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098 モルモット
しおりを挟む焚き火を囲んで野営している商隊があった。
辺境の町と最寄りの中核都市とを繋ぐ街道途中でのこと。
十台もの荷車や馬車による隊列のわりには、少し護衛の数が少ないのは雇い主が費用をケチったせいか。あるいは何度も行き来している道であるがゆえに「きっと大丈夫だろう」との油断もあったか。
だがしかし、えてしてこういう時にかぎって災いは降りかかるもの。
そして「しまった!」と後悔するも、あとの祭りにて……
少し離れた草むらに身を潜めては、宿営地の様子をうかがっている一団があった。
ひとところに拠点をおかず、各地を転々と渡り歩いては、暴虐をくり返してきた盗賊たち。
お宝をどっさり持ったカモのウワサを聞きつけて、ここで待ち伏せをしていたのだ。
夜討ちを仕掛ける腹積もりにて。
じきに斥候役から合図がきたもので、覆面姿の盗賊たちは無言のまま一斉に動き出す。
いちいち言葉なんてかけない。
問答無用で襲っては、包囲殲滅する。
奪い、犯し、殺す。
たとえ赤子とて見逃さない。
半端な情けをかけたせいで、自滅した同業者らは数知れず。
だから非道に徹する。そうすればたとえ事件が発覚したとて、その頃にはもうまんまと遠くに逃げおおせているという算段にて。
不意に玉が焚き火に投げ込まれたとおもったら、ぼふん。
鈍い音と煙が発生し、炎が消えてしまった。
一瞬にして辺りが闇に包まれる。
にもかかわらず、平然と動くのは盗賊の仲間たち。
あらかじめ目を閉じておき、闇に目を慣らしていたのだ。
油断しているところを視界を奪い、いっきに制圧する。
この盗賊団のいつもの手口であった。
素早く獲物へと駆け寄り、躊躇なく一刀を見舞う。あるいは刺し貫く。
何度も繰り返してきた襲撃。
……のはずであった。
だがしかし……
「ん? なんだ」
襲撃直後に、盗賊たちの間に広がったのは戸惑いであった。
得物越しに伝わってくる手応えがいつもとちがう。
それにいかに有無を言わさぬ強襲とて、わずかながらに抵抗にあいもすれば、苦悶の声や微かな悲鳴が漏れるもの。
なのに、それもなし。
現場はまったくの無音――
かとおもえば聞こえてきたのが。
カタカタカタカタ……
何かが小刻みに震えては、ぶつかり合っているかのような音。
盗賊のうちのひとりは、ひゅっと息を飲む。
音はたったいま自分が刺し殺した相手からしていた。
ぼんやり座っていたところを、背後から心の臓をひと刺し。
なのに刺された当人は平然としているばかりか、ぐるりと首を180度回転させては、自分の方を向いた。
ヒトかとおもわれたそれは、等身大の竹人形であった。
モブ顔のお面をつけた竹人形の首や肩が、まるで笑っているかのように震えていた。
カタカタカタカタカタカタ……
〇
盗賊たちは全員捕縛完了。
うるさいから竹の猿轡をかませている。
襲われた商隊は竹人形たちが偽装したものにて。
目的はもちろんモルモットの確保である。
現在、私たちカイザラーンはゾンビキノコからの侵略攻撃にさらされている。
いまのところは問題ないが、敵を知り己を知らば百戦危うからず、と孫子大先生もおっしゃっている。
なのでゾンビキノコを鋭意調査中なのだが、その過程で気になったのが人体への影響である。
私たち竹生命体には通じないものの、下級の獣や禍々は操れるのだ。
もしもこの世界における人類たちにも通用するとなれば、脅威度がいっきに跳ね上がる。
だから、是が非でも知りたいところ。
――モルモットが欲しい。
とはいえ、私たちは樹海の東部域の竹林にて隠遁生活を送る身だ。
外部との伝手といえばジュドーくんぐらい。
そこで私は彼に相談した。
「ねえ、どっからか調達できないかな?」
イーカリオスみたいに奴隷制度のある国があるのだ。
その気になればどうにかなりそう。
するとこれに対するジュドーくんの解答が「でしたら賊を狩りましょう」であった。
グッドタイミングなことに、辺境を荒らしまわっている盗賊団が出没しているそうで、そいつらならば煮て喰おうが、焼いて喰おうがノープロブレム。
退治すればみんなのためになり、私たちはモルモットが手に入り、おまけに懸賞金まで貰えちゃう、一石三鳥にて。
問題はどうやって賊どもを釣り出すのかであったが、そこはジュドーくんが引き受けてくれた。
とはいっても別にむずかしいことはやっていない。
適当に盛り場をブラついては、エサとなる商隊の情報をそれとなくばら撒いただけのこと。
あとは勝手に連中がパクリと喰いついてくれたという次第。
にしてもまさか一発目で釣れるとはおもわなかったけどね。
盗賊団は総勢33名にて、種族はごちゃまぜ。
おもっていたよりも大所帯であった。
うち、とりあえず活きがよさそうなのを七体ほど見繕ってお持ち帰りする。
賞金首である首領および残りは全員首を刎ねた。
生きたままだと、後始末をするジュドーくんがたいへんだからね。
なお首さえあれば懸賞金の支払いは問題ないとのこと。
事後報告を受けた私は「ごくろうさま。それじゃあ、あとは手筈通りにお願いね」と竹電話を切った。
「よし! モルモット、ゲットだぜ」
えっ、罪悪感?
ナイナイ。
だって私、竹だもの。
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