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106 地底旅行その三
しおりを挟む長い竹髪が逆立ち、風に煽られバサバサと乱れている。
落下速度はそのまま。
やはりこれ以上は遅くならないようだ。
みるみる地面が近づいてくる。
私は腹の底にグッと力を込めて、ガツンと来るであろう着地の衝撃に身構える。
だがしかし――
……
…………
………………ぷにゃん。
「――!?」
竪穴の底で待っていたのは、ふわふわとした奇妙な感触。
とても柔らかい。まるで出来立てのマシュマロにでも飛び込んだかのようだ。
上空から降りてきた私の体を受け止めてくれたのは、大きなキノコであった。
着地寸前に、ボンッ!
車のエアバックのごとく、突如として足下にあらわれたとおもったら、やわらかな傘の表面で私を包み込むようにして抱き留め、落下時の衝撃は柄の部分がスプリングの役割りをはたし、びよんびよんと吸収、散らしてしまった。
落下傘になったとおもったら、今度は高所降下用救助器具のセーフティーエアクッションになったり。
その性能はたったいま身をもって体験した通りにて。
「た、助かった……けど、なんでもアリなの? キノコの万能性、おそるべし!」
ナマモノゆえに日持ちしないのと、一回ごとの使い捨てなところだけがちょっと残念。
かとおもいきや、どちらも食べられるそうな。ただし、あくまで食べれるだけで味は保証しないとのこと。
マジでスゲーな菌類!
馴れない体験と驚きの連続。
私はややフラつきながらも、フルフラールに促されるままに急いでエアクッションキノコから降りては脇へと移動する。
だってほら、後続が次々に降りてくるからね。
モタモタしていたらサクタたちにムギュっと踏まれちゃうから。
順次、着地。
じきに全員が穴の底に揃った。
念のために荷物を検めて、なんら問題がないことを確認してから一行は出発する。
ここからは横移動にて、さらに地下深くを目指すことになるのだけれども。
「えっ」
洞窟の入り口を前にして、私は驚いた。
なぜなら、とっても丸かったから。
満月のごとき均整のとれた形にて、表面もつるつるしており、トンネルのよう。自然のものとはとてもおもえない。
「ねえ、あなたたちが整備したの?」
訊ねたらフルフラールは首を横に振った。
「いいえ元からですわ。ずっと前からこうだと聞いております」
シャンピニオン・ロードは多種多様なキノコを便利に活用する術に長けている。たいていのことはキノコで賄える。
けどその反面、自分たちの手で何かを創造したりすることは不得手にて。彼女たちがポンポンと産み出すのは毒ばかり。
ゆえにうちの匠たちがこしらえた竹細工や調度品などを、ことのほか喜んで愛用してくれているのだけれども。
彼女たちじゃないということは、天然の産物ということになる……のか? 本当に?
岩肌にそっと触れてみた。
手の平に吸いつく、しっとりした碁石のような感触に私は「う~ん」
連れてきた黒鍬衆の竹工作兵も確認してはいぶかしんでいる。どうやらヒトの手が入っているっぽい。
だったら誰の仕業ということになるのだけれども。
私たちが不思議がっていたら、フルフラールが言った。
「もしかしたら『空白の千年』の遺産なのかもしれませんわね」
空白の千年……
初めて耳にする言葉だ。
「何それ?」
「おや、ご存知ありませんでしたか。『空白の千年』というのは、その間の記録が一切存在していないナゾの期間のことですわ」
各地に遺跡が残っている旧文明。
その遺物や痕跡から、いまよりもずっともっと高度な文明を築いていたことは、まず間違いない。
けれども突如として旧文明は終焉を迎えた。
そして新たに発生したのが現在の文明なのだけれども、何もかもがガラリと様変わりしており、まるで別物。過去との関連性が欠片も見受けられない。
歴史がブツリと不自然に断絶している。
新旧文明の間には千年ほどの空白期間が存在しており、その間に何かが起きたっぽい。
生態系に多大な影響を及ぼすような、世界に劇的な大変革を強いるような何かが。
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