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118 マダラオオスラッグ
しおりを挟むスラッグが異常発生!
移植中の竹林をおびやかすもので、造園どころではなくなった。
被害はうちだけでなくキノコの森や畑でも起きており、看過できないレベルになりつつある。
だからとてその都度ぷちぷち潰していたのでは、イタチごっこにて。
この問題を根本から解決するには、原因を特定する必要がある。
発生源を抑えなければならない。
そこでローラー作戦を敢行して調べたところ……
どうやら大空洞内の西部域の方からやってきているらしいことが判明した。
発生源として疑われるのは岩場の泥沼。
そこで調査隊を編成し赴いてみれば、にらんだとおりにて。
沼の周辺にはスラッグたちが大量にひしめいていた。
だがこれでは沼に近づけない。
そこでまずは沼への道を確保すべく除去を開始する。
ここのところ連日に渡って駆除を行っていたこともあってか、要領よく作業は進み、ほどなくして沼の縁へと到達するというタイミングで、それはあらわれた。
泥沼の奥底より噴き出すようにしてあらわれたのは、巨大スラッグ。
通常個体のサイズはミニバナナぐらいなのに対して、こいつは三階建ての家に相当する。
どうやらこいつがレイドボスにて、大量にスラッグを生み出し続けている肝っ玉母さんであるようだ。
ならばあとはこいつを倒せば、万事解決ということになるのだけれども、ことはそうやすやすとはいかなかった。
〇
ブブブブ……
薄い四枚翅を振るわせ岩場の上空を飛行するのは竹蜻蛉である。
敵情視察だ。私は竹蜻蛉と同期し視界を共有、機体から地表を眺めている。横で「なんですのそれ? すっごく楽しそう。わたくしも、わたくしもやりたいですわ」とうるさいフルフラールは放っておいて、偵察に集中する。
じきに目的地である泥沼へと到達する。
で、広がる光景を目にするなり、おもわず「げっ」とのけ反る。
かなりの量を駆除したのにもかかわらず、またぞろ地面がスラッグどものヌメヌメによって埋め尽くされていたからである。
「ウソでしょう。たった数日で元に戻っちゃったよ。ったく、かんべんしてよね」
おそるべき繁殖能力……というか、たぶんあの巨大スラッグが体内で生成して、ぺっぺと吐き出しているせいなのだろうけど。
どちらにせよ脅威である。この調子で増え続けたら、じきにキノコの国がなめくじどもに乗っ取られてしまう。
なお肝っ玉母さんもとい巨大スラッグ、今後は個体識別名称を『マダラオオスラッグ』とする。
「さてと、では肝心のマダラオオスラッグはどうしているのかしらん」
ゆっくりと旋回、やや高度をさげては泥沼へと近づいていく。
するとマダラオオスラッグはデロ~ンとだらけていた。
四肢は……ないから、体全体をべちゃりと広げては弛緩し、温かい泥沼と一体化してはプカプカと浮かびながらウトウト、めちゃくちゃリラックスしている。
「ちっ、あんにゃろう……一丁前に泥湯を堪能していやがる。こっちの気も知らないでいいご身分だな。
――って、あっ!」
寝ているみたいだから、接近してまじまじと観察してやろうとした次の瞬間のことであった。
ビュッ!
飛んできたのは粘液の玉。
慌てて避けようとするも、目の前でパッとはじけて蜘蛛の巣のように広がる。
これに翅が絡め取られてしまった。
しょうがないので私は同期を切って、自爆スイッチをポチッとな。
〇
岩場の泥沼から緊急対策本部があるキノコのお城の一室へと。
視界が切り替わったところで、私は「ふぅ」と嘆息する。
じつは撃墜された竹蜻蛉はこれで三機目。
ヌボーっとした見た目に反して、マダラオオスラッグは妙に勘がいい。
「それにしてもまいったねえ」
初遭遇からすでに三日が過ぎており、現在、状況は膠着中。
マダラオオスラッグ……知れば知るほどにやっかいなヤツにて。
まず斬撃や打撃の類は通用しない。
部分的には切れるし、潰せもするけれども、瞬時に再生してしまう。
ぶよぶよにて伸縮自在、捉えどころがない特殊軟体。
接近戦がダメならば遠距離攻撃だ! と竹ライフルなどの銃器類での攻撃もやってみたのだけれども、これも通用せず。
当たった端からトプンと弾丸が相手の体内に取り込まれてしまう。竹焙烙玉や迫撃砲などの爆破系も試したのだけれども、呑み込まれたあげくに爆破の衝撃すらもが余裕で吸収されてしまい、まるで効果ナシ。
手持ちの武器では太刀打ちできず。
鍛えた技も通用しない。
そのせいでサクタとベンケイがめっちゃへこんでおりイジけている。影響でカイザラーン出張組の士気はだだ下がりである。
こうなったらより火力のある武器を取り寄せて投入したいところだが、それを許さないのが地底の大空洞という地形にて。
好き放題できる地上とはちがうのだ。
竹火輪砲と徹甲弾の組み合わせによって、パンダクマのハートの根城である山の頂上付近を吹き飛ばしたような砲撃をしたら、大崩落を引き起こしかねない。
そうなったら本末転倒である。
よって却下。
通常のスラッグになら効果があった駆除剤も役に立たなかった。大量に投与してもへっちゃらにて。
「でしたら、わたくしの出番ですわね」
とフルフラールが揚々と毒々胞子の雪を降らせるも、これまた効果なし。
いや、最初は苦しそうにしていたから「おっ、イケるか!」と期待したのだけれども。
じきにスンと落ち着きを取り戻してしまった。
どうやら毒に適応してしまったらしい。順応力も尋常ではない。
なんだかちょっかいを出すほどに、マダラオオスラッグが進化しているような気がする。それも急速かつ急激に。
「触らぬ神に祟りなしというけれど。いっそのこと岩場一帯を壁で囲って封鎖して、放置するのがいいのかしらん。でもそれだと問題の先送りにしかならないし」
いまのところは泥沼に居座っているだけだが、いつ気まぐれを起こして移動を開始するかわからない。
こんなのがすぐそばにいたのでは、とてもではないが枕を高くして寝ていられないし。
う~ん。
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