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110 オロロ汁
しおりを挟む飛び地を急造し、地下茎を張り巡らせ、動力を確保する。
続いて竹通信の交信具合を確認したところ。
「う~ん、ちょっと微妙だね。アンテナ一本で、それすらも途切れ途切れといったところか」
とりあえず通信は可能だ。
ただし、通常レベルでの会話はムリ。モールス信号での短いやり取りになる。
さすがに入り組んだ地下迷宮の奥深くにある大空洞からでは厳しかったか。
「うちの領地との間と、洞窟内にいくつか中継基地を設ければイケそうだけど。それをやると経路が丸わかりになっちゃって不用心になるし。
う~ん、その辺のことについてはフルフラールと相談しないとまずいよね」
とりあえず、大量に物資と人員が必要になるので、その準備を始めるようにとはツートントンと伝えておいた。
あとは向こうに残っているタマキなりウンサイさんあたりが、うまく取り計らってくれるだろう。
そのタイミングで「宴の準備が整った」との迎えがきたので、私たちは作業を切り上げて、城に戻ることにした。
〇
城をあげての歓迎の宴。
卓にずらりと並ぶ料理は、キノコ尽くし。
野菜は自分たちで栽培している分があるけど、肉類は一切ない。
調理方法は、煮る、蒸す、炒める、焼くなどでシンプルなものばかりにて、いささか精進料理っぽいが、味はバツグンに旨い!
肉厚のキノコなんてステーキのごとき食べ応えだ。
ひと口かじれば、たちまち口腔内に旨味汁がドバっと溢れて、溺れそうになるほど。
こんなのがそこいらに生えているのならば、わざわざ外で狩りをして肉を食べる必要はない。
「……ってことは、あれ? もしかしてフルフラールは禍石を食べないの?」
禍石は、異能を操るバケモノである禍々から採取される物。
これを吸収することで、私はタケノコからお化けタケノコとなり、ついには竹姫ちゃん(小)という竹女童の姿となり、さらにいくつか段階を経て現在の竹姫さまという大人の体を手に入れた。
ジュドーくん情報によれば、ハイボ・ロード種は禍石を好むとの伝承があるそうで。
だからてっきりシャンピニオン・ロードたちもそうなのとかおもっていたのだけれども。
「禍石……あぁ、あの赤い石のことですか。私たちはあんなもの食べませんよ」
基本、水があれば生きていける。
あとはキノコは葉緑素を持たないので、枯れ葉や倒木、堆肥、生物の死骸などを分解することで栄養を得たり、育てた野菜やキノコを食べたりしている
キノコがキノコを食べている。
えっ、共喰い!?
と一瞬驚くも、よくよく考えてみれば私だって似たようなもの。
タケノコご飯をかっ喰らい、メンマをツマミに竹酒をぐい呑みしている。他人のことをどうこう言えたぎりではない。
そうそう、お酒といえばキノコの国にも独自に開発されたキノコ由来の酒類があった。
見た目はカクテルっぽくて、色鮮やか。
味もさらりとしており、ほんのり甘くて、度数は低めだけど悪くない。
けど「あっ、でも飲む量には注意してください。めちゃくちゃ悪酔いしますので」と注意を受けた。
原料となっているのはフクフクというキノコ。
見本があったので見せてもらったのだけれども、形状は鼓に似ており、大きさもそれぐらいで黄土色をしている。
そのままでも食べられるけど、軽く火で炙ってから清水につけ込んでおくと、じわじわと酒精が滲み出てくるんだとか。
でも、厳密に言えば、これはお酒ではない。
酔っ払うような症状を引き起こす毒液にて……
「ぶふーっ」
ビックリした私は、つい口に含んでいた分を吹き出し、フルフラールの顔面にぶちまけた。
いや、いくら死にはしないといわれても、ねえ。
だから私は悪くない。
でもいちおう「ごめん」と謝っておく。
するとフルフラールはペロリと顔についた竹姫のオロロ汁を舐め、「あら? 意外にイケますわね、これ」と言った。
私がいったん口に含んだことで、どうやら竹の風味がうつっていい塩梅になったらしい。
そしてこれを機に、キノコと竹のコラボ酒の開発を共同ですることが決まった。
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