竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

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099 コンタクト

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 国境をまたぎ各地を転々としては暴れまわっていた盗賊団を、罠にハメてゲットしたモルモットの数は七体。
 その内訳は……

 テリオン族、四。
 レピ族、一。
 アンスロポス族、二。

 経歴については、傭兵崩れ、兵隊崩れ、探索者崩れ、根っからの悪党などなど。野卑た面構えの成人男性ばかり。
 取り立てて重要な情報ではないし、興味もないので詳細はざっくり割愛する。
 それにしても悪事を働く時にかぎって、種族の垣根を越えて仲良くつるむんだから、思想信条、主義主張なんぞはしょせん生きるための方便でしかないのだと、あらためて痛感する。

 連れ帰った七体のモルモットたち。
 共通するのは『体が比較的まとも』だということ。

 ――そう、あくまで比較的なのである!

 ったく、盗賊団のゴロツキどもときたら。
 どいつもこいつも享楽的で不摂生な生活をしているだけあって、健全とはほど遠い状態であったのだ。
 不規則かつ荒んだ暮らし。暴飲暴食にて大半の内蔵が腐っており、吐く息は臭く、虫歯に水虫っぽいのから、皮膚病やら性病持ちまでいやがった。
 まるで病原菌の塊だ。
 あと不潔だし。

 ぶっちゃけ、うちの敷居をまたがせたくない。
 清浄かつ崇高なる竹林が穢れる。
 そりゃあ竹瀝を投与すれば肉体の状態は改善するだろうけど、そこまでするのはもったいない。
 というか心情的にやりたくない。
 だから最低限の処置のみを施し、実験に耐えうるようにだけしておいた。
 でもって、さっそく監禁してキノコの胞子を移植し、経過観察を行ったところ……

 テリオン族とレピ族、ともに発芽はするも根付かず。
 アンスロポス族にのみ定着が確認された。

 症例データが少ないのであくまで憶測の域を出ないが、種族特性による肉体強度のちがいではないかとおもわれる。
 獣人とリザードマンは、見た目そのままに丈夫である。
 一方で毛のないサルは、やや虚弱体質にて。
 生来の抵抗力の差が、そのまま結果に反映されたっぽい。

 ところがアンスロポス族であれば、みんなゾンビキノコに寄生され操られるようになるのかといえば、そういうわけでもないらしい。
 定着が確認された二体を観察すること、さらに三日後のこと。
 実験体Aの方に生えていたキノコがポロッととれた。なんの脈絡もなく、いきなりのことであった。どうやら土壌との相性が悪かったせいで、根腐れを起こした模様。
 ゾンビキノコ……意外と好みがうるさいようだ。

 これにより残るは実験体Bのみとなる。
 貴重な検体ゆえに、大事に育てること、さらに二日。
 それは突如として始まった。

 すでに自我を失い目も虚ろ、日がな一日ヨダレを垂らし、ぼんやり過ごしていた実験体Bが、いきなりスクッと立ち上がったとおもったら、直立不動にて――

『ガー……、ピー……、当方にそちらと交戦の意思なし。ピー……、ピー……、くり返す。当方に交戦の意思なし……』

 いきなり生体スピーカーと化した実験体Bが、そんな言葉を発したもので、居合わせたラボのメンバーらが面喰らったのは言うまでもない。
 どうやらゾンビキノコによって傀儡とされた者の口を通じて、こちらに呼びかけているようであるが……いったい何者であろうか?

  〇

 ゾンビキノコがとり憑いた者の口を通じて、私たちとコンタクトを試みている存在がいる。
 しかし会話は出来ない。
 あいにくと双方向性ではないので、向こうから一方的にメッセージを送ってくるばかり。
 ようはラジオの電波を受信しているようなものだ。

 その何者かは『直接会って話がしたい』と言っている。
 会談の申し込みだ。
 指定された日時は十日後、時刻は夜、場所は樹海の荒れ地近くの丘にて。

 私は麾下の主だった者らと相談の上で、この誘いに応じることに決めた。


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