竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

文字の大きさ
上 下
109 / 190

109 視察

しおりを挟む
 
 それを煙突に例えるには、あまりにも太過ぎた。
 石油タンクをいくつも積み重ねたかのようなのは、超大なエリンギのお城。
 内部をくり抜くことで、通路や階段に部屋、各階層を形成しており、壁も床も天井も白い。
 だが目に優しい白さにて、落ち着いた雰囲気は、シックでおしゃれな漆喰塗りのようだ。
 城内を歩き、あてがわれた貴賓室へと入ったカイザラーン一行。

 キノコのイス、キノコのソファー、キノコの絨毯、キノコの机などなど。
 調度品もすべてキノコ。
 にしても、ドアノブまでキノコだったのには、おもわずクスリと笑ってしまった。
 どれも元の形状や性質を活かしたモノにて、加工は最低限にしか施されていない。

「徹底している……というよりかは、素材を活かすにはこうするしかなかったのかしらん?」

 機能面とサステナブルに優れた竹は、いろいろと作って遊べる。
 それは菌類とて同じだが、両者では方向性がまるで異なっている。
 竹は民芸品の素材や建材として、キノコは主に食材や薬の原料として。
 ゆえにシャンピニオン・ロードたちは、うちの竹製品に異常な喰いつきを見せていたのだ。
 ならばアンスロポス族やテリオン族などとも取引をしてもよさそうなのだけれども、そこはたぶん好みに合致しなかったのだろう。

 私のところは竹をベースとした天然素材系だ。
 でも、他種族のところはちがう。鉄や銅、木などを複合的に使用して製造している。良くも悪くも技巧を凝らし、創意工夫を重ねてある。
 それすなわち、とっても人工的だということ。

 私もそうだからわかるのだけれども……
 たぶんそれこそがフルフラールたちの食指が動かなかった理由。
 逆さピラミッドの古代遺跡を活用している第二拠点に、私があまり寄り付かないのは、あそこが極めて人工的で不自然な場所だから。どうにも居心地が悪くて、尻のあたりがムズムズして落ち着かないので苦手だ。
 かつて人間だった頃、前世に私が慣れ親しんだはずの鉄とコンクリートの文明。
 それがいまの私には忌避感……とまではいわないが、ちょっとしたアレルギー反応を引き起こし、ついムッとしちゃう。
 誰だって不快に感じる物を身近に置きたいとはおもわない。
 その点、うちの品々は彼女たちのお眼鏡に適ったという次第だ。
 今後ともご贔屓に!

  〇

 今宵は盛大に歓迎の宴を催してくれるという。
 ありがたい話だが、準備が整うまでしばし時間がかかるというので、私たちは先に竹林を移植する予定地を視察することにしたのだけれども……

「――広っ!」

 饗応役に案内されたのは、地底の大空洞内にいくつかある池のうちのひとつ。
 ひょうたんの形をした池を中心にした一帯にて、広さがかなりある。
 たぶん幼少期に一休禅師が過ごし、『竹の寺』として有名な地蔵院の敷地ほどもあるのではなかろうか。

 えっ、例えが微妙でよくわからない?

 あー、数字にしたら17万平方メートルほど。
 だいたい東京駅と同じぐらいかな。
 なんにせよ、こちらの想定を遥かに越える規模だということ!
 私としては小さな神社の裏手にある竹林ぐらいを、と考えていたのだけれども。う~ん。

「これは……生半可じゃダメだね。本腰を入れて作業に取りかからないと」

 お手軽栽培キットを地面に突き刺すだけでは、とても足りない。相当量の物資を持ち込み、人手もかなり動員せねばなるまい。
 よもや、本格的な造園になろうとは夢にもおもわなかった。
 そりゃあ、ゆくゆくはやってみたいとは考えていたけれども、いきなり過ぎて、ちょっと尻込みしている自分がいる。うぅ、フルフラールたちの期待が重い。
 だが、女は度胸だ。
 せっかくの機会なので、いっちょう気合いを入れてやってみますか。

「……となれば、とりあえず取っ掛かりとなる飛び地を作るよ。それで竹通信の感度を確かめよう。もしも交信が可能なら、すぐに必要な品を発注して届けて貰わないと」

 今回は下見だけのつもりだったが、気が変わった。
 私はサクタらに命じて、すぐさま飛び地となる竹林造りに着手した。


しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

御者のお仕事。

月芝
ファンタジー
大陸中を巻き込んだ戦争がようやく終わった。 十三あった国のうち四つが地図より消えた。 大地のいたるところに戦争の傷跡が深く刻まれ、人心は荒廃し、文明もずいぶんと退化する。 狂った環境に乱れた生態系。戦時中にバラ撒かれた生体兵器「慮骸」の脅威がそこいらに充ち、 問題山積につき夢にまでみた平和とはほど遠いのが実情。 それでも人々はたくましく、復興へと向けて歩き出す。 これはそんな歪んだ世界で人流と物流の担い手として奮闘する御者の男の物語である。

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

処理中です...