラッグ討伐戦。
 本作戦において、頼みの綱はイスケの射撃である。
 作戦内容そのものは簡単だ。
 まずは挑発して泥沼よりヤツを誘き出す。
 ほどよく離れたところで、水をぶっかけて泥を落とす。この際に高濃度の塩水をぶっかけるという案もあったのだが、沼へと逃げ込まれたら面倒なことになるので却下した。
 ヤツの腹部は半透明の曇りガラスのようであり、泥さえはらえば、丸裸となる。
 禍石は緋色にて目立つから、外からでもどうにか位置が確認できるので、これをイスケが狙い撃つという次第。

 なお、今回イスケが使うのは新開発されたばかりの、対物竹ライフルと専用の徹甲弾だ。
 これは対戦車ライフルに相当し、大口径の弾薬を使用する銃器である。
 重い大口径弾の優れた弾道直進性を活かし、一般の狙撃銃よりもずっと遠くから狙える優れものだけど、当然ながら優れた道具を扱うには一流の技量が必要となるわけで……

 狙撃ポイントの選定はすでに済んでいるので、あとはイスケにスタンバイしてもらうだけ。
 というわけで、到着したばかりのイスケには申し訳ないが、さっそく作戦スタート!

  〇

 ブブブブブ……

 十機からなる編隊を組んで飛行するのは竹蜻蛉の一団。
 操作はうちの竹工作兵らと、当人たっての希望にてフルフラールも参加している。
 私が竹蜻蛉を飛ばしているの「いいな、いいな」と羨み、あんまりにもせがむものだから、リモコン操作可能なオモチャを与えたら、キノコの国の女王さまはドハマりした。
 そして好きこそ物の上手なれとはよく云ったものにて、夢中になるあまりフルフラールは瞬く間に操作をマスターしては、めきめき腕をあげていった。
 ほんの数日のうちに、うちの子らと一対一の空中模擬戦をしても、三本に一本は取れるほどにまで上達する。
 なんだかんだでハイボ・ロード種の一画を担うシャンピニオンの女王は、ハイスペックのチートキャラだ。これで干物女でさえなければ完璧なのに……

 と、そんなことを考えているうちにも、はや目的地である岩場の泥沼の上空へと編隊は到着する。

「投下」

 私の合図で竹蜻蛉の機体から切り離されたのは、竹筒を三本束ねたもの。
 筒の中には燃焼系の爆薬が仕込んである小型の竹焼夷弾だ。
 これでヤツを泥沼から炙り出す。

 爆発音が轟き、たちまち燃え広がる炎。
 次々と投下されていく竹焼夷弾により、泥沼一帯はたちまち火の海となった。
 このまま焼き殺せたら御の字だが、そうは甘くはないだろう。
 案の定であった。
 周辺にいたザコどもはどもかく、マダラオオスラッグは健在にて「ウマォーオ!」「ギィアァァァー!」「イヤァアァァオ!」と喚いては、たいそうご立腹のご様子にて。

 なにげに初めてヤツの鳴き声を聞いたが変な声である。
 女性の絶叫っぽくも聞こえるので、ちょっと不気味。もしも山奥とかで耳にしたら心臓が止まるほど驚くかもしれない。

 まんまと姿をあらわしたマダラオオスラッグ。
 だが、ここで沼の底に戻られたら元も子もないので、続いて囮役が動く。
 接近戦を仕掛けるのは、竹侍将軍サクタや竹僧兵ベンケイらが率いる竹武者らとシャンピニオン・ロードの精鋭からなる合同部隊だ。

 戦闘に特化した集団にて、沼から出てきたマダラオオスラッグを包囲しては、ちくちく波状攻撃する。
 この攻勢で押し切れたら上々なのだけれども、ヤツの軟体と高い再生能力がそれを阻む。
 ゆえに、サクタたちは攻撃しつつも少しずつ後退しては、狙撃ポイントへとマダラオオスラッグを誘導していく。
 こちらの狙いを悟られぬように慎重かつ苛烈に、絶妙な匙加減にて動くサクタたち。
 そのかいあって、ほどなくして狙撃ポイントへと到着したところで――

 ざばぁ~~

 隠れていた者らがホースを手に踊り出ては、一斉に放水を開始した。
 マダラオオスラッグの身から、みるみる泥が洗い落されていく。
 そしてついに目標があらわとなったところで、イスケが引き金をひいた。


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