100 / 130
100 月下の会談
しおりを挟む月の明るい夜であった。
待ち合わせ場所の丘へと私はおもむく。
お供は竹女武将のマサゴと竹女官ヒコノのみ。
サクタとどちらにしようか悩んだんだけど、竹侍将軍だと貫禄と威圧が凄すぎて先方をビビらせてしまうと考えて、彼女を連れていくことにした。
なおヒコノはおもてなし要員にて。
えっ、二体だけ? いくらなんでも油断し過ぎじゃないの……
心配ご無用、そこはそれ、ちゃんと考えてある。
じつは丘の周辺にはコウリン麾下の竹忍者軍団が潜んでおり、何か異変があればすぐに私のもとへ駆けつける手筈となっている。
また、さらに離れたところからは竹砲兵のイスケが目を光らせている。狙撃班がスナイパー竹ライフルを構えて、いつでも射撃できるようにスタンバイしている。
さらにさらに丘の下には地下茎が張り巡らされてあるので、ここはすでに私のテリトリー。その気になればどうとでも……といった次第にて。
丘の上に朱色の大きな竹染布を敷き、長椅子を並べ、赤い傘を立て、茶箱を設置する。
茶箱はお茶の道具一式が収納されている長櫃で、それ自体が調理台にもなり、いつでも茶釜で湯を沸かせるようになっている。なお火力はワイヤレス竹電式を利用した、なんちゃってIH式だ。三人竹官女のリクエストでウンサイさんが作ってくれた竹漆の逸品。
なお竹漆は、竹で編んだ文様と漆塗りぼかしを組み合わせたモノで、刷毛目のない美しい仕上がりと深い艶が特徴だ。漆を塗り重ねて竹の風情を表現する、めずらしい漆器工芸である。
屋外でお茶を楽しむ野点っぽく会場をセッティング。
本来であれば呼びつけたほうが饗応するのが筋なれども、まぁ、細かいことは気にすまい。
〇
月がちょうど丘の真上へと差しかかった頃。
ひゅるりと穏やかな西風が吹く。
それとともに上空より何かが、こちらへと近づいてくるのが目に入った。
飛ぶ……というよりかは、空に浮かんでいるかのよう。
水中を遊泳するクラゲを連想させる動きにて、ふわり、ゆらり、ぷかり。
十ほどの小集団にて。
「待ち人来たる、か。にしても、これはまた……」
やがて目の前に降り立った面々に、私はしばし言葉を失う。
雅な集団を率いていたのは、ひらひらと波打つドレスをまとった女性であった。
月の明かりを受けてきらめく長い髪は白銀色にて、肌もまた白い。
というか、目も唇もドレスも、何もかもが白い透明感のある貴婦人。
彼女の背後に控えている者たちも色こそはちがえども、みな美麗にて。
「こちらの呼びかけに応じてくださり、ありがとうございます」
貴婦人がドレスの裾をつまんでは、優雅にお辞儀をする。
配下の者たちも一斉にカーテシー。
これがまた絵になる。まるで歌劇のワンシーンを見ているかのようだ。
「わたくしはヒドロキシ・メチル・フルフラール。シャンピニオン・ロードの長ですわ。以後、お見知りおきくださいませ」
「あっ、これはどうもご丁寧に。私は竹姫、よろしくね」
なんと、貴婦人は女王さまであった。
が、それよりも驚いたのは彼女の発した単語である。
シャンピニオン・ロード!
ロードの名を冠する者。
それすなわち私と同じハイボ・ロード種だということ!
