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086 呪力
しおりを挟む手にした竹箸をじっとにらんでは「むむむむ」
念を送る。
するとあら不思議!? ただの竹箸が火箸のごとく硬くなっちゃった!
「しゅっ」
縁側から庭へと向けて棒手裏剣のごとく投げつければ、スコンと生えている青竹に突き立つ。
さりとて竹箸が本当に鉄になったとかではない。素材そのものは変質していない。ただ「硬い」という属性が付加されただけのこと。
「う~ん、これってたぶん竹姫ちゃんから竹姫さまにグレードアップした恩恵のひとつだよねえ」
まるで付与魔法のようだ。
以前に戯れで竹玉なる品を作った時に、たまたま発覚したこの能力。
アンスロポス族らのマギアや禍石を用いた技術の数々とは、明らかに毛色がちがうこのチカラ。
私は勝手に「呪力」と呼称している。
このチカラが覚醒したときには「これで私も卑弥呼さまみたいな、偉大なるシャーマニックプリンセスの仲間入りだぜ、ひゃっほう!」と浮かれて、
「きゅうきゅうにょりつりょう、おんあびらうんけんそわか、ひとふたみよ、いつむよなな、やここのたり、ふるべゆらゆら、ふるべゆらゆらと、ふるべふるべ。
あぶらかたぶら、リグニンパワー、一粒万倍日、ご利益来々。
えーいっ! 逆らうヤツは呪っちゃうぞ、テヘ」
なんぞと臆面もなくやってしまったのだけれども……
効果は祈った対象をほんのり光らせる程度にて、それ以外は特に何もナシ。
たいした使い道もおもいつかなかったので、あの時は「しょーもな!」とツッコんで、それっきりすっかり忘れていた。
それを縁側でぼんやり日向ぼっこをしている時に、ふと思い出す。
で、ひさしぶりにやってみたらこうなった。
どうやら私自身がひと皮むけ、大人のレディになったことで、呪術パワーもあがったようである。
「ほうほう、竹姫ちゃん(中)の時とは比べものにならないね。これならいろいろと実戦でも使えそうだよ」
……とおもったのだけれども、とんだ落とし穴があった。
たしかに硬くしたりなどの付与はできる。
が、それもしばらくしたら解ける。正確には計っていないけど、だいたい五分ぐらいかな。
でもって元に戻るのはいいんだけど、とたんに竹箸はぽきりぺきりと折れて、砕けて、粉々になってしまった。
私は破片を拾って確かめてみる。
「これは……中がスカスカになって脆くなっている。まるで骨粗鬆症みたいだ。ひとを呪わば穴ふたつの例えと同じで、術の反動が返ってくるのか」
一時的に強化されても、あとで弱化してしまう。
付与魔法としては正直言って微妙である。
だがその性質を逆に利用すれば、いろいろと使い道がありそう。
例えば、味方にではなくて敵にかけちゃうとか。
対象に不利な効果をもたらす、いわゆるデバブというやつだ。
うまく運用できれば、今後、出遭うかもしれない未知なる強敵との戦いがかなり有利になるはず。
(せっかく時間が出来たことだし、いろいろと試してみて、のんびり検証しようかな)
なんぞと考えていた時のことであった。
竹女官のヒコノが竹筒を手に静々とあらわれた。
恭しく差し出されたそれを受けとり、耳の辺りに当てて私は「もしもし」
この竹筒は竹電話である。
飛び地に生えた竹を通じて遠距離通話できる竹通信を、より使いやすくするためにウンサイさんが開発したモノ。
「竹姫さま、ご無沙汰しております。ジュドーです」
感度良好、ノイズもなし。
なお通信相手は唯一の外部協力員であるケモ耳の青年である。
第二次パンダクマ戦の前後から、こちらもなにかと忙しくなって、交流をしばし中断していたのだけれども、この度、私が復活したのを機に再開した。
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腕利きの探索者であるジュドーくん。
妹さんが病気だった頃には、治療のためにとある国の首都に宅をかまえていたのだけれども、妹さんが本復したのを機に、ともども辺境へと引っ越してきた。
わざわざ移住したのは私との約束を守るためと、あとは急に妹が回復したことを訝しんで、周囲がちょっと騒がしくなってきたため。
いらぬ詮索をされてはかなわないから、さっさと逃げ出してきたという次第。
慇懃かつ堅苦しい挨拶がひと通り済んだところで、ジュドーくんが言った。
「いよいよ戦争が始まりそうです。それから探索者協会より、禍々の動きが活発化しており、しばらくの間、樹海への立ち入りを自粛するようにと通達がありました」
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