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096 忍び寄る魔の手
しおりを挟む自分から採取したキノコ。
ひょろっとした白い見た目は、エノキタケっぽい。
とはいえ私こと竹姫さま印だもの。ひょっとしたら松茸ばりに薫り高く……は、ないね。スンスン、無臭だ。
でも美味なのかもしれない。もしくはスゴイ栄養成分があるのかも。
だから念のために第二拠点のラボへと持ち込み、分析をお願いしておいたのだけれども……
翌日の昼頃、ウンサイさんから報告したいことがあるから、第二拠点へ来て欲しいとの連絡を受けた。
有用性は認めているものの、私は古代遺跡を改装して利用している第二拠点があまり好きではない。だから日頃はほとんど近寄らず、運営は黒鍬衆に一任している。
それは周知の事にて。
なのに、わざわざ呼びつけるとは珍しい。
「いったいなんじゃらほい?」
私は小首をかしげつつ、第二拠点へと向かった。
〇
第二拠点、地下四階の長い廊下を抜けた先にある陸の孤島のような研究室。
ここはバイオセーフティーレベルが4に設定されている特別室だ。
ちなみにレベルは四段階あって。
レベル1が通常の微生物実験室で、特別に隔離する必要はない類の実験を行っている。
レベル2は許可された人物のみが入室できる。
レベル3は封じ込め実験室である。出入りは厳しく制限されており、厳格な手順を経るようになっている。エアシャワーや消毒に洗浄、換気などにも気を配っており、排気は高性能フィルターを通し除菌した上で大気に放出する。
そしてレベル4だが、最高度安全実験施設である。
扱われるブツについては言わずもがなであろう。
こんな場所に呼ばれた理由、それは……
「どれどれ……」
ウンサイさんから促されるままに、私は顕微鏡を覗き込む。
眺めているのは私が分析を依頼したキノコの細胞の一部だ。
レンズの向こうで菌糸たちが元気にウゴウゴしている。
まぁ、それはべつにかまわない。
問題は、この菌糸の――というか、キノコの性質であった。
じつは数日前から私と同じく、キノコが体に生える竹人形がぽつぽつ出現していたそうで、「なんだこれ?」とラボに持ち込まれていたそうな。
ぱっと見、害はなさそう。検査してみたところ、生えた者の身にも特に影響はなかったもので、さして緊急を要する案件とは考えず。ゆえに私のところにまで報告があがっていなかった。
事態が急変したのは、研究員のひとりがふと「これってば、竹人形以外にも生えるのかしらん?」との疑問を抱いたこと。
さっそく試してみた。
結果、奇妙なことが判明する。
その辺にわんさか生えている竹には一切寄生せず。
生えるのはもっぱら竹人形ばかりだ。
意味がわかんない。
両者のちがいといえば、自我があって動くかどうか。
そこで竹人形だけでなく、他の生物でも試してみた。
捕獲した角ウサギに移植してみる。そうしたらばっちり根付いたのだけれども、とたんにウサギの様子がおかしくなったのである。
それまでは檻の中で「キーキー」やかましく暴れていたのが、とたんにおとなしくなったとおもったら、カクカクとしたロボットのような動きになったのだ。
まるでリモコンで操られているかのような、不自然な動き。
で、より詳細に調べてみれば、生えたキノコから微弱な電波が発生しており、どこかと送受信をしていることが判明する。
ただし、大元は辿れず。
電波があまりにも微弱なのと、あちこちに生えているキノコを複数経由しているせいだ。いろんな国のネットワークを経由してちょっかいを出してくるハッキングのようで、あまりにも複雑すぎてしっぽを掴ませない。
どこからかキノコの胞子が飛んできて、私たちの体に付着して苗床とし発芽する。
ありえない話ではない。
だが、それが竹人形や生き物のみを対象にしているとなれば、話がちがってくる。
ばかりか、角ウサギのように操られる危険があるとなれば、それは……
「もしかして……私たちってば、現在進行形で何者かから攻撃を受けている!?」
それを危惧しがたゆえの、ウンサイさんからの呼び出しであった。
やれやれである。
どうやら休暇はおしまいのようだ。
新たな戦いが幕を開けようとしているらしい。
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