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108 地底旅行その五
しおりを挟む進むほどに分岐が増殖しているかのようだ。
アリの巣のごとく枝分かれしている暗路。
延々と洞窟内を歩き続けること、さらに数刻……
ようやく出口が見えてきた。
トンネルを抜けると、そこは――雪国だった!?
某文学作品の冒頭を彷彿とさせる景色にて、とてもキレイだ。
だがしかし。
「いや、ちがう……雪じゃない。これは胞子だ! 胞子が雪のように降っては、そう見えているんだ」
眼下の光景に私たちカイザラーン勢はしばし言葉を失う。
地底の大空洞。
広いとはおもっていたけれども、想像をはるかに超える規模にて、三連山のある荒れ地と同じぐらいなのではなかろうか。
もちろんたんなる岩窟などではない。
キノコの森があり、キノコの山があり、キノコの渓谷があり、キノコの湖があり、キノコの道があり、キノコの里があり、キノコの家があり、キノコの城があり、世界樹みたいな特大キノコも生えており、それがまるでクリスマスツリーのイルミネーションのごとく輝いている。
赤、茶、黄、白、青……彩とりどりにて、形や大きさも様々。
この大空洞にはいろんな種類のキノコが混在しており、右を向いても、左を見ても、上も下も、どこに顔を向けても、かならず視界内になにがしかのキノコの姿が飛び込んでくる。
ここはまさしくキノコによるキノコのための国であり、ひとつの世界であった。
「なんてファンシーなのかしらん!」
まるで絵本に描かれるメルヘン世界のようだ。
いやがうえにもテンションが高まるというもの。
ここまでくればもう大丈夫、危険はないそうなので私たちははぐれないようにと繋いでいたロープをはずす。
その作業中に、一行からそっと抜けたのはフルフラールの部下のうちのひとりだ。先触れとして、ひと足先に城へと報せに走ったそうな。
「わざわざごめんね」
恐縮する私にフルフラールがにこりと微笑む。
「いえいえ、我が国を訪問される記念すべきお客さま第一号なのですから、ここはひとつ盛大に歓迎をさせていただきますわ」
ハイボ・ロード種は超優良種であるがゆえに、その社会は自己完結している。
だからよほどのことがなければ他種族と関わろうとはしないし、必要性も感じない。
ある意味、究極の引きこもりである。
でも、それは裏を返せば一度もお友だちを家に招いたことがない、ぼっちみたいなものであるからして。
歓迎の意を示してくれるのはありがたい。
けれども匙加減を知らないことに、私は一抹の不安を覚えたもので「あまりお気遣いなく」とやんわり言っておいたのだけれども……
「おっふ」
私は引きつった笑みを浮かべずにはいられない。
それは道なりに進み、ひょろ長いエノキタケみたいなキノコの林を抜けた先でのことであった。
突如としてドッと湧いたのは大歓声だ。
空気のみならず地も震える。
大量に舞い踊るのは花びらならぬ、色鮮やかなキノコの傘たち。
フラワーシャワーならぬキノコシャワーにて、私たちカイザラーン勢をお出迎えしてくれたのは、キノコの国の住人たち。
沿道を埋め尽くさんばかりにて、とっても賑やか、懸命に手を振ってくれている。
興奮の坩堝にて、まるで三十八年ぶりに優勝した某球団のパレードごとき熱狂ぶりだ。
詰めかけている観衆らに、ちょいと手を振って応えれば「キャアー、キャアー」
黄色い声援の大波が返ってくる。
――これはちょっと気持ちがいいかも。
まるで自分がトップアイドルにでもなったかのような気になる。
さりとて浮かれてばかりもいられない。
これだけの大勢の耳目を集めているのだ。一挙手一投足が注目されている。
忘れてはならないのが、いまの私たちはカイザラーンを代表する立場だということ。
ここでの言動、立ち居振る舞いのすべてが査定の対象になるといっても過言ではない。
つねにその意識を持ち行動しなければいけない。
だから私はサクタとベンケイらに「気を引き締めて、みっともない姿をさらさないように」と告げ、麾下の者らに軍隊ばりにキレイな整列と集団行動をとらせた。
パレードは街中を練り歩き、その先にある丘の上に建つ? 生えている? キノコの城へと入場するまで続いた。
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