上 下
110 / 130

110 オロロ汁

しおりを挟む
 
 飛び地を急造し、地下茎を張り巡らせ、動力を確保する。
 続いて竹通信の交信具合を確認したところ。

「う~ん、ちょっと微妙だね。アンテナ一本で、それすらも途切れ途切れといったところか」

 とりあえず通信は可能だ。
 ただし、通常レベルでの会話はムリ。モールス信号での短いやり取りになる。
 さすがに入り組んだ地下迷宮の奥深くにある大空洞からでは厳しかったか。

「うちの領地との間と、洞窟内にいくつか中継基地を設ければイケそうだけど。それをやると経路が丸わかりになっちゃって不用心になるし。
 う~ん、その辺のことについてはフルフラールと相談しないとまずいよね」

 とりあえず、大量に物資と人員が必要になるので、その準備を始めるようにとはツートントンと伝えておいた。
 あとは向こうに残っているタマキなりウンサイさんあたりが、うまく取り計らってくれるだろう。
 そのタイミングで「宴の準備が整った」との迎えがきたので、私たちは作業を切り上げて、城に戻ることにした。

  〇

 城をあげての歓迎の宴。
 卓にずらりと並ぶ料理は、キノコ尽くし。
 野菜は自分たちで栽培している分があるけど、肉類は一切ない。
 調理方法は、煮る、蒸す、炒める、焼くなどでシンプルなものばかりにて、いささか精進料理っぽいが、味はバツグンに旨い!
 肉厚のキノコなんてステーキのごとき食べ応えだ。
 ひと口かじれば、たちまち口腔内に旨味汁がドバっと溢れて、溺れそうになるほど。
 こんなのがそこいらに生えているのならば、わざわざ外で狩りをして肉を食べる必要はない。

「……ってことは、あれ? もしかしてフルフラールは禍石を食べないの?」

 禍石は、異能を操るバケモノである禍々から採取される物。
 これを吸収することで、私はタケノコからお化けタケノコとなり、ついには竹姫ちゃん(小)という竹女童の姿となり、さらにいくつか段階を経て現在の竹姫さまという大人の体を手に入れた。
 ジュドーくん情報によれば、ハイボ・ロード種は禍石を好むとの伝承があるそうで。
 だからてっきりシャンピニオン・ロードたちもそうなのとかおもっていたのだけれども。

「禍石……あぁ、あの赤い石のことですか。私たちはあんなもの食べませんよ」

 基本、水があれば生きていける。
 あとはキノコは葉緑素を持たないので、枯れ葉や倒木、堆肥、生物の死骸などを分解することで栄養を得たり、育てた野菜やキノコを食べたりしている
 キノコがキノコを食べている。

 えっ、共喰い!?

 と一瞬驚くも、よくよく考えてみれば私だって似たようなもの。
 タケノコご飯をかっ喰らい、メンマをツマミに竹酒をぐい呑みしている。他人のことをどうこう言えたぎりではない。
 そうそう、お酒といえばキノコの国にも独自に開発されたキノコ由来の酒類があった。

 見た目はカクテルっぽくて、色鮮やか。
 味もさらりとしており、ほんのり甘くて、度数は低めだけど悪くない。
 けど「あっ、でも飲む量には注意してください。めちゃくちゃ悪酔いしますので」と注意を受けた。
 原料となっているのはフクフクというキノコ。
 見本があったので見せてもらったのだけれども、形状はづづみに似ており、大きさもそれぐらいで黄土色をしている。
 そのままでも食べられるけど、軽く火で炙ってから清水につけ込んでおくと、じわじわと酒精が滲み出てくるんだとか。
 でも、厳密に言えば、これはお酒ではない。
 酔っ払うような症状を引き起こす毒液にて……

