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077 第二形態
しおりを挟む自分でやっておいてなんだが、目の前の光景が信じられない。
私たちが操縦するタケノヤマタオロチがパンダクマのハートを攻め立てている。
あまりにも一方的な展開にて、「ひょっとしたらこのままイケちゃうんじゃないの?」との考えが、かま首をもたげる。
さりとて、ここで調子に乗っていいような相手ではないことは百も承知。
仮にも一度、私を……私たちを完膚無きまでに叩き潰し、全滅させた猛者だ。
だから油断はしない。
むしろいっそう気を引き締め、集中、集中……
「――って、なっ!」
そんなことを考えていた矢先のことであった。
異変が生じる。
第一の首による砲撃、第三の首による火責め、第六の首による溶解液の散布、という地獄の三重奏の渦中より突如として聞こえてきたのは咆哮。
「ぐるがぁあぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁーっ!」
ハートが吠える。
状況からして苦痛から発したものかとおもいきや、ちがった。
続いて蒼炎の奥より飛び出したのは黒い光である。
漆黒なのに雷にも似た鮮烈な輝きを宿す。
それが幾本も幾本も。
さりとて空から落ちてきたわけじゃない。
地上から発したもの!?
輝きがどんどんと強くなっていく。
目が眩む。
とっさに私は手で目元を庇った。
視界が一瞬、途切れる。
その刹那――
ずぅうぅぅぅぅぅ~ん。
重たい音がして、地響きも起きた。
大型決戦兵器のコクピット内にいる私たちですらも感じるほどの音と揺れ。
「な、何が起こったの?」
慌てて手をのけて確認した私は「えっ!」と固まる。
ついさっきまで、そこにいたはずのハートの姿がない。
目を離したのは、ほんのわずかなこと。
それこそ一秒かそこらだ。
だというのに、あの巨体がかき消えてしまった。
起きた異変はそれだけじゃない。
第六の首がガクッとチカラを失い、だらりとぶら下がっている……
よくよく見てみれば、首の付け根近くに深い切り込みが入っており、千切れかけていた。
ばかりか、タケノヤマタオロチの胴体の左側にも四本線の傷が――胸元からしっぽへとかけて、ざっくり走っている。
まるで首を刈った勢いのままに、胴体をも真っ二つにしようと斬りつけたかのよう。
傷跡が若干黒ずんでいる。
プスプスと燻っており、やや焦げ臭かった。
――ゾクリ。
私は背後から感じた殺気に反応して、機体をそちらへと向ける。
そうしたらハートがいた。
けれども様子がおかしい。
いつでも王者として悠然と構えていたのに……
厳つい見た目のくせして、白と黒のパンダ柄がちょっと可愛いかったりもする。
なのに、飢えた野獣みたいに四つん這いとなっては、その柄がすべて黒に変わっている。背中にあるトレードマークも塗りつぶされてしまった。
そして全身に黒光をまとい、バチバチと黒い稲光を発していた。
初めて目にする姿に、私の本能が激しく警鐘を鳴らす。
「くっ、どうやら私たちはまた見誤ってしまったらしいね」
あらゆる攻撃を撥ね返す強靭な肉体。
他を圧倒するパワー。
攻撃特化型。
それこそがパンダクマことシロクロコムという禍々の持つ異能だと考えていた。
たしかに、それはその通りにて、事実、スエッコやカンスケらはそうであった。
けれどもその能力には、さらに上があったのだ。
「ちくしょう……ハートたちも私たちと同じだったんだ」
私こと竹姫ちゃん(中)が、自在に竹を生やしたり、成長を促進したりするだけでなく、その竹で造ったモノを動かせるようになったみたいに、ハートの異能もまたもう一段階上へと至っていたのだ。
「てっきりパンダモドキかとおもっていたら、じつは黒雷だったなんて……」
黒雷。
日本神話に登場する雷神の一柱。
国生みの女神である伊邪那美命の死体から発生したとされている。
ハートの第二形態・黒雷。
ヤツがついに奥の手を使った。
それだけ追い詰められていたという証左である。
これにより戦いは、より苛烈な局面へと移行する。
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