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087 内憂外患、その一
しおりを挟むブブブブブブ……
上空の気流に乗って竹蜻蛉を西へと飛ばす。
いまだに燻っては煙を吐き続けている三連山のある荒れ地を超え、樹海を横断すること半日あまり。
かつては二時間ぐらいしかもたなかった竹蜻蛉のバッテリーも、省エネモードにすれば二日はいけるようになった。より遠隔での操作も可能になった。
ウンサイさんが率いる黒鍬衆の開発陣の研鑽の賜物である。
私が寝ている間にちくちく開発を進めてくれていたそうで。
ナムナム、ありがたや、ありがたや。
次第に緑が薄くなっていき、ついに森が途切れた。
森を抜けた先にあるのは丘陵地帯だ。
一見するとなだらかに見えるが、その実、あちらこちらに深い割れ目があって、その周囲は地質が脆く、うっかり踏み抜いて落ちたが最後、まず這いあがれない。
いまの季節はまだ地面が剥き出しだからいいが、これが雪の積もるシーズンともなれば凶悪なクレバスと化し、危険度が数段跳ね上がるので、冬季にはこの地に極力近づかないというのが常識である。
でも、あまりヒトが立ち入らないだけあって、希少な植物が自生しており、それを目当てに訪れる命知らずの冒険野郎も稀にいる。
とはジュドーくん情報だ。
探索者業界では、よく知られたことなんだとか。
ジュドーくん経由にて手に入れた地図を頼りに、竹蜻蛉を飛ばす。
地図といっても、ざっくりした内容にて詳細なことまでは記載されていない。縮尺も怪しい。だいたいこの辺にコレがあって、アレはこっちでといった具合で、必要に応じて持ち主が細かいところを書き足していくタイプ。
もっと詳しい地図もあるにはあるのだが、そういったモノは軍事機密扱いにて、世間一般には出回っていないそうな。
なお地図上では、真ん中にデデンと樹海があって、その周辺に国々が散見しており、密接に国境を接しているところはなさそうである。
どうやら中立地帯を設けて、いらぬいざこざが起こらぬようにしているようだ。
でもって樹海もまた同様にて、どこの国にも属していない。
というか、あの広大さ、旺盛な植生および生息する獣や禍々らの多彩さ、凶暴さゆえに、どの国の手にも負えなかったというのが真相であろう。
あのハートですらもが縄張りとしていたのは、せいぜい全体の五分の一ぐらいなのだから。
ちなみに現在、我らカイザラーンの竹林王国が保有しているのは東部域のみにて。全体からすれば十分の一といったところであろう。
当面はこれを維持しつつ、自陣営の立て直しおよびさらなる強化をはかり、次なる勇躍の刻にそなえる所存である。
ブブブ、ブ~ン……
薄い四枚翅を震わせ飛ぶうちに丘陵地帯を越えた。
次に見えてきたのが、平らで広々とした野原である。
「やれやれ、ようやく目的地に到着したね」
私は同期している竹蜻蛉の高度をじょじょにさげていく。
そうしたら眼下に見えてきたのは、にらみ合うふたつの軍勢――
片やどこかで見たことがあるような装備と陣容であるのは、アンスロポス族だけで構成された軍隊である。数は推定五万ぐらい。
見覚えがあるのも当然だ。
これらはかつてパンダクマらに挑んで、無惨に散っていった連中の国の軍隊なのだから。
その国の名をイーカリオスという。
けっこうな大国にて栄えているものの、プライドが高く選民思考が強いのが困りモノ。
マギアを操れる自分たちこそが優れているとかんちがいをしており、他の種族を見下しては、方々でトラブルを起こしている。
身分制度がっちがち、男尊女卑にて奴隷制度まであって……
ジュドーくんいわく。
「とにかく面倒臭い探索者泣かせの国。いくら大金を積まれても近づきたくない」とのこと。
そんな面倒な国の軍勢と対峙しているのは、ケラスィアという国の軍勢だ。
いろんな種族が混ざっており、装備もバラバラの混成軍ながらも意気は軒昂である。
ケラスィアは多民族国家にて、この世界では珍しく議会制を導入しているとのこと。
トップには議会から選出された者が就任する。なお現在のトップはレピ族の者が務めているそうな。
いい機会なので、ここで種族について触れておこう。
かつて私がいた世界とはちがって、こちらにはいろんな種族が住んでいる。
見た目はまんまホモサピエンスにて、マギアという魔法みたいな能力の扱いに秀でたアンスロポス族。
ケモ耳で尻尾のある獣人のテリオン族は身体能力に優れている。
レピ族は鱗のある者たちにて、いわゆるリザードマンタイプだ。水陸両用で力が強い。
他にも翼を持つフェリガ族、大きな体が特徴的なギガース族もいる。
そしてナゾ多き超優良種のハイボ・ロードなんてのもいる。
私たち竹生命体はハイボ・ロード種に属しているわけだけれども。
ややこしいのが、これにもいろんなタイプがいるらしいということ。
でも、よくわかっていないのは、ハイボ・ロード種が優れているがゆえに自己完結しているから。自分たちのみで社会が成り立っているがゆえに、他種族と交流する必要がないのだ。ゆえにめったに表舞台に姿をあらわさないがゆえに、幻の種族とも呼ばれている。
「……っと、どうやら開戦には間に合ったようだね。ジュドーくんからの情報どおりだ。イーカリオス国側の戦い方や実力はだいたい把握しているけど、はてさて、ケラスィア側はどうなのかしらん」
私個人の心情としては、ぜひともケラスィア陣営にがんばってもらいたいところだけれども……
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