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119 エンジェルナンバー
しおりを挟む動転するあまり、すっかり忘れていた。
スラッグはああみえて禍々の一種だ。
ゆえにそのボスであるマダラオオスラッグも当然、禍々である。
……ということは?
禍石をどうにかすれば異能は使えなくなるじゃない!
いろいろとやっかいな性質を持っているけれども、それらを支えているのは禍石にて。
これさえ壊す、もしくは排除できたら、ヤツの不死性を無効化できるはず。
そのことに思い至ってからは、より注意深くマダラオオスラッグの生態について観察するのを心掛けた。
竹蜻蛉だけでなく、偵察要員を岩場へ派遣しては、安全なところから竹望遠鏡にてつぶさに探らせること数日。
判明したのは驚愕の事実にて。
「ウソでしょう。アイツってば禍石が三つもあるじゃない」
ヌメヌメした軟体。
背中のほうには斑模様があってよくわからないけれども、腹の方は白濁した半透明にて。
曇ったガラスのような体表にて、薄っすらとだが体内の様子がうかがえる。
ふだんは泥にまみれてよくわからないのだが、ずっと観察を続けてるうちに、何かのひょうしに泥が落ちた箇所からチラッと見えたのが、体内にて小粒ながらも毒々しい色味をした緋色の物体――禍石だ。
ピンポン玉ぐらいの大きさにて、形はやや歪で完全な球体ではない。
そんなのが三つ、一定の距離を保ち三角の陣を描くようにして存在している。
これらはヤツが動くたびに体内をふらつくのだけれども、陣容だけは変わらず。つねに三角形を維持している。
禍々一体につき禍石はひとつ。
という、これまでの定説を覆すマダラオオスラッグ。
禍石は強い個体のものほど色味が増し、形もキレイに整っている。
私たちを最後まで苦しめたパンダクマのハート。
彼の禍石は意外にも小さくて、野球の硬式ボールぐらいしかなかった。
しかし色味が濃くて純度も高く、かつ表面がつるつるしており、まるで磨き込まれた宝珠のようであった。
逆さピラミッドの遺跡にいたキマイラなミイラが持っていたのは菱形の石。
とてつもない力を秘めており反発も凄くて、吸収するのに膨大な時間と労力を要したものである。
このふたつに比べて、そこいらを闊歩している他の禍々から採取された石は、大きさや形が梅干しの種のようで、表面も火山岩のようにボコボコしており不恰好だ。
以上のことから、禍石の形状や色味が能力の強さ、個体の強弱を左右していることは明白にて。
知り得た情報から察するに、マダラオオスラッグの禍石そのものはたいしたことがない。
せいぜい中堅どころ、パンダクマ三兄弟の次兄であるカンスケや、末弟のスエッコにはおよばないだろう。
私の個人的な印象としては、炎のデカトラとどっこいどっこい。
よって純然なパワーではパンダクマらに軍配があがる。
でも、その能力の特異性ではマダラオオスラッグの方が上だ。
「……となると気になるのは3という数か。たまたまなんかじゃないよね? きっとそこに何らかの意味があるはず」
三という数字は不思議だ。
昔から縁起がいい数字とされている。
魂、精神、肉体という三位一体を意味することから、さまざまな宗教においても需要な数字とされてきた。
武術やスポーツなどで云われるところの心技体もまたしかり。
三にまつわる法則もいろいろある。
例えば、登山にて命を守る三法則というものがある。
これは危機的状況下で生き延びるために必要なことをあらわしたもの。
三分間、呼吸ができなければ死ぬ。
三時間、体温を維持できなければ死ぬ。
三日間、水分を摂取できなければ死ぬ。
三週間、食料を摂取できなければ死ぬ。
本格的に山へと挑むのならば、これらの対策ギアを準備しておくべし。
物理学の分野においても三の法則がある。
物体が等速度直線運動を続ける場合に、外力がない場合において、力は反作用力として互いに等しくなるという考え方をあらわしたもので、物体が動く仕組みを理解するのにとても役立っているそうだが、あいにくと私は農学系のリケジョなのでちと門外漢だ。
心理学にも三の法則がある。
19世紀にプラトンが提唱した考え方で、すべてのものが「三つの中間地点」に分類されるという。
心理学的な視点から見ると、三の法則は行動や感情についての考え方として認識されている。人間の行動や感情は一般的に「感情的」「冷静な」「中間の」
この三つの極端な状態の中間地点に分類されているらしい。
感情的な状態は、怒りや悲しみなどの極端な感情を持っているとき。
冷静な状態は、冷静な思考力を持っているとき。
中間の位置は、感情的な状態と冷静な状態の中間で、つねに自分の内面を理解している状態のとき。
う~ん、なにやらややこしいが、ようは人間は情緒不安定で喜怒哀楽の間を行ったり来たりしているということだ。
他にも心理学では「本能」「習慣」「注意」なる三つの要素から行動を分析する法則だったり、「適応」「平衡」「慣性」の三つから人間の行動心理を解き明かそうとするものもある。
そうそう、なめくじといえば三すくみなんてのもある。
ヘビ、なめくじ、カエルらが一堂に会すると三者とも見動きがとれなくなってしまうというもの。
まぁ、これは実際には成立しないそうだけど……
あとはグーチョキパーのジャンケンもまた三だ。
他にも「三枚のお札」「三つのお願い」「三匹の子豚」「三神一体」「三相女神」「竹林の三賢者」「三顧の礼」などなど。
ぱっと思いつくかぎりでも、これだけあるし、探せばたぶんもっとたくさんあるのだろう。
最小の図形もまた三角からだし、三にまつわることわざもわんさかある。
エンジェルナンバー3なんてのもあったっけか。
と、まぁ、みんな大好きな数字。
それが三なのだ。
「……ということは、その均衡が崩れたらどうなるのかしらん? ひょっとしたらひょっとしちゃうかも。フムフム、これは一度試してみる価値はありそうだね。
そうとなれば、さっそくみんなに相談して手立てを考えないとね」
打開策を思いついた私は、みなを招集し作戦を練ることにした。
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