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101 戦略的互恵関係
しおりを挟む温かい竹茶を飲んでほっこり。
お茶請けは竹羊羹だ。
甘味に舌鼓を打つ。
ちなみに竹羊羹というのは細い清竹の筒に入った水羊羹のことだ。甘さは控えめ、つるんとしたのど越しと、ほのかに薫る竹の匂いが爽やかにて。夏の風物詩のような和菓子である。
作ったのは竹女官のヒコノだ。彼女は料理全般が得意にて、ちょくちょく私の記憶のライブラリを覗いては、ありあわせの材料でいろいろと再現している。
茶席にて、しばし歓談する。
いい具合に互いの緊張もほぐれてきたところで……
「あらためまして、お詫びを」とヒドロキシ・メチル・フルフラールが頭をさげた。
彼女いわく。
樹海の荒れ地に君臨していた、あのシロクロコムの暴虐王を倒した一派。
あわよくば竹人形どもを支配して、奴隷としてこきつかってやろうと思っていたのだけれども失敗した。
――自分たちの能力が通用しない!
それどころかちょっかいをかけていることがバレて、仮想敵認定されてしまった。こちらの居所や動向を探られているっぽいことを、薄々察する。
さすがにこのままではマズイ。
そう考えた女王さまは、即座に方針を180度転換することに決めた。
「敵対するのではなくて友好を、戦略的互恵関係を築きましょう」
ヒドロキシ・メチル・フルフラールはぶっちゃけた。
モロ出しだ。本音全開である。
ふつうはもう少しオブラートに包むものであろうに。
あまりの明け透けっぷりに、私はポカンだ。
よくよく考えれば、さらりとトンデモナイことも口走っているし。
けれども、ここまで胸襟をさらされたら、逆に何も言えやしないよ。
むしろちょっと愉快な気持ちにすらなってくるから不思議だ。
じつにさっぱりしている。
スコンと心地良い。
これが竹を割ったような性格というのであろうか。
でもって、私は竹が大好きだ。愛している。なみなみならぬ情熱を抱いている。
ゆえにヒドロキシ・メチル・フルフラールのような……って、長いな。いい加減、面倒になってきたから以降はフルフラールと略称しよう。
フルフラールのようなタイプの女性は嫌いではない。
それにこちらとしてもハイボ・ロード種同士で争うことは望まないので、仲良くできるのならば、それにこしたことはない。
(……狙ってやったとしたら、とんだ策士だけどね)
けれども私が観察したかぎりでは、ちがうようだ。
ハムハムと竹羊羹を頬張っているキノコの国の女王さま……どうやら天然っぽい。
私たちハイボ・ロード種は自己完結しているがゆえに、他種族と交流する機会がほとんどないので、たぶん外交ベタなのもあるのだろうけど。
……ったく、美人でうっかりさんとか。
可愛いにもほどがある!
こんなの世の男どもが放っておかないだろう!
モブ顔のかぐや姫もどきとは大ちがいだよ!
などと、私が内心で葛藤を抱えていたらフルフラールが言った。
「それにしてもこのお茶は口当たりがよくて美味しいですわね。うちのお茶も味はいいのですが、なんといいますか、その……お茶感がいまひとつでして」
じつはお土産として持参してきているという。
お付きの方から差し出された箱を受け取る。
中には干しシイタケっぽいのが、びっしり詰まっていた。
それを見て私は「あー」と独りごちる。
彼女のいうところのお茶とは、キノコの出汁であったのだ。
いかにもキノコの国っぽい。
キノコには旨味成分のグアニル酸がたっぷり含まれている。
グアニル酸は、グルタミン酸やイノシン酸といった強い旨味成分と並んで三大旨味成分と言われるほど。他の旨味と合わせることで、さらにパワーアップする。
ゆえにお茶としてはたしかにダメだが、料理との相性はバツグンにて。
しかも極上の品質を誇る乾物となれば、その価値は計り知れない。
嘘か誠か、戦国時代には干しシイタケ10貫(約40キロ)で城が一つ買えたとか。
さすがにこちらの世界でもそれぐらいの価値があるとはおもわないが、少なくとも私の食生活はおおいに潤う。
それだけでも手を取り合うには十分な理由であった。
ゆえに細かいことはサラっと水に流し、私はフルフラールと固く握手を交わす。
かくして有史以来、初となる竹とキノコの同盟が成立した。
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