竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

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111 ただいま造園中

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「オーライ、オーライ、……ちょい右。あっ、行きすぎ、戻って……そうそう。そこでOK~」

 現場にて忙しなく動く大量の竹人形たち。
 その数、百と八体。私からの竹通信を受けて、資材ともどもウンサイさんが送り込んでくれた黒鍬衆の精鋭たちだ。
 ウンサイさんってば本当は自分が来たかったみたいなんだけど、主人である竹姫のみならず、第二拠点の責任者までもがホイホイ出かけるわけにはいかずに断念した。その代わりに「しょうもないもんを作ったら承知しねえぞ!」と麾下の者らに発破をかけたらしく、みなモリモリ働いてくれている。
 おかげで作業の進捗状況は順調だ。

 なおみんなに混じって、庭石の置き場所について差配していたのは私だ。
 ただいま、キノコの国はひょうたん池のにて造園中。
 当初の計画では、こじんまりとした大使館替わりの庵と、その裏庭に竹林を……ぐらいのつもりであったのだけれども、フルフラールらシャンピニオン・ロード側から提供された土地が、とにかく広大であった。

 地底の大空洞はたしかに広い。
 しかし閉鎖空間にて、拡張性はほぼ皆無。
 掘削すれば広げられるかもしれないけれども、かなりの危険をともなう。
 堅い岩盤の相手をするのはたいそう骨が折れる。また掘り進めるうちに、うっかり地下水の層なんぞにぶち当たったらやっかいだ。浸水のみならず地盤沈下や崩落を引き起こしかねない。
 よって使える土地は限られている。
 なのにその貴重な土地を17万平方メートルも提供されてしまった。
 これすなわちフルフラールたちからの歓迎と信頼の証だ。

 前代未聞で、おそらくは初の試みになるであろう地下竹林の造園工事。
 めちゃくちゃ期待されている。みんな楽しみにしてくれている。

「うぅ、ありがたいんだけど重すぎる。でも……」

 ここでビビッてヘタれたりなんかしたら、じいちゃんに顔向けできない。
 その筋では名の知れた庭師であった祖父。
 頑固一徹の職人の仕事ぶりについては、幼少の頃より近くで見てきた。それを参考にして作業を進めていく。

 造園工事には大まかに三つの工程がある。

 その一、計画・設計。
 顧客の要望を聞いて、庭園や公園の用途や規模などを考慮しつつ、設計図に落とし込んでいく。またこの際には地形や植生、陽当たり、風通しなどなど……現地調査を行い、フィードバックする。

 その二、施行。
 デザインが固まったら、いよいよ作業を開始する。
 地面の整備をし、設計図に基づき縄打ちを行い境界および、諸々の配置を定める。
 だが扱うのが植物であり、相手は自然にて。
 実際にやってみて「あれ?」と首をかしげ、いまひとつと感じることも多々。
 現場では設計通りにならないことが往々にして起こるもの。
 だからその都度相談をしては微調整を重ね、ブラッシュアップし、よりよい庭を目指す。

 その三、維持管理。
 いろいろとたいへんだったけど完成!
 めでたし、めでたし。
 と喜んでからがむしろ本番だ。
 なぜなら完成した庭園を美しく保つためには、世話が欠かせないから。ちょっとサボるとたちまち機嫌を悪くして、大荒れとなるのだ。ましてや竹ともなればボウボウどころの話ではない。
 だからちゃんと計画を立てて、草取りや剪定、点検などを行う必要がある。

 造園する竹林のデザイン画を何枚も描き、その中から「これは」というのをフルフラールたちに選んでもらったところ、彼女たちが希望したのは竹林と枯山水がセットになったものであった。加えて竹林の間を抜ける小径があって、散策を楽しめるようにして欲しいとのこと。

 竹林と枯山水。
 名所はいろいろあるけれど、なんといっても有名なのは鎌倉の報国寺だろう。
 鎌倉随一の美しい竹の庭を持ち、足利と上杉両家の菩提寺でもある。
 竹好きを名乗るのならば一度は訪れてしかるべき、聖地といっても過言ではない場所。
 真っ直ぐにのびた約2000本のモウソウチクからなる竹の庭は圧巻だ。絶妙な選定と配置により産み出されるコントラストの妙。
 降り注ぐやわらなか木漏れ日。
 静けさの中、道を歩けば聞こえてくるのはサラサラという竹の葉が触れ合う音色……

 歴代の庭師たちが心血を注ぎ、大切に育て守ってきた素晴らしき竹林。
 当然ながら一朝一夕にマネできるシロモノではない。
 でも、ゆくゆくはあんな風に育ってくれたらいいな。
 との期待を込めて、私は報国寺の枯山水と竹林を参考にすることにした。
 けっしてパクリではない。あくまでリスペクト、オマージュである。
 そこんところをゆめゆめ誤解なきよう。


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