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085 澹然無極
しおりを挟むカッコン……
静寂の竹林に響くは鹿威しの音。
優雅な音色に耳を傾けながら、庵の一室にて華を活けていたのは、妙齢の女性である。
腰までのびた長い髪――大垂髪を元結でまとめ、竹柄が可愛い唐衣を羽織り、裳の小腰、表着、五衣、単衣、打衣、長袴という装いがよく似合っている。
そのうしろ姿は百人一首にて「花の色は 移りにけりな いたづらに……」と詠った小野小町のようであり、艶やかさは絵巻物に描かれたかぐや姫のごとし。
いかにもやんごとなき身分であらせられる、深窓の姫君……
……といった風の竹人形。
しかしてその正体は、誰あろう私だよ!
スエッコ、カンスケ、ハート。
正式名称シロクロコムことパンダクマの三兄弟。
彼らを討伐し、その禍石を喰らったことにより、私はこの姿を手に入れた。
竹姫ちゃん(小)が、いろいろあって竹姫ちゃん(中)となり、さらにあれやこれやとあって、ついには竹姫ちゃん(大)となりにけり。
すっかり背ものびて、スラリとして、たおやかな大人の女性の姿である。
――なんという成り上がりっぷり!
こうなったらもう、ちゃん付けは似合わない。卒業でいいだろう。
今後は『竹姫さま』でいこうとおもう。
「ふふん、ドヤ? なんというモデル体型であろうか。スタイル抜群にて、一流ファッション誌の表紙を飾ってもいいぐらいだよ」
ただし、うしろ姿限定だけどね!
だって顔だけは相も変わらず、手抜きのモブ顔なんだもの!
私を含めて麾下の竹人形たち。
その役割りに応じて、体つきや機能は多岐に渡っているのだけれども、顔だけはみんないっしょ。
竹を割って作ったお面に棒線で顔がシュッシュと簡素に刻まれているのみ。
目も鼻も口も棒一本で表現されており『へのへのもへじ』以上の手抜きにて。
「ひと段落ついたことだし、そろそろ顔についてもどうにかしないとねぇ」
だが、これが意外と難題だったりする。
幾多の発明と開発を成し遂げ、我らカイザラーン陣営を裏から支えてきた、匠の技を有するウンサイさんの六本腕をもってしても、お面造りはむずかしい。
たしかに、それっぽくは造れるだろう。
でも芸術分野となると、まるで門外漢。
こういうジャンルに必要とされる技量やセンスは、まったくの別だから困りモノ。
あいにくと、うちの陣営には芸術性に特化した子はいないし……
「はてさて、どうしたものやら」
なんとぞ考えつつ、パチリ。
生け花専用の花鋏を動かしたのが、悪かったのか「あっ」
いけない、切り過ぎちゃった。
すかさず手がのびてきて、失敗した分がのけられる。
片付けたのは側に控えていた竹女官のタマキだ。
あー、第二次パンダクマ戦において壊された面々は、すでに復活させてある。
私が竹姫さまの姿となってすぐに再生した。
ハートたちの禍石を取り込んだことにより、さらにパワーアップした勢いのままに「えいや!」とまとめて復活させた。
残念ながら見た目は竹侍将軍、竹忍者頭領、竹三人官女のままであったが、みなベースが底上げされており、中身は大幅に増強されている。
とくにサクタとコウリンのふたりは、その一騎当千っぷりにいっそうの拍車がかかったもので、いまならばパンダクマらとタイマンを張っても、うかうかと遅れをとることもないだろう。
なお、これにともなって残りの主要メンバーらの改造も随時行っていく所存だ。
ネーム持ちの間で、あんまり性能に差があるのはよくないからね。
とか考えていたら、またしても「あっ」
パチリと余計なところを切ってしまった……
せっかくいい感じにまとまっていた活け花が、バランスを崩してしまい、私は「むむむ」
澹然無極である。
澹然は静かで穏やかなこと。
無極は程度が甚だしいこと。
本日は晴天にて、日に日にきな臭くなりつつある世相をよそに、我が竹林はこの上なく静かで穏やかである。
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