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091 内憂外患、その五
しおりを挟む混成軍ゆえに、各種族の特性を活かして戦う、個のケラスィア軍。
統一かつ統率された集団が、指揮官の意思決定の下で忠実に戦う、全のイーカリオス軍。
戦争では数が物をいう。
という、私の前世の常識に照らし合わせれば、有利なのはイーカリオス軍である。
しかし、ここは異世界にて。
異能を持つ凶暴な禍々なるバケモノどもが跳梁跋扈し、マギアという魔法のような能力を持つ者たちが文明を築いている。
それに私は知っている。
圧倒的な力にて君臨した絶対的な個の存在を……
ケラスィア軍の各部隊が次々に光の障壁を破壊していく。
大盾部隊による第一陣が突破された。
イーカリオス軍は第二陣の槍部隊にて迎撃しようとするも、勢いに乗った鋒矢の陣形は止められない。バラけたがゆえに狙いが定まらない。
突き出した穂先をそらされ、長柄をかちあげられては、下を掻い潜られてしまう。
槍衾はろくに機能せず。
第二陣もこのまま蹴散らされるのか?
そうおもわれた矢先のことである。
ドドドドッ……
土煙をあげては大地を蹴る蹄。
混戦となりつつある前線に駆けつけたのは騎兵だ。
ただし、ただの騎兵ではない。
白銀色の地に金糸にて模様が描かれた甲冑に身を包み、背には大剣を持ち、跨っている馬は六本足にて。風でたなびく鬣が焔のように揺らめき、大きくて筋肉質でありとても猛々しい。
あらわれた瞬間に、明らかに戦場の空気が変わった。
味方からはドッと歓声があがり、敵方には緊張が走る。
駆けながら二メートルを優に越える大きな剣を抜いた騎兵、その全身がボウッと愛馬もろとも白い炎に包まれた。
とおもったら、ぶぅんと一閃!
衝撃波が発生し、前方の地面をえぐり、三日月の形をした深い溝を描く。
これにより進撃を止められたケラスィア軍の部隊。
足踏みをしているところへ、騎兵が襲いかかった。
白刃が閃き狙うは部隊長である。
だが鋒矢の陣を預かる者とて只者ではない。
むざむざ首を差し出すわけもなく、当然のごとく両雄はぶつかった。
凄まじい剣戟が鳴り響く。
刃風が吹き荒れ、閃光と激情がほとばしる。
雄叫び!
得物同士がぶつかり合っては、火花を散らす。
互いに一歩も退かぬ。息もつかせぬ攻防、激しい応酬による真っ向勝負を、周囲は固唾を飲んで見守っている。
そこかしこにて似たような光景が始まった。
上空から高見の見物をしている私は「おぉ!」おもわず身を乗り出し興奮を隠せない。
なにせ映えるんだもの。「一騎討ちは戦場の華だからねえ」
しかしこれはふつうではありえない光景にて。
なぜならアンスロポス族はマギアの扱いにこそ長けているものの、他種族に比べたら肉体強度はさほどでもないはずだから。
なのに接近戦にて単独でここまで戦えている。
そのからくりは、おそらくあの見事な装飾を施された装備類にあるのだろう。それで足りない分を補っているのだ。
とはいえ、いかに優れた武器や防具があろうとも、十全に使いこなせる腕があったればこそ。
そしてそれが可能なのがイーカリオス軍にて騎乗を許された騎士たちなのだろう。
ケラスィア軍の部隊長たちが一騎当千の猛者揃いならば、イーカリオス軍の騎兵たちもまたしかりというわけだ。
「……もっとも、うちのサクタやマサゴらにはおよばないけどね。ジュドーくんなら装備次第でいい勝負をするかも」
外部協力員のジュドーくん。
取引の絡みにて、ときおりうちの屋敷に顔を出している。
ついでにサクタらに稽古をつけてもらっており、そのかいあってか、いまでは緑海程度ならば余裕で単独踏破できるほどにはなっているのだ。
〇
あちこちで始まった一騎討ちにより、前線が停滞する。
だが、それを座して眺めているほど戦場は甘くない。
大多数の注意がそちらに集中している裏では、両陣営ともにちゃっかり別働隊を動かしており、新たな戦局を迎えようとしていたのだけれども……
お陽さまが姿を消した。
みるみる黒い雲が増えていく。
風も強くなってきた。
にわかに天候が乱れ始め、ゴロゴロと雷鳴も聞こえてきたとおもったら、それがどんどんと近づいてくる。
そんな気配はまるでなかったというのに、あまりにも唐突であった。
空模様が激変する。
飛んでいる竹蜻蛉はもろに影響を受けてしまい、視界が激しく揺れる。
このままで墜落しかねない。私はいったん雲の上へと避難することにした。
天の理が崩れる――
はたしてその影響はどちらに利するのか。
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