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113 スラッグパニック!
しおりを挟む朝一のことである。
とはいえ場所は地底の大空洞なので、陽が昇り降りしたりなんぞはしない。
時間の経過についてはキノコの国のシンボル的存在である、世界樹みたいな特大キノコの色が変わることで教えてくれる。
……おっと、それどころじゃなかった。
たいへんである。
慌てた様子で飛び込んできた竹工作兵から報せを受けて、急ぎ現場にかけつけた私は――
「ぎゃあぁぁぁぁー、なんじゃこりゃーっ!」
絶叫した。
ようやく形をなしてきた竹林庭園。
いい具合に根付いて、青々としている竹たち。
その艶々した幹に奇妙な発疹のようなものが……よくよく見てみれば、それはスラッグであった。
発見した端から竹箸で摘まんでは丁寧によけて駆除し、念のために竹酢液も散布していたというのに。
「減るどころかめっちゃ増えとる!」
このままではせっかく根付いた竹が台無しになってしまう。
だから作業員たちは総出でスラッグ退治に大わらわ。
とてもではないが造園作業どころではなくなってしまった。
「ちくしょう、こうなったら徹底的に殺ってやらいでか! 野郎ども、ただの一匹たりとも見過ごすんじゃないよ!」
私は部下たちに檄を飛ばし、自分も駆除に参加した。
その甲斐もあって、どうにか竹林からスラッグどもを一掃することに成功する。
にしもてバケツ何杯分ものなめくじとか、なかなかの光景にて、うげぇ。
「焼いたら臭そうだし、とりあえず高濃度の竹酢液にまとめてぶち込んでおくか……。って、あっ! そういえば、なめくじって生薬の原料になるんだっけか。咳止めの薬だったかしらん。乾燥させたやつを煎じて飲むのだったけか。
あとは生きたまま丸呑みするパターンもあったよね。
もっともこっちは寄生虫がヤバすぎるんだけど」
ナメクジを生きたまま丸呑みすると、心臓病や喉などに効くとかいう民間療法。
しかし広東住血線虫が感染する可能性が有るため、めちゃくちゃ危険である。良い子は絶対にマネをしちゃダメ。
ふざけて食べた若者が髄膜炎と脳炎を併発して、寝たきりとなり、数年後に亡くなったなんて事も実際に起きている。
「ぶるる、うぅ、怖すぎる。うちには万能薬である竹瀝もあることだし、わざわざヤバいブツに手を出す必要はないか。
やっぱりこいつらは始末しておこう」
かくして捕獲されたスラッグたちは、すべて殺処分された。
やれやれである。
だがしかし、トラブルはこれで終わりではなかったのである。
翌日は早朝のこと。
ドタドタとした足音が近づいてくる。
えらく動揺している。
なんとなくイヤ~な予感がした私は「ま、まさか」
そのまさかであった。
もたらされたのは凶報にて。
『ふたたびスラッグ、大量発生す!』
現場へと急行すれば、昨日と似たような光景が広がっていた。
ショックのあまり私は眩暈を覚える。
けれどもクラクラばかりもしていられない。
目の前で繰り広げられている暴挙を断じて許すわけにはいかないだ。
「ぐぬぬぬ……いいだろう。そっちがその気なら、こっちにも考えがある。一匹残らず捕殺して駆逐してやる! 捕獲作業と平行してビールトラップの準備もしてちょうだい」
ビールトラップとはペットボトルなどの容器に穴を開けて入り口をつくり、なかにビールを入れておく罠にて。
するとニオイに釣られてやってきたなめくじどもが、溺れているという次第。
発砲酒でもいいのだが、連中はけっこうグルメにて、安い酒だと喰いつきが悪くなる。
なお濃度50%の砂糖水でもOKだ。
あいにくとビールもなければペットボトルもないので、今回は竹筒と砂糖水で代用する。
造園中の竹林を総ざらいし、さらにあちこちにビールトラップを仕掛けていく。
その甲斐もあって翌々日の朝には、どっちゃりスラッグが捕獲され、竹林の方の被害はかなり軽微に抑えることに成功した。
だがしかし……
「えっ、造園地だけじゃなくて、キノコの森や畑の方でもスラッグの被害が拡大しているんですって!」
それもかつてない勢いにて!
フルフラールもかなり驚いている。
明らかに異常事態だ。
キノコの国にいったい何が起きているのか!?
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