竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

文字の大きさ
上 下
76 / 213

076 八つ首、猛攻

しおりを挟む
 
 タケノヤマタオロチ。
 八つの首による猛攻!

 第一の首は動く砲台にて、バンバンぶっ放す。
 第二の首は剣刃をたくさん生やしており、敵を切り刻む。
 第三の首は鉄をも焼き斬る青白い炎を轟々と吐く。
 第四の首は無類の頑強さを誇り、それ自体が盾となる。
 第五の首はそのものが巨大な槍となり、敵を貫き、串刺しにする。
 第六の首は超強酸性の竹酢液を噴射し、対象を溶かす。
 第七の首は蜘蛛の糸のごとく大量の竹ヘビを吐き出しては、獲物を絡め捕り、締めあげ、くびり殺す。
 そして第八の首は……

 第二の首による剣撃をかわし、第五の首による刺突をも避けたものの、そこでハートはやや態勢を崩す。
 そのタイミングでぐわぁんと当たったのが、第四の首による体当たり。

 シールドバッシュ!

 重たい一撃にて、受け止めようとしたハートはこらえきれずに片膝をつき、ガクッと頭が下がった。
 でも、そのおかげで命拾いをする。
 直後のこと。
 ついさっきまでハートの頭があったところへ、ガブっと噛みついたのは第八の首にて。
 他の七つに比べれば、一見すると特色のない地味な蛇首である。
 しかし、その噛むチカラ――咬合力こうごうりょくが凄まじい。
 そのチカラは約7000kgにも相当する。

 ちなみに……
 人間の成人男性の平均が70kg。
 最大級の爬虫類であるイリエワニが3185kg。
 恐竜のティラノサウルスが推定3630kg。

 第八の首の咬合力がいかに凄絶であるかがわかるだろう。
 ただ獲物に噛みつき、噛み砕き、噛み千切ることにのみ特化した首。
 ほんのわずかに牙がかすっただけで、ハートの左肩口から背へとかけて、一部の毛皮と肉が抉れて、血がにじんだ。

「――っ!」

 傷を負ったハートが這いつくばるような格好にて、ドンッと地面を蹴る。
 これにより後方へ大きく下がって、八つ首より距離をとった。
 王者が膝を屈したばかりか、傷を負い、みずから後退する。
 かつてない出来事にハートの目つきがさらに厳しくなった。

 一方でコクピット内でその様子を見ている私たちの表情も険しい。
 以前は総がかりでも傷ひとつ、まともにつけられなかった相手だ。
 でも今回は私たちの攻撃がちゃんと通じている。
 開戦してからこっち、こちらのペースで推移しており、押せ押せムードにて攻勢も強めている。
 事実、ハートは防戦一方だ。
 だが出来ることならば、先ほどの第八の首の噛みつき攻撃を決めたかったというのが、私の本音である。

 なにせハートは洞察力に優れている。
 知能も高い。荒神みたいな見た目に反して、とてもクレバーで、したたかだ。
 そんな相手に手の内を晒すのはあまり好ましくない。
 だから初手でケリがつくのならば、それにこしたことはない。
 が、結果は手傷こそは負わせたものの、まだまだ元気にて。

 後退こそはしたが、それだって闇雲に下がったわけじゃない。
 絶妙な距離だ。
 八つ首からのどの攻撃にも対応できる間合いを、考えた上での行動だ。
 かとおもえば、唐突に横へと走り出す。
 ぐるりと半円を描く軌道にて、どうやらこちらの背後をとるつもりのようだ。
 タケノヤマタオロチは八つの首の動きはどれも俊敏だが、反面、それらを支える胴体部分はどっしりしており動きはけっして速くない。
 それを早くも見切ったがゆえの、この駆け足である。
 だがしかし――

「それはいささか私たちを……、ウンサイさんら黒鍬衆のみんなをナメ過ぎじゃないかな? タマキ、お願い!」

 機体制御を担っている三人竹官女らに声をかけるなり、タケノヤマタオロチの体のそこかしこが回転を始めた。
 八つの首が一斉にうしろを向いたところで、首の付け根がガコンと動き、180度回頭。
 続いて太長い胴体部分でもガッコンと音がして、これまた回転する。
 その動きはさながらルービックキューブをガチャガチャ回すような仕草にて。
 これにより瞬時に機体の向きが変わり、背後から襲いかかろうと目論んでいたハートはギョッと大きく目を剥き、たたらを踏んだ。

 そこへ八つの首が襲いかかる!
 怒涛の連撃、破壊の嵐がパンダクマを呑み込んだ。


しおりを挟む
感想 189

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

私のアレに値が付いた!?

ネコヅキ
ファンタジー
 もしも、金のタマゴを産み落としたなら――  鮎沢佳奈は二十歳の大学生。ある日突然死んでしまった彼女は、神様の代行者を名乗る青年に異世界へと転生。という形で異世界への移住を提案され、移住を快諾した佳奈は喫茶店の看板娘である人物に助けてもらって新たな生活を始めた。  しかしその一週間後。借りたアパートの一室で、白磁の器を揺るがす事件が勃発する。振り返って見てみれば器の中で灰色の物体が鎮座し、その物体の正体を知るべく質屋に持ち込んだ事から彼女の順風満帆の歯車が狂い始める。  自身を金のタマゴを産むガチョウになぞらえ、絶対に知られてはならない秘密を一人抱え込む佳奈の運命はいかに―― ・産むのはタマゴではありません! お食事中の方はご注意下さいませ。 ・小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 ・小説家になろう様にて三十七万PVを突破。

ドアマット扱いを黙って受け入れろ?絶対嫌ですけど。

よもぎ
ファンタジー
モニカは思い出した。わたし、ネットで読んだドアマットヒロインが登場する作品のヒロインになってる。このままいくと壮絶な経験することになる…?絶対嫌だ。というわけで、回避するためにも行動することにしたのである。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

追放魔族のまったり生活

未羊
ファンタジー
魔族の屋敷で働いていたメイド魔族は、突如として屋敷を追い出される。 途方に暮れてさまよっていた森の中で、不思議な屋敷を見つけた魔族の少女。 それまでのつらい過去を振り払うように、その屋敷を拠点としてのんびりとした生活を始めたのだった。 ※毎日22時更新を予定しております

処理中です...