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083 群雄割拠
しおりを挟む不肖タケノコの身も三度目ともなれば、馴れたモノ。
「やれやれ、またか……」
慌てふためくこともなく、軽くタメ息をついては「ムーン」とかわいくアヒル口になる程度だ。もっともいまは皮かむりなので、あくまでイメージだけどね!
……にしても、である。
ハートとの戦いは熾烈を極めた。
ぶっちゃけ最後の方は、こちらも必死にてよく覚えていない。
ともに冥穴に落ちる寸前で意識を失い、それっきり――
あの時点で私も半壊していたから、たぶん無事では済まないだろうとは覚悟していたが、やっぱりダメだったらしい。
竹姫ちゃん(中)の体も、推定20万トン以上にもおよぶ大量の土砂に巻き込まれて冥穴へと落ち、ハートといっしょに圧し潰されてしまったようだ。
私が新しく生えた場所は緑海近くの竹林であった。
緑海とはうちのご近所にある草原のことである。
とはいってもふつうのソレではない。植生は旺盛にて、生えている雑草どもは子どもの背丈ほどもある。緑が深いところだと大人すらもがすっぽり隠れるほどにまでのびている。
丘の上から眺めれば、風が吹くたびに草たちが一斉に波打ち揺れる様は、まるで海原のよう。
ゆえに私はここを緑海と名付けて勝手にそう呼んでいる。
ぱっと見には草原。
だがしかーし、その実態は私の支配領域にて。
地表部分はそのままに、地面の下にはすでに地下茎を張り巡らしており、ワイヤレス竹電のシステムも構築済み。
その気になればいつでも竹林に変えられるようにしてある。
なのにあえてそのままで維持しているのは、ここが緩衝地帯の役割りをはたしているからだ。
緑海をさらに進めば岩場へと出る。
そこからさらに山をひとつ越えたら人里がある。
いわゆる辺境の町というモノにて、ケモ耳なテリオン族だけでなく、いろんな種族が集っては生活している。
とどのつまり、緑海はヒトの領域との境目ということ。
〇
私の意識が宿ったタケノコ。
新生したタケノコを最初に発見したのは、意外にも竹イヌのヘミであった。
自分たちの仕える主人が復活したことを、リグニンコードを通じてみなすぐに感じ取れたものの、詳細な場所を特定するまでには若干の時間を要する。
手分けして探すなかにあって、私のもとへ「ハフハフ」しっぽを振りながら、いの一番に駆けつけたのがヘミであった。
待てがちょっと苦手で、いろいろと残念なところがある子だけど、ここぞというところでは献身ぶりを見せるんだから……ああん、もぅ。グスン。
なお、私が再生するまでの間は竹女武将のマサゴが中心となり、ウンサイさん、ベンケイ、イスケらと協力してカイザラーンの残党をまとめてくれていたそうな。
「なんか……いろいろと心配をかけてごめんなさい」
と謝れば、みな「いえいえ、もったいないお言葉です」とばかりに首を横にブンブン振っては、私の復活を喜んでくれた。
にしても目覚めて何が驚いたのかって、それは時間の経過である。
なんと、あの戦いよりすでに180日ほども経っていたのだ!
我ながらかなりの寝坊助さんであろう。
まぁ、それだけ精も根も尽き、消耗が激しかったのだろうけど。
ちょっとした浦島太郎気分にて、その間に起こったことについて私は報告を受ける。
まずスエッコとカンスケについては死亡が確認されており、すでに禍石も回収済み。
懸念事項であった遺物も確保されており、第二拠点のラボにてウンサイさんらが鋭意解析中とのこと。現在までに判明していることについては、また後日にということで。
ハートについては冥穴に落ちて、地底深くに埋まってしまっており、死骸および禍石は発掘できていないので、消息は不明とされている。
だが万が一のこともある。
念のために旧竹要塞跡一帯には継続して見張りを立てており、何かあればすぐに報せが届くように警戒を続けているとのことだが、いまのところそれらしい兆候は皆無にて。
パンダクマ三兄弟についての報告は以上である。
そしてお次は彼らがいなくなったことによる影響について。
絶対の力を誇った王が死んだことにより、三連山のある荒れ地や周辺の樹海の生態系が大きく崩れた。
いままで首根っこを抑えられて虐げられていた者たちが動き出す。
枷がはずれたことで始まったのが、熾烈な縄張り争いと生存競争である。
これにより樹海は群雄割拠の様相を呈し、戦国時代に突入した。早くも台頭し始めている勢力もあるんだとか。
これは決して禍々や獣たちだけの話ではない。
樹海での異変の余波は外界にもおよび、周辺国でも国同士での緊張が高まっているという。
そんな世の動きに対して、我らカイザラーンは沈黙を守り、ひたすら専守防衛に務めて、力を蓄えつつ主の復活を信じて待っていたとのこと。
ひとしきり報告を受けたのちに、マサゴからズイと差し出されたのはふたつの緋色の石。
それはスエッコとカンスケの禍石であった。
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