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102 乾物女
しおりを挟む日本だけで4000から5000種類もあるとされるキノコ。
うち食用は約100種ほど。人工栽培に成功して市場に出回っているのは、わずか20種ほどしかない。
なお毒キノコは約200種もあったりする。
国外だとキノコの既知種数は75000種、統計学にもとづく推定では150万種ほどもあるのでは? とされているが、あまりにも膨大かつ多種多様、生息場所もところかまわず多岐に渡っており、正確に把握するのは不可能とされている。
竹もたいがい種類は多いが、さすがにキノコには負ける。
桁というか、もはや次元がちがう。
では、こちらの世界でのキノコ業界の事情はどうなっているのか?
「そこんところどうなの?」
私が訊ねたところ、フルフラールは「さぁ」と小首をかしげた。
どうやら女王さまでも、すべては把握していないらしい。
それぐらい多いということであろう。
フルフラールが率いるシャンピニオン・ロードと私たちカイザラーン。
キノコとタケノコは同盟を結んだ。
それを機に、まずは交流がてら交易を始める。
シャンピニオン・ロード側からは薬用および食用のキノコ類を、うちからは竹由来の品々を物々交換にてやり取りする。
意外にもキノコたちに好評なのは、竹で作った小物や家具などの調度品。
和テイストがことのほかお気に入り。
そのためかフルフラールみずから、わざわざ交易隊を率いては、毎度毎度、うちの竹林にやってくる。
そして決まって七日から十日ぐらい屋敷に長逗留をしては、仕事は部下にまかせて自身は喰っちゃ寝して、ごろごろ過ごす。
私もあまり他人のことを言えたぎりではないけれど。
なかなかの干物女っぷりだ。いや、キノコだから乾物女か。まぁ、どちらにせよ、せっかくの美人が台無しである。
あと、彼女の姿を通じて怠惰な己を見ているようで、ちょっと胸の奥がチクチクしちゃう。
今日も今日とて、あてがわれた……というか、もはや彼女の私室と化している部屋にて、だらだらしている女王さま。
笹の葉でくるまれた粽にかぶりついては、グビグビと竹茶を飲みゴックン。
すっかりリラックスしてはくつろいでいる。
だが彼女がこうしている一方で、私はまだ一度もキノコの国を訪れたことがない。
外交上はちょっとありえない。
では、どうして向こうから来るばかりで、こちらからは訪問しないのかといえば、それは動力の関係である。
私たち竹生命体は、基本的に地下茎を通じてリグニンパワーを供給して成り立つ、ワイヤレス竹電式にて生活をしている。
内蔵バッテリーに切り替えれば、接続を切っても動けるけど、出力が下がるのでどうしても行動に制限が生じる。時間制限も受ける。十全とはいかない。
そのため自由に動ける範囲にはかぎりがあるのだ。
一方でシャンピニオン・ロードは独立可動式だ。
ようはふつうの生き物と同じで、環境さえ適合すれば、美擬人化したキノコたちはスタスタ自由に動き回れるということ。
ただし水気は必須で、好ましい湿度は60~70パーセントぐらい。
なおヒトが暮らしやすいとされる湿度は40~60パーセントほどだ。
でもってうちは竹林に囲まれているので、湿度はつねに60前後にてマイナスイオンも多めでお肌が潤う、潤う。
これが「たいそう心地良いですわ」とフルフラール。「いっそのことうちにも竹林、作りませんか?」
ようは大使館の誘致みたいなものかしらん。
たしかに飛び地を作り地下茎さえ張り巡らせば、動力問題は解決する。
先方への移動途中ぐらいならば、内蔵バッテリーだけでも大丈夫だろう。
ちなみにキノコの国がある場所は地下にて。
樹海の南部域にある巨大な竪穴から出入りできるようになっているそうなんだけど……
「さすがに地下はちょっとねえ」
私は腕組みにて「う~ん」
移植したとて、太陽光がまったく届かないところでは、いかに竹といえども育ちようがない。
そうしたらフルフラールは「疑似的な光ではダメでしょうか」と言った。
なんでも彼女たちが住む地下には、青色に光る苔が生えており、これでキノコを育てているんだとか。
他にも地上から確保した植物なんかも栽培しているそうで。
「えっ、それってもしかしてLEDじゃないの!? だったらイケるかも」
LEDは発光ダイオードとも呼ばれる光源の一種だ。
もとの世界でも植物工場や家庭菜園、電照栽培、補光栽培などで広く使用されており、太陽光の代わりや補光として植物の光合成をサポートしている。
もしも、その光る苔が同じ役割りを果たすのならば、飛び地を造園することは可能だ。
だから、次に来るときには光る苔のサンプルを持ってきてくれるように私はお願いした。
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