竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

文字の大きさ
上 下
115 / 209

115 安心安全、ローラー作戦

しおりを挟む
 
 スラッグがやたらと湧いているのは、うちが手がけている造園地とキノコの森とキノコの畑などなど。
 まずはその辺りから重点的に調査していく。区画をマス目に区切り、担当の班を振り分け配置していく。
 なおローラー作戦を決行するにあたって、カイザラーンからの出張組は総出だ。シャンピニオン・ロード側からも大量に増員してもらい、まさにスラッグの一匹も這い出る隙間がない包囲網を形成し、さらに報連相を密にしてことに臨む。

「よし、それじゃあ手筈通りにお願いね? だろう運転は絶対にダメ! かもしれない運転を心がけるように!」

 作戦の指揮を執る私の言葉に、一同が力強くうなづいたところで、いざローラー作戦スタートである。
 なお本作戦において、総司令官は私こと竹姫が、副指令官はフルフラールが務める。
 そんなフルフラールだが不思議そうに首をかしげては……

「竹姫はときおりよくわからない言い回しを使いますわよね」

 そう言われて、私は内心で「あちゃあ~」
 ついうっかりしていたけれども、私は前世の記憶持ち。こことはちがう世界の知識があるせいで、ちょいちょいフルフラールが言うところの『よくわからない言い回し』とやらを使ってしまいがち。
 仲間内であれば、それでも問題はない。
 なにせ、竹人形たちはみんな地下茎を通じて繋がった家族みたいなものにて。また私が竹姫さまへと成長したことにより、同族間での以心伝心ぶりが格段に発展し、たいていのことはツーカーで通じちゃうのだ。
 もしわからなかったら、勝手に私の記憶のライブラリで調べられるし。
 けれどもそれはあくまで身内だけの話。
 だからこそのフルフラールのこの反応であった。

「あー、ちょっとわかりづらかったか……。ごめんねぇ、ちなみにだろう運転っていうのはねえ――」

 だろう運転。
 それは慣れが引き起こす油断である。
 車の運転に慣れてくると、ついつい気を緩めて周囲への注意がおろそかになりがち。
 特に気をつけたいのが、日常的に走行しているルートを移動している時だ。

「この交差点はほとんど車は通らないだろう」
「この時間帯に通行人はいないはずだろう」

 などと、毎日通るうちに楽観的予測が当たり前となり、つい危機意識が薄れてしまうのだ。
 ドライバーのなかには「知らない道を走るのは緊張する」もしくは「ちょっと怖いかも」と言う者もいるけれども、じつは通い慣れた道こそ最も注意すべきなのである。

 かもしれない運転。
 常に高い安全意識を持ち、危険な状況になることを予測して運転すること。

「あそこの路地から人が飛び出してくるかもしれない」
「前を走っている車が急に停まるかもしれない」
「右折したい……けど、対向車が譲ってくれないかもしれない」

 事故の多くは、安易な予測から引き起こされる。
 だからこそドライバーは常に周囲の状況に気を配り、危険を警戒し、予知しながら運転する必要があるのだ。
 注意一秒、怪我一生。
 そのことをゆめゆめ忘れてはならない。

 ……などということを、車を馬に替えて説明したら、フルフラールは「なるほど。そういうことでしたのね。とても勉強になりますわ」とふむふむ。
 キノコの女王さまが納得してくれたところで、私たちも現場へと向かうことにした。

  〇

 連日の駆除にもかかわらず、続々と発見されるスラッグたち。
 あっという間に用意したバケツや箱がぬめぬめで埋まっていくのに、げんなりしながらも私は地図にバツ印をつける。
 発見された箇所を示すものにて、分布図を作成することで情報を視覚化し、スラッグどもがどこからやってきているのか、その流れを辿るのだ。

 根気のいる作業であるのにもかかわらず、みなせっせとがんばってくれている。
 というか竹人形たちと美擬人化したキノコたち、和気あいあいとなんだかちょっと楽しそう。
 なんだかんだで、いい交流オリエンテーションになっている?
 その甲斐もあって作業はおおいにはかどった。
 じきに印が不自然に集中しては、点々と連なっているところが明らかとなる。

 流れは大空洞内を中央から西方面へと向かっていた。
 そこには利用価値がない泥沼があるという。
 フルフラールの話では周囲はゴツゴツとした岩場にて、スラッグたちが繁殖できそうな場所ではないというけれど……
 とにもかくにも自分たちの目で確かめてみようと、私たちはその泥沼へ出向くことにした。


しおりを挟む
感想 185

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私のアレに値が付いた!?

ネコヅキ
ファンタジー
 もしも、金のタマゴを産み落としたなら――  鮎沢佳奈は二十歳の大学生。ある日突然死んでしまった彼女は、神様の代行者を名乗る青年に異世界へと転生。という形で異世界への移住を提案され、移住を快諾した佳奈は喫茶店の看板娘である人物に助けてもらって新たな生活を始めた。  しかしその一週間後。借りたアパートの一室で、白磁の器を揺るがす事件が勃発する。振り返って見てみれば器の中で灰色の物体が鎮座し、その物体の正体を知るべく質屋に持ち込んだ事から彼女の順風満帆の歯車が狂い始める。  自身を金のタマゴを産むガチョウになぞらえ、絶対に知られてはならない秘密を一人抱え込む佳奈の運命はいかに―― ・産むのはタマゴではありません! お食事中の方はご注意下さいませ。 ・小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 ・小説家になろう様にて三十七万PVを突破。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

報酬を踏み倒されたので、この国に用はありません。

白水緑
ファンタジー
魔王を倒して報酬をもらって冒険者を引退しようとしたところ、支払いを踏み倒されたリラたち。 国に見切りを付けて、当てつけのように今度は魔族の味方につくことにする。 そこで出会った魔王の右腕、シルヴェストロと交友を深めて、互いの価値観を知っていくうちに、惹かれ合っていく。 そんな中、追っ手が迫り、本当に魔族の味方につくのかの判断を迫られる。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

処理中です...