「ぶふーっ」

 ビックリした私は、つい口に含んでいた分を吹き出し、フルフラールの顔面にぶちまけた。
 いや、いくら死にはしないといわれても、ねえ。
 だから私は悪くない。
 でもいちおう「ごめん」と謝っておく。
 するとフルフラールはペロリと顔についた竹姫のオロロ汁を舐め、「あら? 意外にイケますわね、これ」と言った。

 私がいったん口に含んだことで、どうやら竹の風味がうつっていい塩梅になったらしい。
 そしてこれを機に、キノコと竹のコラボ酒の開発を共同ですることが決まった。


しおりを挟む
感想 111

あなたにおすすめの小説

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

御者のお仕事。

月芝
ファンタジー
大陸中を巻き込んだ戦争がようやく終わった。 十三あった国のうち四つが地図より消えた。 大地のいたるところに戦争の傷跡が深く刻まれ、人心は荒廃し、文明もずいぶんと退化する。 狂った環境に乱れた生態系。戦時中にバラ撒かれた生体兵器「慮骸」の脅威がそこいらに充ち、 問題山積につき夢にまでみた平和とはほど遠いのが実情。 それでも人々はたくましく、復興へと向けて歩き出す。 これはそんな歪んだ世界で人流と物流の担い手として奮闘する御者の男の物語である。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~

真心糸
ファンタジー
【あらすじ】  ジュナリュシア・キーブレスは、キーブレス王国の第十七王子として生を受けた。  キーブレス王国は、スキル至上主義を掲げており、高ランクのスキルを持つ者が権力を持ち、低ランクの者はゴミのように虐げられる国だった。そして、ジュナの一族であるキーブレス王家は、魔法などのスキルを他人に授与することができる特殊能力者の一族で、ジュナも同様の能力が発現することが期待された。  しかし、スキル鑑定式の日、ジュナが鑑定士に言い渡された能力は《スキル無し》。これと同じ日に第五王女ピアーチェスに言い渡された能力は《Eランクのギフトキー》。  つまり、スキル至上主義のキーブレス王国では、死刑宣告にも等しい鑑定結果であった。他の王子たちは、Cランク以上のギフトキーを所持していることもあり、ジュナとピアーチェスはひどい差別を受けることになる。  お互いに近い境遇ということもあり、身を寄せ合うようになる2人。すぐに仲良くなった2人だったが、ある日、別の兄弟から命を狙われる事件が起き、窮地に立たされたジュナは、隠された能力《他人からスキルを奪う能力》が覚醒する。  この事件をきっかけに、ジュナは考えを改めた。この国で自分と姉が生きていくには、クズな王族たちからスキルを奪って裏から国を支配するしかない、と。  これは、スキル至上主義の王国で、自分たちが生き延びるために闇組織を結成し、裏から王国を支配していく物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも掲載しています。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。 いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑! 誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、 ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。 で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。 愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。 騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。 辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、 ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第二部、ここに開幕! 故国を飛び出し、舞台は北の国へと。 新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。 国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。 ますます広がりをみせる世界。 その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか? 迷走するチヨコの明日はどっちだ! ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

冒険野郎ども。

月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。 あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。 でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。 世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。 これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。 諸事情によって所属していたパーティーが解散。 路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。 ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる! ※本作についての注意事項。 かわいいヒロイン? いません。いてもおっさんには縁がありません。 かわいいマスコット? いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。 じゃあいったい何があるのさ? 飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。 そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、 ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。 ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。 さぁ、冒険の時間だ。

当然だったのかもしれない~問わず語り~

章槻雅希
ファンタジー
 学院でダニエーレ第一王子は平民の下働きの少女アンジェリカと運命の出会いをし、恋に落ちた。真実の愛を主張し、二人は結ばれた。そして、数年後、二人は毒をあおり心中した。  そんな二人を見てきた第二王子妃ベアトリーチェの回想録というか、問わず語り。ほぼ地の文で細かなエピソード描写などはなし。ベアトリーチェはあくまで語り部で、かといってアンジェリカやダニエーレが主人公というほど描写されてるわけでもないので、群像劇? 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。

処理中です...