竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

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090 内憂外患、その四

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 イーカリオス軍が放った大量の火球たちを前にして、ケラスィア軍は特に防ぐことも、避けることもしない。
 魚鱗の陣を維持したままで突っ込んでいく。
 もしかして、勢いのままに火の雨の下を、駆け抜けるつもりなのか?

「いくらなんでも無茶だ! 前の方はともかくとして、後続は抜けられない。まともに喰らうことになる」

 上空からその様子を眺めていた私は、おもわず叫んだ。
 が、その時のこと――
 不意にガクガクと視界が激しく揺れた。
 より正確には同期している竹蜻蛉が揺れている。
 突風だ。
 戦場の空にて、唐突に風が暴れ始めた。
 不自然かつ、雲の流れとも合致しない動き。
 ただの風ではない……人為的に吹かせたもの。
 やったのはケラスィア軍のフェリガ族である。

 翼を持つ彼らは風を読み、風を操るマギアの扱いに長けている。
 それを集団で行使することで、自陣営の上空に展開したのは気流による風の障壁。
 これが火球たちを押すように吹いては、自分たちの頭上を上滑りするようにして後方へと押しやった。

 ならばとイーカリオス軍は水平掃射へと切り替え、土煙をあげて迫り来る軍勢に向けて、岩礫や風の刃を次々と放つ。
 多彩なマギアを使いこなし、様々な局面に対応できる汎用性こそがアンスロポス族の強みにて。

 だがケラスィア軍側も負けていない。
 鋒矢の陣形をした各部隊の先頭を担うものが、手にした武器を振るっては雄叫びをあげつつ、飛んできた礫をはじき、叩き落とし、打ち砕く。風の刃をもへし折っては、麾下の者らを守る。

 ケラスィア軍の勢いが止まらない。
 でも、その足並みが突如として乱れた。
 戦場にいくつもの火柱があがったせいだ。地中より轟々と吹き出す。
 やったのはイーカリオス軍である。
 そこかしこにて乱立する火柱のせいで、ケラスィア軍の進軍スピードが落ちる。
 このタイミングで火の柱が回りはじめて、竜巻となっては、無作為に動き始めた。
 集団行使による風と火のマギアの複合技が暴れては、戦場を掻き乱す。

 こうなると固まっていては危うい。
 ケラスィア軍は魚鱗の陣を解除し、鋒矢の陣による各個突撃へと切り替える。
 その様はまるで夜空高くでパッと散る花火のごとし。
 玉が割れて、上空からいくつもの光が筋となっては地上へと降ってくる『柳』のよう。
 花火の軌跡が、枝の垂れ下がった柳のように見えることから、そう呼ばれている。

 一本一本の光の筋が鋒矢の陣をした部隊たち。
 分散したことで突進力が落ちたのかとおもいきや、さにあらず。
 むしろ進軍速度が増した。
 文字通り、矢となり敵軍へと迫る。
 けれども満を持して、それを待ち受けていたのはイーカリオス軍の大盾部隊だ。
 すかさず防御のマギアを展開する。大盾が一斉に蒼白く発光し、あらわれたのは光の障壁である。マギアを禍石を用いた特殊な装備類にて増幅させたもの。これもまたアンスロポス族の得意とするところ。

 ――これは私も知っている。

 かつて荒れ地にてパンダクマたちに挑んだときに、彼らが使用していたのを目撃した。
 スエッコが力任せにぶん投げた巨岩の一撃。
 あれはちょっとした火山弾に匹敵する。
 そんなシロモノを見事に防いでみせた。
 猛るスエッコの直接攻撃まではしのげなかったものの、なかなかの堅さにて。

「スエッコには通用しなかったものの、けっこう頑丈そうだし。さすがに生身の突進で破るのは骨が折れるんじゃあ……――って、えっ、えぇーっ!?」

 突出していたケラスィア軍の部隊が、光の障壁に接触するなり――

 パキン!

 障壁の一部が砕け、亀裂が入った。
 テリオン族である部隊長が、手にしていた槍での刺突によるもの。
 ケモ耳なテリオン族は身体を強化するマギアに特化している。もとから高い身体能力が、これによりさらに跳ね上がる。
 身体強化はアンスロポス族らも行っている。だからこそ重装備にてあれほど動けているのだ。
 しかしテリオン族の身体強化はひと味ちがう。
 ベースとなる肉体強度の差により、効果に如実に差が生じている。
 あくまでざっくりとした概算だが、アンスロポス族の身体強化がせいぜい1.5倍から2倍弱ぐらいなのに対して、テリオン族のは優に2倍強、瞬間的なものならば4倍近くの力を発動できるのではなかろうか。

 そして猛者ほどこの能力を巧みに使いこなす。
 ゆえに一撃にて障壁にヒビを入れたのだ。
 とはいえ、まだ光の盾は健在にて。
 これでは進軍がストップする。そうなれば次に待っているのはイーカリオス軍による槍衾の熱烈歓迎である。

 いったいどうするのかと私が訝しんでいると、部隊長がスッと身を退く。
 入れ違うようにして前へ飛び出したのは、ふたり。
 どちらもリザードマンタイプのレピ族にて、手にしていたのは大きな戦斧と大金槌である。
 常人では持ち上げるのもムズカシそうなそれらを軽々と操っては、先に戦斧を障壁のヒビへと打ち込んだ。
 そこへ大金槌を重ねて叩き込む。
 ようは槍でこじ開けた割れ目に、戦斧を楔として打ち込み、これを大金槌でガツンとやったという次第。
 息の合った連携による怒涛の三連撃。
 これにより光の障壁は破られた。

 目を移せば、他所でも似たような方法にて障壁が次々に突破されている。
 これにより最前線にて激しい衝突が勃発する。


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