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082 リ・リブート
しおりを挟む夢を見ていた。
まだ人間だった頃の夢……
私の祖父は名の知れた庭師にて、自分の竹林を所有していた。
名人が技術と知識の粋を注ぎ込み、丹精込めて育てた竹林は、それはそれは美しかった。
祖父にとって私が自慢の孫娘であったように、私にとっても祖父は自慢であり、誇りであり、そんな祖父が造った竹林は聖地にも等しい場所であった。
「かぐや姫が降誕された伝説の地も、きっとこのように美しい竹林であったのにちがいあるまい」
と、私はつねづねおもっていたし、きっとそうであろうと信じてもいた。
だから、私は嬉しいことや悲しいこと、つらいことなどなど。
人生における岐路に立つたびに、祖父の竹林を訪れては清浄なる空気を胸いっぱいに吸い込み、梢のささやきや緑風の歌に耳を傾け、大地から活力を分けて貰っていた。
けれども、あれはそう……私がピチピチのセブンティーンの女子高生だった時のことである。
うっとうしい梅雨が明け、夏の気配がひしひしと迫るなか。
放課後、ちょいと祖父の竹林に寄り道しようと思い立つ。
しかし、行ってみたら驚いた。
なぜなら鉈を手に徘徊している不審な若者がいたからである。
恐怖、鉈男あらわる!
徹夜で呑んだくれた直後のごとく顔色はよくない。目の下にもひどいクマがあり、髪の毛はボサボサ、無精ひげを生やしていた。
格好はヨレヨレのTシャツに擦り切れて穴あき寸前のジーンズ、ネズミ色に変色し薄汚れたキャンパススニーカーを履いている。
なお鉈はサビだらけにて、切れ味は悪そう。
そんな鉈を持った男は血走った目にて周囲をキョロキョロ。
最寄りの竹を眺めては、ときおり撫でまわし、頬擦りをしてはブツブツと何ごとかをつぶやいている。
いったい何をつぶやいているのかと、聞き耳を立ててみれば……
「かぐや姫はどこだ? オレだけを甘やかしてくれる、優しくて可愛くて、胸の大きなかぐや姫はいったい何処?
ちなみにオレは嫁を大事にする男だ。
まかりまちがっても、浮気なんぞはしないぞ。ギャンブルだってしない。酒は……ちょっぴりたしなむ程度だ。
そしてネコ好きを公言してはばからないけれども、じつはイヌも好きだったりする。
あぁ、かぐや姫、かぐや姫、ほら、怖くないよ。恥ずかしがらずに出ておいで」
このようなことをのたまっていた。
……ただの酔っ払いのようだ。
どうやら付き合っていた彼女に浮気をされて、フラれた腹いせに自棄酒をしたあげくに、なにを血迷ったのか、竹林にてかぐや姫探しに精を出しているっぽい。
「――――――」
私は眉間を親指でぐりぐり。
頭が痛い、またぞろヘンテコなのに遭遇してしまった。
悪い人ではなさそうだけど、阿呆である。
さりとて放置して、祖父の竹林を傷つけられてはたまらない。
そこで私はいったん引き下がり、伐採した竹が保管してある所まで行くと、そこから一本の竹を抜き出した。
枝打ち済みにて、いい塩梅に乾いている竹。
直径は8センチぐらいで、長さは3メートルほど。余分な水分が抜けており、見た目よりも軽い。
それを手にふたたび不審者のところへと戻った私は、無言のままドン!
長柄の竹槍にて突きを放つ。
背後から腰の辺りを狙ったつもりが、ちょっと竹がしなったものでズレて、お尻の方へと。
男が運悪く前屈みとなっていたことも重なって、竹の先端はお尻の割れ目へと吸い込まれてしまった。
「ぴぎゃっ!」
いきなりゴン太なカンチョー攻撃を喰らった男は飛び上がらんばかりに驚き、そして痛みのあまり悶絶にて、ついには口から泡を吹いてバタンと倒れた。
やってしまった。
私が「あちゃあ」と天を仰げば、竹の葉たちがカサコソ揺れる。
それが私の耳には「しょうがないよ、いまのは不可抗力。どんまい!」と励ましているかのように聞こえたもので、「そうだね。いまのはしょうがないよね」
とりあえず鉈は没収する。
気絶している男は放置しておく。
さすがに通報するのは気の毒だし、起きたら勝手にどこかに行くだろう。
私は倒れている男にナムナムと手を合わせてから、そそくさと立ち去った。
〇
う~ん、くだらない。
どうでもいいことを思い出してしまった。
にしたって、なんて実のない夢であろうか。
どうせならばもっと役に立ちそうな夢、もしくはステキな夢を見ればいいのに。
あんまりな内容ゆえに、私はつい「しょーもなっ!」と叫んでいた。
すると、そのひょうしにパチリと目が覚めた。
時刻は夜更け。
所は竹林。
空にはお月さまがにっこり微笑んでおり、月光で優しく照らしている。
でもって私は毎度お馴染みのタケノコ姿にて……
竹姫さまの異世界生存戦略。
リ・リブート。
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