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115 安心安全、ローラー作戦
しおりを挟むスラッグがやたらと湧いているのは、うちが手がけている造園地とキノコの森とキノコの畑などなど。
まずはその辺りから重点的に調査していく。区画をマス目に区切り、担当の班を振り分け配置していく。
なおローラー作戦を決行するにあたって、カイザラーンからの出張組は総出だ。シャンピニオン・ロード側からも大量に増員してもらい、まさにスラッグの一匹も這い出る隙間がない包囲網を形成し、さらに報連相を密にしてことに臨む。
「よし、それじゃあ手筈通りにお願いね? だろう運転は絶対にダメ! かもしれない運転を心がけるように!」
作戦の指揮を執る私の言葉に、一同が力強くうなづいたところで、いざローラー作戦スタートである。
なお本作戦において、総司令官は私こと竹姫が、副指令官はフルフラールが務める。
そんなフルフラールだが不思議そうに首をかしげては……
「竹姫はときおりよくわからない言い回しを使いますわよね」
そう言われて、私は内心で「あちゃあ~」
ついうっかりしていたけれども、私は前世の記憶持ち。こことはちがう世界の知識があるせいで、ちょいちょいフルフラールが言うところの『よくわからない言い回し』とやらを使ってしまいがち。
仲間内であれば、それでも問題はない。
なにせ、竹人形たちはみんな地下茎を通じて繋がった家族みたいなものにて。また私が竹姫さまへと成長したことにより、同族間での以心伝心ぶりが格段に発展し、たいていのことはツーカーで通じちゃうのだ。
もしわからなかったら、勝手に私の記憶のライブラリで調べられるし。
けれどもそれはあくまで身内だけの話。
だからこそのフルフラールのこの反応であった。
「あー、ちょっとわかりづらかったか……。ごめんねぇ、ちなみにだろう運転っていうのはねえ――」
だろう運転。
それは慣れが引き起こす油断である。
車の運転に慣れてくると、ついつい気を緩めて周囲への注意がおろそかになりがち。
特に気をつけたいのが、日常的に走行しているルートを移動している時だ。
「この交差点はほとんど車は通らないだろう」
「この時間帯に通行人はいないはずだろう」
などと、毎日通るうちに楽観的予測が当たり前となり、つい危機意識が薄れてしまうのだ。
ドライバーのなかには「知らない道を走るのは緊張する」もしくは「ちょっと怖いかも」と言う者もいるけれども、じつは通い慣れた道こそ最も注意すべきなのである。
かもしれない運転。
常に高い安全意識を持ち、危険な状況になることを予測して運転すること。
「あそこの路地から人が飛び出してくるかもしれない」
「前を走っている車が急に停まるかもしれない」
「右折したい……けど、対向車が譲ってくれないかもしれない」
事故の多くは、安易な予測から引き起こされる。
だからこそドライバーは常に周囲の状況に気を配り、危険を警戒し、予知しながら運転する必要があるのだ。
注意一秒、怪我一生。
そのことをゆめゆめ忘れてはならない。
……などということを、車を馬に替えて説明したら、フルフラールは「なるほど。そういうことでしたのね。とても勉強になりますわ」とふむふむ。
キノコの女王さまが納得してくれたところで、私たちも現場へと向かうことにした。
〇
連日の駆除にもかかわらず、続々と発見されるスラッグたち。
あっという間に用意したバケツや箱がぬめぬめで埋まっていくのに、げんなりしながらも私は地図にバツ印をつける。
発見された箇所を示すものにて、分布図を作成することで情報を視覚化し、スラッグどもがどこからやってきているのか、その流れを辿るのだ。
根気のいる作業であるのにもかかわらず、みなせっせとがんばってくれている。
というか竹人形たちと美擬人化したキノコたち、和気あいあいとなんだかちょっと楽しそう。
なんだかんだで、いい交流オリエンテーションになっている?
その甲斐もあって作業はおおいにはかどった。
じきに印が不自然に集中しては、点々と連なっているところが明らかとなる。
流れは大空洞内を中央から西方面へと向かっていた。
そこには利用価値がない泥沼があるという。
フルフラールの話では周囲はゴツゴツとした岩場にて、スラッグたちが繁殖できそうな場所ではないというけれど……
とにもかくにも自分たちの目で確かめてみようと、私たちはその泥沼へ出向くことにした。
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