優秀であるがゆえに自己完結している。
だから他者との交流を必要としない。
用がないので、めったに人前にはあらわれず。
引きこもりが過ぎて半ば伝説・神格化しているような存在、それがハイボ・ロードという種族だ。
いろんなタイプがいるらしいとの情報は、ジュドーくんから聞いていたけれど。
よもや向こうから接触してくるとはおもわなかった。
ちなみに私は竹のハイボ・ロードにて、彼女はキノコなんだってさ。へー。
いわれてみれば、ひらひら具合とかが、どことなくキノコの傘の裏のひだっぽく見えなくもない。
……そういえば白いキノコで見た目はキレイだけど、食べたらイチコロゆえに「殺しの天使」とか「死の天使」なんて呼ばれていた物騒なのがあったっけか。
というかキノコを見た目で判断したら痛い目をみる。
素人がけっして手を出してはいけないモノの筆頭がキノコだ。
見た目にダマされてはいけない。
私は気を引き締めつつ、表向きは努めてにこやかに。
「まぁ、立ち話もなんですから」
彼女たちを茶席へと誘った。
15
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治
月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。
なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。
そんな長屋の差配の孫娘お七。
なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。
徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、
「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。
ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。
ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。
御者のお仕事。
月芝
ファンタジー
大陸中を巻き込んだ戦争がようやく終わった。
十三あった国のうち四つが地図より消えた。
大地のいたるところに戦争の傷跡が深く刻まれ、人心は荒廃し、文明もずいぶんと退化する。
狂った環境に乱れた生態系。戦時中にバラ撒かれた生体兵器「慮骸」の脅威がそこいらに充ち、
問題山積につき夢にまでみた平和とはほど遠いのが実情。
それでも人々はたくましく、復興へと向けて歩き出す。
これはそんな歪んだ世界で人流と物流の担い手として奮闘する御者の男の物語である。
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~
真心糸
ファンタジー
【あらすじ】
ジュナリュシア・キーブレスは、キーブレス王国の第十七王子として生を受けた。
キーブレス王国は、スキル至上主義を掲げており、高ランクのスキルを持つ者が権力を持ち、低ランクの者はゴミのように虐げられる国だった。そして、ジュナの一族であるキーブレス王家は、魔法などのスキルを他人に授与することができる特殊能力者の一族で、ジュナも同様の能力が発現することが期待された。
しかし、スキル鑑定式の日、ジュナが鑑定士に言い渡された能力は《スキル無し》。これと同じ日に第五王女ピアーチェスに言い渡された能力は《Eランクのギフトキー》。
つまり、スキル至上主義のキーブレス王国では、死刑宣告にも等しい鑑定結果であった。他の王子たちは、Cランク以上のギフトキーを所持していることもあり、ジュナとピアーチェスはひどい差別を受けることになる。
お互いに近い境遇ということもあり、身を寄せ合うようになる2人。すぐに仲良くなった2人だったが、ある日、別の兄弟から命を狙われる事件が起き、窮地に立たされたジュナは、隠された能力《他人からスキルを奪う能力》が覚醒する。
この事件をきっかけに、ジュナは考えを改めた。この国で自分と姉が生きていくには、クズな王族たちからスキルを奪って裏から国を支配するしかない、と。
これは、スキル至上主義の王国で、自分たちが生き延びるために闇組織を結成し、裏から王国を支配していく物語。
【他サイトでの掲載状況】
本作は、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも掲載しています。
冒険野郎ども。
月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。
あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。
でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。
世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。
これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。
諸事情によって所属していたパーティーが解散。
路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。
ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる!
※本作についての注意事項。
かわいいヒロイン?
いません。いてもおっさんには縁がありません。
かわいいマスコット?
いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。
じゃあいったい何があるのさ?
飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。
そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、
ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。
ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。
さぁ、冒険の時間だ。
当然だったのかもしれない~問わず語り~
章槻雅希
ファンタジー
学院でダニエーレ第一王子は平民の下働きの少女アンジェリカと運命の出会いをし、恋に落ちた。真実の愛を主張し、二人は結ばれた。そして、数年後、二人は毒をあおり心中した。
そんな二人を見てきた第二王子妃ベアトリーチェの回想録というか、問わず語り。ほぼ地の文で細かなエピソード描写などはなし。ベアトリーチェはあくまで語り部で、かといってアンジェリカやダニエーレが主人公というほど描写されてるわけでもないので、群像劇?
『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。
これがホントの第2の人生。
神谷 絵馬
ファンタジー
以前より読みやすいように、書き方を変えてみました。
少しずつ編集していきます!
天変地異?...否、幼なじみのハーレム達による嫉妬で、命を落とした?!
私が何をしたっていうのよ?!!
面白そうだから転生してみる??!
冗談じゃない!!
神様の気紛れにより輪廻から外され...。
神様の独断により異世界転生
第2の人生は、ほのぼの生きたい!!
――――――――――
自分の執筆ペースにムラがありすぎるので、1日に1ページの投稿にして、沢山書けた時は予約投稿を使って、翌日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる